
羽渕 弘毅 (西宮市立総合教育センター 指導主事)
2025年11月01日
1.はじめに
「このページどう使うの?」「何のためにこのページはあるの?」と、教科書に関してたくさんの疑問が先生方にあるかと思います。
この度は、そんな皆さんの悩みに少しでも寄り添うために自分の実践を紹介します。Before(あるある失敗談) and After(改善後)という形でまとめていきますので、明日からの授業づくりに2%ほど貢献できればと思います。
※こちらの事例も、ぜひあわせてご覧ください。
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time世界のおはなしってどう使うの?」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time ケンの冒険は使えば使うほど面白くなる!」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Panoramaは話すツールとなる!」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜学習者用デジタル教科書ってどう使うの?」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜My Dictionary?」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜HOPは子どもたちがHOPするために」
前回は、「HOP」について紹介をしました。今回は、CROWN Jr.の大きな特徴である「HOP・STEP・JUMP」のうち、「STEP」について紹介します。
「ゴールは設定したものの、その後の活動をどうしようか悩んでいる…」「HOPとJUMPのつながりのある活動について試行錯誤している…」など、STEPについて悩まれている声があります。今回は、「HOP」から「JUMP」へのつなぎ役としての「STEP」の活用方法について紹介します。
2.Before〜ある教室のできごと
ここは5年生のクラスです。「HOP」での単元スタートがうまくいき、ハブ先生も「STEP」を進めています。
| ハブ:「次はこのページの練習問題を解いてみよう。」 児童:「は〜い!」 〜子どもたちが音声を聞き、練習問題を解いている〜 ハブ:「はい。丸つけをします。」 児童:「やった〜!全部合っていた!」 ハブ:「次は、友達とおすすめのスポットについて、この表現を使って、やり取りしてみよう!」 |
授業は順調に進んでいるのですが、ハブ先生は何か物足りなさを感じているようです。「日本のおすすめの場所」を紹介しようというゴールに向けて一つずつ積み上げていく授業(単元)構成になっているのですが、「これでいいのかな?」と迷っているようです。ゴールに向けて「表現を教える・練習する→使うことを指示する→やり取りを観察する」という流れについて、ハブ先生は悩みます。
「う〜ん、STEPをうまく授業の中で活用できないかな?」
ハブ先生は、「STEP」の活用法について考え始めました。
3.言語活動を行う際の理解や練習のための指導に「STEP」を!?
言語活動は、「実際に英語を使用して互いの気持ちを伝え合う」ことだと定義されています。
また、学習指導要領解説には、次のような補足的記述があります。
| ウ 実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うなどの言語活動を行う際は,2の(1)に示す言語材料について理解したり練習したりするための指導を必要に応じて行うこと。また,第3学年及び第4学年において第4章外国語活動を履修する際に扱った簡単な語句や基本的な表現などの学習内容を繰り返し指導し定着を図ること。(下線部は筆者によるもの) |
目的・場面・状況を設定し、実際に言語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う活動が重要であることは、日々の授業で実践されている方が多いと思います。この配慮事項では、言語活動の定義に加え、段階別の展開についても記述されています。
| また,そのような活動を行う際には,単元又は1単位時間の初期段階で言語活動を通して学習内容として設定されている表現の音声を聞いたり話したりするなど,英語の音声に慣れ親しませる活動を展開し,言語の意味や働きなどを理解させることが大切である。その上で,後期段階においては,設定された場面の中で,自分の考えや気持ちを互いに伝え合う言語活動を展開するなどの学習過程の工夫が大切である。(下線部は筆者によるもの) |
授業時数が限られる中で、「表現や言葉に慣れ親しませる活動を行う時間を十分に確保できない」という声が聞かれます。しかし、慣れ親しむ活動を通じて児童は、単なる語彙や表現の意味だけでなく、言葉が実際のやり取りの中でどのような役割を果たすのかを体験的に理解することができます。こうした繰り返しの体験が、言葉を単なる知識や手法としてではなく、実際のコミュニケーションに生きて働く知識・技能へと育てていくことにつながります。
では、「慣れ親しみ、理解や練習をする」ためにも、「STEP」をどのように使えばいいのでしょうか?
4.「STEP」の役割は?
STEPは2〜3つのLessonから構成されており、Lessonにはいくつかのパーツがあります。これらには、以下のようなねらいがあります。
| ゴール | パーツ | ねらい |
| 語句や表現に出会う | Panorama、Let’s Watchなど | 表現を使う場面や目的に自然と入る |
| 語句や表現に慣れ親しむ | Let’s Listen、Let’s Playなど | 言語活動を通して語句や表現を身につける |
| 学んだ表現で伝え合う | Let’s Speakなど | Lessonのまとめとしての言語活動を行う |
この45分は、「出会う」「慣れ親しむ」「伝え合う」のうちどの場面なのか、を意識しながら授業を構成することが大切です。
Panoramaは、出会う場面としての面白さがあります。そして何より、いつもより長い英語を聞きながら、意味や状況を「つかみ取る」経験ができます。まさに、表現や語彙を慣れ親しむための地図として構成されています。(Panoramaについては以前の記事でも紹介をしております。ご参照ください。)
指導者がある表現を一律的に教えてしまうことは効率も良いのですが、やはり子どもたちが自分なりに考え、試行錯誤しながら表現を自分のものにしようとするプロセスを大切にしたいですね。
各Lessonのページに配置されているLet’s Watchは、慣れ親しむだけではなく、動画を通して文脈における表現についても学ぶことができます。
そして、Let’s PlayやLet’s Speakでは、伝え合う活動を中心に展開することができます。ここで大切にしたいのは、「もどれる」ことです。指導者は「教えたから、使えるだろう」と思ってしまいがちですが、教室には一定数、うまく伝え合う活動を進められない子どももいます。そのような場合に、どこを参照すればよいかを明確にしておくことが重要です。PanoramaやLet’s Watch、Let’s Listenに「もどりながら」伝え合う活動に取り組むことを意識したいところです。子どもたちが「もどる」ことができるのは、STEPの強みです。学習状況に応じて活用を促していきたいですね。
| 余談ですが、練習問題では、前後のストーリーを楽しめるような設定となっています。子どもたちは巻頭の自己紹介を読んだり、前回までの練習問題のつながりから「○○は〜を選ぶはず!」と予想したりしながら、取り組むことができます。 |
5.After ハブ先生の実践
ここは、授業づくりを2%ほど変えたハブ先生の教室。Unit3(CROWN Jr.5 p.88-89)のSTEPを使って、子どもたちが語句や表現を自分なりに「つかみ取る」ことを大切にしたいと考えています。
今日の授業のねらいは「自分たちの地域でできることを考えて言おう」(Let’s Speak)です。子どもたちが、Panoramaで出会った表現や、Let’s WatchやLet’s Listenで慣れ親しんだ表現を使って、自分たちの地域自慢ができるような授業をしたいと考えています。
では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。
| ハブ:「What can you do in our town?」 児A:「たこ焼き!」 児B:「Osaka Castle!」 児B:「どうやって言うんだっけ…。」 ハブ:「In Fukui, you can eat crab. You can also go fishing. And you can enjoy swimming in the sea.」 児童:「You can ~.」(それぞれが自分たちの地域でできることを口にする) |
今まで学習したことをいかして、自分たちの地域でできることを相手に紹介することを促します。
あるペアの様子を、ハブ先生と一緒に見てみましょう。
| ハブ:「Where do you live? What can you do in your town?」 児C:「Hello. In Osaka, you can … you can …」 児C:「え〜っと…食べる…。Dさん、分かる?」 児D:「さっきの問題に出ていたから、もう一回見てみようか。」 (学習者用デジタル教科書で、Let’s WatchやLet’s Listenの該当表現や語句を探し始める) 児C:「あった!(字幕を見ながらメモする)e-a-t. You can eat delicious takoyaki!」 児D:「Oh nice! I like takoyaki.」 児C:「もう一回、はじめからやってみても良い?」 児C:「Hello. In Osaka, you can eat delicious takoyaki.」 児D:「Oh, nice! I like takoyaki. How about you?」 児C:「I like takoyaki, too. My favorite takoyaki is cheese takoyaki!」 (やり取りが進んでいく) |
このペアは、大阪でできることをやり取りしています。住んでいる場所は同じですが、子どもたちが考えた「自分たちの地域でできること」の考えは一人一人違うようです。また、伝えたいことが言いにくい場面であっても、背景知識が一致しているため、タブレットで調べるだけではなく、「あ〜!あれのことね!こう言ったら良いんじゃない?」と、直接助け合っている姿も見られました。
授業後、児童Cさんの振り返りには以下のような記述がありました。
| 今日の授業では、食べるという英語が出なかったのでデジタル教科書で調べた。 デジタル教科書でもう一度音声を聞いて、他にも使えそうな言葉がないかを探した。 次のペアトークで使ってみたい。 |
今日の学習では、子どもたちが「もどって」学習を進めている姿が見られました。ハブ先生は、一律に「こう伝えるよ」「この表現を使ってやり取りするよ」とは言わずに、子どもたちが表現を自分なりに理解して「つかみ取る」様子を大切にしていました。次時は、地域の魅力をアピールする活動が主なものになります。今日学習した内容や表現だけではなく、「もどる」学習方法をもとに学習を進めることができます。
教科書は一度使っておしまいではなく、子どもたちが「もどって」学べるような配置の工夫がされていることに、ハブ先生は気づいたようです。「もどる」工夫によって、子どもたちが安心して学べることにつながるのかもしれません。
6.表現を自分なりに「つかみ取る」
STEPの活動は、子どもたちが新しい表現を自分なりに「つかみ取る」大切な時間です。言葉によるコミュニケーションには、ペーパーテストのような唯一の正解はありません。大切なのは、相手に思いを伝え、目的を達成すること。そのためには、既習の表現や新しく出会った語句を組み合わせ、自分の持てる言葉を最大限に駆使する姿勢が必要です。
しかし、活動中には「言いたいのに言葉が出てこない」「どう表現すればいいかわからない」という瞬間も必ず訪れます。そのときこそ、PanoramaやLet’s Watch、Let’s Listenといった教材に立ち戻り、必要な表現やヒントを再確認することが重要です。指導者が「戻ってもいい」「探してもいい」という空気をつくることで、子どもたちは安心して挑戦と試行錯誤を繰り返すことができるようになります。
「伝え合う」と「もどる」を行き来する中で、表現は単なる知識から、生きたコミュニケーションの道具へと変わっていきます。このサイクルこそが、STEPの本当の価値であり、JUMPへの確かな橋渡しとなります。
さて、最後はJUMPです。次回は、「HOP・STEP・JUMP」の「JUMP」の活用方法について紹介します。HOP・STEPで蓄えた力を最大限に生かして、最後の課題に取り組むような授業をデザインします。
漠然と課題に取り組むことを促すだけでは、子どもたちの蓄えた力を発揮することは難しいです。それらを支えるような指導者の働きかけについて、一緒に考えてみたいと思います。
参考文献
文部科学省 (2018). 『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』
羽渕 弘毅 はぶち・こうき (西宮市立総合教育センター 指導主事)
専門は英語教育学(小学校)、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科学博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。

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