土屋 進一 (西武学園文理高等学校)
2020年11月24日
新学習指導要領では,育成を目指す資質・能力の三つの柱として「知識および技能」,「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」が掲げられている。外国語によるコミュニケーションにおける4技能の1つ「話すこと」においては,話すことが,「話すこと[やり取り]」と「話すこと[発表]」に分けて示され,4技能5領域を統合しながら,「主体的・対話的で深い学び」を促す授業の実現も求められている。
しかし,育成した「知識および技能」をどのように「思考力,判断力,表現力等」を伴った活動に落とし込んでいくのかについて,頭を悩ませている先生方も多いのではないだろうか。
本稿では,『MY WAY English Communication Ⅱ New Edition』を使用した「思考力,判断力,表現力等」を促す具体的な指導例を提示したい。
1.CLILを取り入れた「思考力・判断力・表現力」を高める活動例
『MY WAY English Communication Ⅱ New Edition』Lesson 1 Pictogramsでは,言語や文化の違いを越えた広義の言語の1つであるピクトグラム(絵文字)を取り上げ,教科書10ページに,1964年の東京オリンピックで用いられた競技のピクトグラム(図1)を掲載している。この図を活用し,教師は,“What does this pictogram mean? ” とクラス全体に発問を投げかけ,生徒にそれぞれのピクトグラムについて意味を考えさせる。その際,“It means ~. ”と答え方の定型表現を教えてから,教師とクラス全体で数問のInteractionを行い,その後,残りのピクトグラムに関して,生徒同士でペアになり,交代で“What does this pictogram mean? ” “It means ~. ”といったInteractionを行う。
この活動は,英語力そのものよりもむしろ,思考力や判断力が問われるため,英語に苦手意識を持っている生徒も楽しそうにペアワークを楽しむ。2分間の活動を終えた後に,教師がパワーポイントを用いながら,“What does this pictogram mean? ” “It means ~. ”という具合に答えを確認していく。その際,あえて,“It means ~. ”の表現を“It represents ~.” “It stands for ~.” “It symbolizes ~.”のようにパラフレーズを行いながら,進めていく。その際,生徒は,意味に焦点を当て,ピクトグラムの答えを聞いているため,教師が別の表現で説明していることにほとんど気づかない。これがその後の「仕掛け」となる。その仕掛けとは,答え合わせが終わった後で,教師が,“It means ~.”以外に他の別の3つの表現を使っていたことを発問としてクラス全体へ投げかけ,ペアで確認させ,言語面へ焦点を当てた指導を行う。これが,CLILの「内容」の3次元的側面である。
(図1)
CLILの「内容」の3次元的側面は,図2に示すように,コンセプト(concepts)と手段(procedures),言語(language)の3つである。教師は,授業中にこの3次元のうち,どれかひとつが他より際立っていると気づくことがあるかもしれない。コンセプト(concepts)の次元が高ければ,言語(language)の重要度は減少する。逆に,言語に焦点が置かれれば,コンセプトの次元が減少する。図2の中央に示されている手段(procedures)は,教師の指導手順を示しており,いわば,ミキシング・スタジオで行うミキサーように,「手段」のボリュームを下げ,指導手順を他の次元より音を小さく,つまり平易にすればよい。組み合わせはさまざまだが,学習者の反応に応じて,授業の「ボリューム調節」を行うことが我々教師の役目となる。このようなCLILの考え方を知っておくと,「思考力・判断力・表現力」に根ざした授業展開に新たな視点を持つことができよう。
(図2)CLIL: 内容の三次元的側面
(Ball, P., Kelly, K., & Clegg, J., 2016)
2.英語の学びをSDGsに絡め,リアルな社会に繋げて「思考力・判断力・表現力」を高める
『MY WAY English Communication Ⅱ New Edition』Lesson 2 A New Way to Clean Up the Ocean(教科書15~23ページ)では,環境保全のテーマとして,海に浮かぶプラスティックごみを取り上げている。
新学習指導要領が言語活動として目指しているものの1つに,社会的な話題について,複数のニュースや講演などから概要や要点を把握し,それを自分自身の考えなどを整理して発表したり,文章を書いたりする活動がある。Society 5.0などの時代の変化を見据え,授業の中で得た知識・技能を実際のリアルな社会に繋げることを考えると,生徒が自らの興味・関心に沿って深い学びを行っていくことが重要であると考えられる。例えば,この課で読み取った内容を踏まえ,該当するSDGs (Sustainable Development Goals)=「持続可能な開発目標」(図3)の「No.14海の豊かさも守ろう」を切り口として主体的で深い学びへと繋げることもできよう。例えば,内容を掘り下げるために,英文の別の資料を読み,理解を深め,教科書本文をもう一度読むことで,内容に対するcritical thinkingの力を高める。
次に,リアルな社会の現状を「自分ごと」としてSDGsの目標に照らし,英語で自分の考えを表現していく。その際,①興味・関心の理由 ②問題の現状分析 ③問題に対する解決策 の論理展開が示されたワークシートの流れに沿って論理的に考え,表現力を高める「書くこと」の活動を行う。
さらに,パワーポイントのスライドに画像とキーワードを貼り付け,プレゼンテーションの準備を行う。そして,効果的なプレゼンテーションを目指し,練習を行う。これが,単なる英会話レベルのSpeaking練習とは意を異にするリアルな社会へ向けての発信型の「話すこと」の活動となる。言語が,英語であれば全世界へ発信できることも生徒にとってリアルに社会とつながる感覚を与えることになる。
これは,次期学習指導要領の資質・能力の三つの柱(実際の社会や社会の中で生きて働く「知識及び技能」,未知の状況にも対応できる「思考力,判断力,表現力等」,学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間力等」)を秀逸に含んだ具体的な活動と言えるのではないだろうか。
(図3)
3.今後の英語教育への示唆
本稿では,『MY WAY English Communication Ⅱ New Edition』の課を取り上げ,CLILの理論とSDGsに絡めた「思考力・判断力・表現力」を高める効果的な指導について論じてきた。
言語活動を通して,まず,テクストに書かれた情報を的確に理解し,段階的に高次の認知処理を必要とするタスクを与えながら,「やり取り」や「即興性」を意識した言語活動を考えていく必要があろう。また,さまざまな考えを共有しながら,コミュニケーションを図り,自分の考えを表現することが,新学習指導要領が目指す「Society5.0時代に使える英語」の礎の一つとなるのではないだろうか。
◆参考文献
Ball, P., Kelly, K., & Clegg, J. (2016) Putting CLIL into Practice. Oxford: Oxford University Press.
土屋 進一 つちや・しんいち (西武学園文理高等学校)
西武学園文理高等学校教諭。法政大学大学院修士課程修了後,埼玉県私立西武学園文理高等学校に勤務し,現在 18 年目。英語教育誌等に執筆活動を行うとともに,全国各地で講演・セミナーを行っている。授業動画として、Find!アクティブラーナー「教科横断型授業:英語×生物~つながることのUMAMI~」がある。
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