
清野 晶 (攻玉社中学校・高等学校)
2025年11月13日
はじめに
様々なICT技術の発展が目覚ましい昨今、英語学習もその恩恵を受けて随分と便利になりました。どのような教材を使用しても、必ず音源が付属しており、学習に際して必要な語彙が事前にまとめられていることは最早当たり前になりつつあります。デジタル教材であれば、知らない単語・表現の意味を、Web辞書などを用いて即座に検索できます。これにより、英語学習は効率化され、熱心な学習者は「コスパよく」学習を進めることができます。ICTを有効活用することが令和時代の英語学習のスタンダードになったと言えるでしょう。しかし、他方で、こうした「コスパのよい英語学習」に慣れてしまい、環境が整えられていない状況で、自力で英語を理解する「自律的な英語力」を培う機会が失われているようにも感じています。そうした、自律的な学習を進めるうえで、このICT全盛の時代に、紙の辞書というアナログ学習の機会を敢えて与えていくことは、本校の校訓の一つ「質実剛健」にも適うことと確信し、中学1年の入学時に『エースクラウン英和辞典』を全員購入し利用しています。
1. 辞書指導の導入手順
(1)入学~1学期
そもそも、辞書を有効活用するためには最低限二つの知識を持っていなければなりません。「①アルファベットの字形と順番に関する知識」「②品詞の知識」です。このうち、①については小学校の英語授業が始まったことで、中学入学時には既に知っていることが前提で話を進める方も多いかもしれませんが、中学受験をしてきた本校生徒でも全員が完全に習得できているわけではないので、中学の最初に丁寧に導入する必要があると思います。特に、アルファベット順を覚える作業は、ともすれば、A~Zのアルファベットを歌に合わせて数回唱えて、テストで確認して終わりとなりかねず、順番は分かるけれども、毎回ABCの歌を唱えないと前後関係が分からないという状態の生徒も多いかもしれません。現在担当している学年では、『これからの英語の文字指導』(手島良著、研究社)を参考に、アルファベットは正順(A~Z)、逆順(Z~A)のどちらでも言えるように練習をすることで、それが後々辞書を引く時に役立つことを伝えました。
この時期に、もう一つ仕込んでおきたいのが「②品詞の知識」です。中学1年生にとって品詞の感覚を養うことは大変なことです。日本語と英語の品詞区分が異なるということもそうですが、そもそも、日本語においても品詞概念が無い、あっても曖昧な生徒が大半です。本校では中学1年生のカリキュラムに国語の「文法」という科目があるので、その授業と話をリンクさせるなどして、少しずつ、品詞とは何なのか、なぜ品詞を知らなければならないのか、を説明しています。例えば、英語で「学校に遅刻するな。」と言いたい時に日本語では「遅刻する」が動詞であるから、英語の「遅刻」の意味を表す単語lateを動詞と勘違いし、 “Don’t late for school.”と言いたくなる気持ちは分かるけれども、lateを辞書で引くと「遅い、遅れた」という形容詞だと出ている。だから、英語では “Don’t be late for school.”と言わなければならないという様に、品詞の認識が必要な場面が出てきた時に授業内で触れます。こうした少しずつの積み重ねを、品詞という概念をまとめて扱う前に学習させることを意識しています。
(2)夏休み~
夏休みに本校では5日間の夏期講習を実施しています。自由参加ですが、例年、中学1年生はほぼ100%の出席率となるので、この夏期講習を利用して辞書指導をすることが多いです。今の学年でも1学期の復習に加えて、辞書指導ワークシート(図)を用いて辞書を実際に引かせながら辞書の「読み方」を指導しました。
辞書を読む時に、「意味」以外の項目にも注目させるのは誰しもがおっしゃることでしょうが、それを英語の初学者である生徒が実践するのは難しいのが現実です。その点、『エースクラウン英和辞典』は初学者にも読みやすい工夫が随所にあります。その中でも個人的に優れていると思う点をご紹介させていただくと、①「意味マップ」により様々な意味を表す基本単語の全貌が見えやすい、②「チャンクで覚えよう」「使えるコーパスフレーズ」「コロケーション」など基本単語周りの一つの意味のまとまりとして覚えておくべきフレーズが整理されている、③「Can-Do Tips」で、ある表現の実際のコミュニケーション場面での使われ方が見えやすい、という3点です。①のおかげで生徒がある単語を調べた時に、その時使われている以外の意味にも自然と目が行きやすくなります。②は授業内でも話しますが、基本単語と前置詞や副詞の組み合わせ、基本的な語法なども辞書を引けば書いてあることを授業内で強調し、辞書を引いた際にその項目があれば毎度見るように勧めています。
③は、特に助動詞を扱う際に、丁寧な表現・フランクな表現という違いを意識させるときに活用しています。
このように、『エースクラウン英和辞典』の優れた点を授業内で活用することによって、ゆくゆくは生徒個々人が能動的に辞書の意味以外の項目に注目し、情報を得られる下地を作りました。
(3)2学期~
2学期には夏期講習の内容を踏まえて、新出語句の導入の際に、担当教員がこれはと思う単語に辞(辞書マーク)を書いてもらい、休み時間や、家庭学習の時間に引くように勧めています。また、2学期からは、使用している教科書の読解教材を少し扱うようにし、その予習段階で「知らない単語」、「知っているはずなのに上手く意味がとれない単語」をチェックして辞書を引くように勧めています。授業内で辞書を引くこともありますが、最終目標として自主的に辞書を引くようになってもらいたいので、今の学年では敢えて、生徒が授業時間外で辞書に触れるような声がけをしています。
2. 今後の展望
さて、これまでの指導手順を見ていただけば分かるように、私の辞書指導は何の変哲もない実に「オーソドックスな辞書指導」ではないかと思います。それでもある程度の指導が成り立つのは、『エースクラウン英和辞典』をはじめとして、近年の辞書が、辞書の読み方を自然と体得できるよう精緻に設計されているからです。辞書編纂者の方々のそうした血のにじむような努力を最大限体感できるのは紙の辞書ならではだと思います。
今後も引き続き、授業内外で生徒が実際に辞書を引き、様々な項目に注目するように地道な声掛けを続けていく予定ですが、最後に、『エースクラウン英和辞典』の最大の長所を活かす指導の展望についてお話しします。それはこの辞書の「CEFR-J表示」をSpeaking、Writing指導に活用することです。日本人の英語力、中でも、発信力が受信力に比べて貧弱であるということは長らく言われてきたことですが、近年は英語学習の世界でも、発信語彙と受信語彙を区別することで、この状況を打破しようという動きが活発化しつつあります。私も、語彙指導の際にこの区別は必須と思っておりますので、「CEFR-J表示」というのはそれを生徒自身が判別する最も信頼できる羅針盤になると確信しています。中学3年生、高校生になる頃には、SpeakingやWritingの課題に取り組む際に、「CEFR-J表示」を活用し、A1~B1レベル程度の語彙を使いこなして自由に発信できるように指導していきたいと考えています。
清野 晶 きよの・あきら (攻玉社中学校・高等学校)
渋谷区公立中学校、私立錦城高等学校での講師勤務の後、現在、攻玉社中学・高等学校教諭。大学時代は文法理論(主に生成文法、統語論)を学び、その知見を学校英語にどのように取り入れていくかを考えていた。英語だけでなく、日本語、ひいては言語全体の仕組みを意識してもらえるような授業を模索中。
『CROWN English CommunicationⅡ New Edition』(平成30年度版)─主体的で対話的な深い読みをすすめる「コミュニケーション英語Ⅱ」授業実践
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橋詰 龍
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