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『CROWN English CommunicationⅡ New Edition』(平成30年度版)─主体的で対話的な深い読みをすすめる「コミュニケーション英語Ⅱ」授業実践

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高等学校英語

橋詰 龍 (立命館守山中学校・高等学校)

2021年03月22日

はじめに

 教科書や補助教材の読み物を扱う場合、シラバスに従い授業者が主導でレッスン(トピック)を選び、教室全体で「これを読みましょう」となる。読む前に「読みたい気持ち」を持たせることは可能であるが、読んでいく内容を変えることはない。ただ、そういった授業の大きな流れ(教科書を用いて読み進める)に一石を投じつつ、生徒ひとり一人が「読みたいものを読む」「知りたいことを知ろうとする」というごく当たり前の「読み」や知的な活動を楽しませるために、そしてそれらを他者とのやりとり=対話=を通して自らの興味や関心を深めるために、授業をデザインしてきた。与えられたレッスンであっても、個々が主体的・対話的に読み(学び)を進め合い、やりとりを通して高め合うことが出来る授業実践例を紹介したい。

実践報告 コミュニケーション英語Ⅱ

「何を知りたい?」から始める読みと、対話で繋ぐ深い学び

 

■対 象

高校2年生(普通科フロンティアコース)

■教科書

CROWN English CommunicationⅡ New Edition  Lesson 9 The Long Voyage Home

■目的

・教科書の本文に埋もれている情報を自らの関心に合わせて見つけ出し、それらを適切(論理・情報・語彙)に書き加えることができる。

・自ら調査したことを口頭で発表するだけではなく、その場での質疑応答を元に情報を再整理し、まとめることができる。

■活動における技能

1)Listening

2)Reading

3)Reading/Speaking/Listening

4)Writing

 

授業展開(全7時間)

 

1)自分が「知りたいこと」を出し合い、チームを作る。(本文を読む前) 

1-1) 小惑星探査機「はやぶさ」に関する動画(ナレーション少)を視聴し、「はやぶさ」に関してどのようなことを知りたいか、興味を持ったかを各自で挙げさせて付箋(タブレット上)に記入する。

1-2) それらをもとに、グループ(同じことを知りたい生徒でチーム各3~4名程度)分けを行う。

 参考)グループ例 

  ・はやぶさの名前の由来 ・はやぶさの困難

  ・はやぶさの軌跡  ・イトカワを選んだ理由

  ・イトカワから採取したサンプル 

1-3) グループで情報の予測を立てる。

 

2)教科書の本文をグループで読む。

2-1) 教科書を開き、情報を読み取る。行間はグループで読み込みながら、深めていく。

2-2) 教科書の内容を整理して、クラス全体で共有。タブレット上のワークシートで行う。

 

3)中間発表(ポスターセッション)を行う。

3-1) 「何を知りたいか」に戻り、WEBサイトなどからさらに情報を集める。

3-2)  ポスターセッション風プレゼンの準備を行う。プレゼンはポスター1枚(タブレット上)を使用し、全員で共有する。

3-3)  当日(2時間連続授業)にブースをつくり、ポスターセッション風プレゼンを行う。

 * ポスターの代わりに、各自のタブレットのスライドを使用し、見せながら発表する。

発表について ・発表はグループ(1~)2名ずつで行う。
・グループで発表のない他の生徒は他のブースでプレゼンを聴く。
・全体で8回のローテーションを行い、同じ発表を6回程度行う。
・自分の発表のないときに、4カ所以上の発表を聴く。
・必ず質疑応答の時間を設け、発表だけに終わらないセッションとする。
    (結果、生徒一人につき、4回程度発表、4カ所以上の発表への参加となった)

 

(写真:ブースでのプレゼンと、質疑応答の様子)

 

4) セッションでの質疑や意見交換を受け、再構築する。

4-1) セッションでの質疑を受け、振り返り(再構築・情報の再整理など)を行う。

4-2) 参加した他のプレゼンから得た情報を整理する。

4-3) 4-1,2 をレポートにまとめる。         

4-4) 教科書を再読し、リサーチやプレゼンセッションを通して新しく得た情報を追記する。(以下、作品例。追加した英文のみ記載)

 

(写真:個人でレポートをまとめている様子)

 

(作品例)

全授業(本授業実践)の流れについて

 本レッスンにおいては、教科書を開く前に、まず読み手である生徒自身が「はやぶさ」の簡単なイントロダクションを視聴しただけで、「何を知りたいか」「何を読んでみたいか」を考えることからスタートした。その結果、「はやぶさ」への感心がより自分自身のものになり、また「知りたいことに近づく」という「読みの意味」を感じさせることが出来た。「何を知りたいか」については、大きなばらつきはなかったが、授業者の想定外のもの(例:宇宙人はいるのか、火星に住める日は来るのか、など)も少なくなく、授業者自身も「知りたい」状態で授業を進めることができた。グループで協働的に情報を集めスライドを作成したりすることは、一人一台のタブレットを利用し、短時間でも多くの文献や動画などにアクセスし、またこれまでの授業での経験(スライドを用いたプレゼン)を活かしスムーズに進めることが出来た。この間の授業者の役割としては、基本的には「見守る」ことと「おおいにほめる」ことが中心で、表現方法などについてはほとんど指導せず、質問があったものについてのみサポートする程度で、協働的にチームで解決する(教え合う)ことに重きを置いた。
 同じグループの発表に関しては、作成したポスター風スライドをタブレットで共有し、プレゼンの内容もほぼ同じであり、聴き手がどの回の発表に参加しても良いように準備をさせたが、授業内(外)で互いに「こういう説明を入れた方がいいんじゃない?」「それ用語はちょっと難しいかも」と発表原稿の整理や推敲を自主的に繰り返していた。それらを受け、タブレットに共有したスライドを用い、自宅で個々に準備が出来たことも、全体の総時間数5コマで実践できた要因であると思われる。
 プレゼン当日(上記 3-3)は2時間連続の授業で、複数の演習室にプレゼン用ブースを9カ所設置し、10分ごとに移動し合う形を取った。事前にタイムスケジュールを与え、グループ内で発表と他グループ発表への参加が均等になるように計画を立てさせ、その中で質疑応答を行わせた。授業者は全体の様子を見ながらタイムマネイジメントを行い全体の進行を行ったが、他の英語科教員に呼びかけ、セッションに参加して頂いた。また、プレゼンで伝えることが目的ではなく、聴き手からの質疑を受け、その場のやりとりとその後の再構築が目的であることを周知させていたため、発表時も聴き手に回ったときも、しっかりとメモを取る姿が見られた。
 年間を通じて、プレゼンや発表を最後の活動とせず、その後の振り返りを書く(話す)ことで行わせてきたが、本レッスンにおいても、①自らのプレゼンのレポート化と②教科書への情報追記という活動を実践した。①については、発表原稿の形ではなく、レポートとしてまとめることと、関連した他のプレゼン内容を盛り込むことを課した。また、②については、教科書を再読し、行間を埋めたり、新しい段落を増やしたり、本文全体の流れを乱したり情報を変えたりせずに追記することを課した。レッスン全体ではなく、追記が可能だと思われるパートをひとつ選ばせた。なお、①については、グループでの情報整理時間の確保も合わせ授業内で行い、②については自宅学習として取り組ませた。

最後に

 「仕掛け」「見守り」「おおいにほめる」をモットーに授業をデザインし、いかに生徒(たち)が主体的に学びを楽しんでいくかを考え、チームで研究・研修を進めてきた。授業者(たち)が一方的に教え尽くすのではなく、また答えのあるものだけを求めさせるのではなく、生徒自らが創っていく授業を行いながら、言語活動に必要な基礎英語力(語彙、文法、表現など)を身につけさせ、また積極的にコミュニケーションを取ろう(「話す」「聴く」ことに前のめりになる。みんなはどう考えているのか知りたいと思うなど)とする姿勢を育んできた。「見守り」に関しては、すべてを生徒任せにするのではなく、こころが動くような声かけやサポートを行いながら、ともに共感し、ときに感動(実際、生徒の考えや想い、発想にこちらが心揺さぶられることが多い)し、ともに授業を創ってきた。そういった授業で効果を上げるためには、授業者が普段から目の前の生徒たちの興味・関心や英語力(や国語力など)に気を払い、また手にしている教材(教科書)をチームで研究しながら、最適な「仕掛け」を取り入れてきた。本校の高等学校は9クラス(中学校は5クラス)あり、コースも様々で生徒の学力も異なっているが、それぞれのレッスンや教材で大切な柱はブラさずに、それぞれの授業者が想いを込めた授業を実践している。その一例として、今回は私自身の実践報告をさせていただいた。ご指摘やご指導の程、よろしくお願いいたします。

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プロフィール

橋詰 龍    はしづめ・りゅう (立命館守山中学校・高等学校)

立命館守山中学校・高等学校英語科教諭。京都教育大学教育学部卒業後、京都市立の高等学校に勤務。その後、京都市教育委員会学校指導課指導主事を勤め、立命館へ赴任。2014年に立命館守山中学校・高等学校に異動後翌年度より英語科主任として、現任校の英語教育改革を進めるチーム作りに奔走している。8年目。

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