三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第3回:「話す」「書く」向上のカギは,中1にあり!?

工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校

2017年11月06日

「英語がトクイ」な生徒ほど,スキル間にGAPがある!?

工藤:

いろいろな学校の授業を見ていて思うのですが,いわゆる偏差値の高い子,英語が得意な子が持っているスキル間のギャップっていうのは深刻ですよね。

 

津久井:

つまり,「聞く」「話す」「書く」「読む」それぞれのスキルに隔たりがあるっていうこと?

 

工藤:

文法とか語彙の暗記には長けているんだけど,発音も含めて,スピーキング・ライティングがすごく苦手っていう。前者の技能が高いゆえギャップが大きく見えるっていうことかもしれないけど。

 

津久井:

わかる気はする。

高校生くらいになると,受験の経験もあるから,Lerner’s Beliefみたいのができちゃっているのかもしれない。音読やスピーキング活動をするのが,英語の勉強として価値があるって思っていない,というか。

 

工藤:

なるほどね。

 

津久井:

あとは,高校生くらいになると,発音ひとつとっても自分自身で「あまり上手じゃないな」って気付いちゃうから,ますます声も小さくなるし,聞こえないからPardon?って聞いているだけなのに,間違っていると思ってどんどん自信なくしちゃうっていう悪循環もあると思う。

 

工藤:

その状態を,ある程度自我の確立した高校生になってから指導するのは…

 

津久井:

厳しいよね。もちろん,できるようには努力はしていますけど…。正直,中1からちゃんとスピーキングやライティングをやっている生徒達に追いつくのは,ホントに大変。

 

 

発表技能こそ,中1から始めよう。

工藤:

やっ ぱり,中1でスピーキングやライティングをやる意味は,まだいろんなレパートリーを習っていなくて,固まった表現を使っていく,っていうことが大きいと思う。それはもう,そういう風に言うと決まっているのだから,覚えてしまえばミスする感じじゃない。第二言語習得論的に見ても,いわゆる決まったチャンクのような形,formulaic sequencesなどと呼ばれてますが,それを覚えたままの形で使うのは,かなり初期のステージから可能だから。

だけど,いろんな文法を知ってから,スピーキングやライティングをようやく始めると…。

 

津久井:

そうそうそうそう,その通り。

 

工藤:

レパートリーがいっぱいあるところからスタートするのは厳しいよね。「これ正しいのかな」って不安が常に付きまとう。それで,簡単なことでも言えない・書けなくなってしまう。

 

津久井:

英語が得意であればあるほど,頭の中にすごいレパートリーがあるから。

 

工藤:

やっぱり,最初はレパートリーが少ないが故に楽に言える・書けるのだから,中1でやらないでどうするの,と思う。

 

津久井:

関係あるかわからないけど,自分は子供のころからずっとバスケットやっていて。大学生とかセミプロみたいになってからのスキルって,小・中学生のときはできないけど,小・中学校のときの片手でシュート打てるっていう技術が,大学生になると相手をブロックして片手で打てる,に進化していくんだよね。もし,片手で打てないで,こうやって両手で持っていくと…

 

工藤:

だめだよね。

 

津久井:

相手が来たときに,ブロックできない。だから,すごく大事なスキルなんだけど,小学生のときに小学生自身が自分でそういうスキルが大事なんだって気付くことってほとんどないから。

それと同じで,英語も中学校でやっている地道なトレーニングが学年が上がるに従って,加速度的に大事になってくるときあるじゃないですか。

 

工藤:

その話,すごくわかりやすい。

中3の最後で終わりじゃないし,逆にいうと,中3の最後で花は咲かないかもしれないけど,水を少しやっておく,くらいの感覚でトレーニングを続けてもらえたら。

 

津久井:

ライティングやスピーキングの話もまさにそうで,少しずつでも発音とかを導入しておいてくれれば,将来,きっと子供たちが高校・大学に行ったときに,きっともっとポジティブな感覚で英語ができるから,ぜひやっておいてください。

中学3年間で,すごくいろいろなことが話せるように・書けるようにはならないかもしれないけど,中学校の先生方がやっていることは,絶対に意味があることなので。自分は中学校で教員になって,今は高校で指導する時間の方が長くなって,身にしみて感じてますね。

 

※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

(掲載:2017年11月6日)

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学大学博士課程前期・同大学大学博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授

・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部

・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高校教諭。

・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー

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