
槙原 宏樹 (創価中学校)
2026年01月09日
1.実践への思い―「読むこと」を探究する三つの視点
「生涯にわたり、学び続ける力の土台を磨く」ことは義務教育が担うべき使命の一つだと考えます。では、私たち国語科教師は、そのために何をすべきなのでしょうか。それは、学習者自身が「話す・聞く」「書く」「読む」といった言語活動そのものが、自分自身の成長や、よりよく生きることにつながるのだと実感できる授業を創造することではないでしょうか。
そのためにも、私は国語科の授業において、「どのように学ぶのか」はもちろん、『何を目指して学ぶのか』という目的を本質化することが重要であると考えます。学びの対象が持つ本質的な価値を学習者自身が探究することで、学びの実感を引き出すことができます。そのような授業を「読むこと」領域で実現するための観点として、以下の三つに整理しました。
①「作品」の価値を探る→「『少年の日の思い出』は、なぜ国境を越えて私たちの心に響くのか」など、作品固有の価値を追究する
②「行為」の価値を探る→「文学を読むことは自分にとってどのような良さがあるのか」など、読む行為そのものの価値を追究する
③「自分自身」の変化を探る→「『走れメロス』はあなたにとっての名作になりうるか」など、作品や文章との出会いを通して、自分の内面にどのような変化が生まれたのか、自分自身の変容を追究する。
今回報告する全4時間の単元「論説文を『自分のため』に読み解こう」では、主に②「行為」の価値を探ることを主軸とした実践となります。
2.授業の実際
【1時間目】:「自分のため」に読むためのウォーミングアップ
単元の導入となる1時間目は、笹原和俊「見たいものだけ見る私たち」を扱いました。情報社会における人間の認知バイアスについて解説したこの文章は、学習者にとって身近な問題であり、論説文を「自分のため」に読むという経験への入り口として最適だと考えたからです。
ここで用いたのが、図1のワークシートです。
〔ワークシートの分析〕
・「『自分のため』になる情報」「筆者の主張」→この欄の目的は、文章に書かれている情報から「自分のためになる」と感じるものを選び取ったり、筆者の主張について正しく読み取ったりすることです。記述例の学習者は、認知バイアスの具体例(確証バイアス、利用可能性ヒューリスティックなど)や、それによって虚偽情報が拡散されるメカニズムといった要点を整理しています。
・「理由(どのように『自分のため』になるのか)」 →この欄では読み取った情報が、自分自身の生活や考え方とどう結びつくのかを言語化させます。記述例の学習者は、「『みんな』を信じすぎないほうがいいかもしれない」など、自分自身の行動や判断の癖を文章に重ね合わせていました。読み取った情報を受け取るだけでなく、自ら働きかける意識が見られます。
・「筆者の主張に対する自分の考え(共感・納得・反論)」→この欄では、筆者の主張を鵜呑みにせず、クリティカルに吟味し、自分なりの考えを構築することを促します。記述例の学習者は、虚偽情報に騙されないことの重要性を理解しつつも、「自分が苦しまないようにするためにも(様々な思考や判断、認知の癖は)大切にしていかないといけない」と、筆者の主張を受け止めつつも、人間の心理の働きに対する自らの考えを形成している姿が見て取れます。
この1時間の活動を通して、学習者たちは「論説文を読む」という行為が、単なる受動的な行為ではなく、自分自身をより深く理解したり、社会とよりよく関わったりしていくための気づきを与えてくれる能動的な営みであることを体感します。これが、次のメイン教材「私とは何か」の探究的な学びへとつながる布石となります。
【2~4時間目】:問いを生成し、仲間と追究する
2時間目以降は、平野啓一郎「私とは何か」を扱います。この教材では、一人の人間の中に、相手や状況によって異なる複数の人格(=分人)が存在するという考え方が提示されます。この「分人主義」という考え方は、学習者たちが抱える自己の多面性や人間関係の悩みに寄り添う、非常に魅力的なものであり、中学生の時期にぴったりの内容といえるでしょう。
学習活動は、以下のステップで進めました。
1.個人の読みの形成と分析→問いづくり
まず、一人ひとりが文章を読み、自分なりの解釈や疑問、考えたことをGoogleフォームで提出します。そして、提出された全員の読みを一覧にしたプリントを配布し、クラス全体で共有、分析します。他者の多様な読み方に触れることで、自分の視点が相対化され、より多角的な読解が促されます。そして、この交流活動を通して、学習者たちは「もっと深く考えてみたい・みんなとディスカッションしてみたい」と感じる問いを自ら生み出していきます。学習者は文章と自分、また文章と社会を関連付けながら問いを作っていきました。
2.少人数チームでの問いの探究
クラスの中で生まれたたくさんの問いの中から、自分たちのチームで最も探究したい問いを三つ選び、対話を通してその答えを創っていきます。このチームは3人程度とし、問いを選んだ意図を共有しやすくしておきます。
図2は、ある学習者の4時間目のワークシートです。
〔ワークシートの分析〕
・問い①:「分人は何を引き金に表に出てくる、前の分人と交換をするのか。」この問いに対し、学習者は「相手の性格・立場」「自分の立場」「まわりの環境」「自分の機嫌」など、文章の内容と自分たちの日常経験を関連付けながら、自分たちの答えを創り上げています。
・問い②:「すべての人に同じ分人を見せることは可能か。」この問いに対し、学習者は「敬語を使う相手など、限定的な状況なら可能かもしれない」としつつも、「本当に目上の人と話すときは緊張が混じるし、友達と話すときはおもしろさが混じるから、やっぱり少し違うのでは」と、単純な二元論ではない、多面的で実感を伴った考察を深めています。
・問い③:「たくさんの分人がいる中で果たして本当の自分とは何なのか。」この問いは、筆者の「たった一つの『本当の自分』など存在しない」という考えに相反するものとなっています。それに対して、学習者は「全部が本当の自分であり、分人でもある」「表には出ない、自分の考えや気持ちが本当の自分」「『本当の自分』の捉え方は人によって違う」など、筆者の主張を唯一の正解とするのではなく、自分たちで多様な答えの可能性を探っている姿がみられます。
このワークシートから、学習者たちが文章を出発点に、他者と対話し、粘り強く思考した様子が見とれます。また、そのプロセスの中で「論説文を読む」という「行為」の価値への気づきも生まれているのではないかと考えます。
3.おわりに
以下は、本単元後の学習者の振り返りの例です。
もちろん、すべての学習者がこのように感じていたわけではないでしょう。しかし、多くの学習者が、「国語の学びは、自分に活かされているものだ」と感じる瞬間を味わってくれたと思います。今後も、国語科の授業を通して「読むこと」をはじめとした様々な言語活動の価値を実感できる授業を目指して努力していきます。
槙原 宏樹 まきはら・ひろき (創価中学校 教諭)
1985年生まれ。創価大学教育学部を卒業後、広島県の公立小学校にて11年間の勤務の後、2020年より現在の創価中学校に勤務。東京・国語教育探究の会に所属。著書に「子どもに『問い』と『気付き』がうまれる『?型板書』の国語授業(東洋館出版)」などがある。

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