授業レポートプラス

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明日からの授業づくりに2%! Before and After
〜HOPは子どもたちがHOPするために

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小学校英語

羽渕 弘毅 (西宮市立総合教育センター 指導主事)

2025年06月20日

1.はじめに

 「このページどう使うの?」、「何のためにこのページはあるの?」と教科書に関して、たくさんの疑問が先生方にあるかと思います。

 この度は、そんな皆さんの悩みに少しでも寄り添うために自分の実践を紹介します。Before(あるある失敗談) and After(改善後)という形でまとめていきますので、明日からの授業づくりに2%ほど貢献できればと思います。

 

※こちらの事例も、ぜひあわせてご覧ください。

「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time世界のおはなしってどう使うの?」

「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time ケンの冒険は使えば使うほど面白くなる!」

「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Panoramaは話すツールとなる!」

「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜学習者用デジタル教科書ってどう使うの?」

「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜My Dictionary?」

 

 今回は、CROWN Jr.の大きな特徴である「HOP・STEP・JUMP」の「HOP」について紹介します。CROWN Jr.は「HOP・STEP・JUMP」という学ぶ過程が見える化された構成なので、学習過程が指導者だけではなく子どもたちにとっても分かりやすくなっています。今回は学習に見通しをもつために重要な役割を果たしている「HOP」について紹介します。

 

2.Before〜ある教室のできごと

 ここは5年生のクラスです。ハブ先生がUnit3(CROWN Jr.5 p80-81)の学習について説明しています。

 

 ハブ「今回のUnitのゴールは、ALTの○○先生に日本のおすすめの場所を紹介しようです。」

 児童「え〜!楽しそう!」

 ハブ「どんな場所を紹介したいかな?」

 児童「富士山!」

 ハブ「では、富士山の紹介を英語でできるかな?」

 児童「え〜むずかしそう…。」

 ハブ「できないからこそ、学習するよ!」

 児童「は〜い…。」

 

 「日本のおすすめの場所」を紹介しようという面白そうなゴールなので、外国語の得意な子はやる気満々という感じでアイディアを考え始めています。一方で、クラスの数人は自信がなさそうです。ハブ先生は悩みます。

 「全員ができそう!と思って取り組むためにはどんな工夫がいるのだろう?」

 ハブ先生はUnitの導入について考え始めました。

 

3.外国語教育における学習過程は?

 「主体的な学び」は1時間の授業で全てが実現されるものではありません。単元など内容や時間のまとまりの中で主体的に学習に取り組めるよう学習の見通しを立てることが大切です。小学校学習指導要領解説(外国語活動・外国語編)では内容の取扱いとして、以下のことが述べられています。

 

カ 各単元や各時間の指導に当たっては,コミュニケーションを行う目的,場面,状況などを明確に設定し,言語活動を通して育成すべき資質・能力を明確に示すことにより,児童が学習の見通しを立てたり,振り返ったりすることができるようにすること。(p.53)※下線は筆者によるもの

 

 児童が学習の見通しを立てるためには、コミュニケーションを行うための目的、場面、状況が重要であることが述べられています。

 さらに外国語学習の過程について、以下のような記述があります。

 ① 児童が設定されたコミュニケーションの目的や場面,状況等を理解する

 ② 目的に応じて情報や意見などを発信するまでの方向性を決定し,コミュニケーションの見通し立てる

 ③ 目的達成のため,具体的なコミュニケーションを行う

 ④ 言語面・内容面で自ら学習のまとめと振り返りを行う

 といった流れの中で,学んだことの意味付けを行ったり,既得の知識や経験と,新たに得られた知識を言語活動で活用したりすることで,「思考力,判断力,表現力等」を高めていくことが大切であることを示している。

 

 今回の授業では①や②を意識しながら授業をデザインしていたでしょうか?ハブ先生は、この記述をもとに授業を改善しようと考え始めました。さて、授業はどう改善されるのでしょうか?

 

4.After ハブ先生の実践

 ここは授業づくりを2%ほど変えたハブ先生の教室。    

 改めて、HOPの指導計画を以下のように考えたようです。

 

時間(分) 主な学習活動 指導者の支援
5 ・教科書の写真を見て、世界地図や日本地図から位置を見つける。 ・馴染みのない場所も視覚的に理解できるように地図を準備しておく。
10

・視覚情報をもとに、指導者のスモールトークを聞く。

・自分が行ったことある場所やこれから行きたい場所について、「I went to ~.」や「I want to go to ~.」を使いながら話す。
15

・ゴールの説明を聞く。

・ペアで「日本のおすすめスポット」を紹介し合う。

・教科書の動画を見て、ゴールの見通しをもつ。

・相手意識や目的意識が明確になるように、具体的な状況や場面を伝えるようにする。

例:ビデオレター、指導者同士のスモールトークなど

10

・コミュニケーションの見通しを立てる。

 ○○先生に好きな日本食を聞いてみよう。

 日本で行ったことがある場所を尋ねる。

 行きたい場所について尋ねる。

・見通しが立てにくい児童には、「What ~ do you like?」と尋ねて、自分なりの伝えたいことを引き出せるようにする。
5

・My Goalを設定する。

・My Goalをもとにコミュニケーションの見通しを見直す。

・これからの学びへの意欲が続くように、それぞれのマイゴールを認める。

※Unitにもよりますが、基本は1時間(45分)の中でHOPに取り組みます。

 

 今日の主な活動も、5年生のUnit 3のHOPを使って「日本のおすすめの場所」を紹介しようというゴールについて再度説明をします。子どもたちが単元について見通しをもてるような授業をしたいと考えています。

 では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。

 ハブ「3学期のゴールは何かな?」

 児A「ALTの○○先生に日本のおすすめの場所を紹介すること!」

 ハブ「That’s right!」

 児B「でも、できるかな〜。」

 ハブ「You can do it! Let’s open your textbook to page 80.」

 児童「うわ〜すごい!!」

 

 

 子どもたちは教科書の写真を見ると、「ここに行ってみたい!」、「ここ行ったことがある」、「この場所、知ってる!」と自然と会話が広がります。ハブ先生はスモールトークとして、自分の行ったことがある場所やこれから行きたい場所について話します。指導者のスモールトークを受けて、さらに子どもたちは自分の経験や思いを日本語で伝えようとします。

 会話が広がったところで次は、今まで学習したことをいかして、好きな場所(おすすめの場所)をペアに紹介することを促します。

 

 ハブ「Let’s talk about your recommended spot in Japan.」

 児A「え〜できるかな〜?Hello. I like Mt. Fuji. Mt. Fuji is beautiful.」

 児A「これぐらいしか言えないな。Bさんはどう?」

 児B「僕は全くできそうにない…。」

 児A「動画、見てみる?」

 

 

 やり取りが終わったペアは学習者用のデジタル教科書にある動画を見始めました。3人のおすすめの場所を聞いて、どんなことを言っていたかメモをしています。

 メモをとったあと、先ほどのやり取りを早速改善しようとし始めました。

 もう少しペアの様子を見てみましょう。

 

 児A「I want to go to Hyogo. って言ってたね。行きたい場所やしたいことを伝えてもいいかもね。」

 児B「うん!いいかも!でも、ちょっと待って。伝えるのは○○先生だよね。」

 児A「うん、○○先生だよ。」

 児B「自分が行きたい場所じゃなくて、○○先生が気に入りそうな日本のおすすめの場所を紹介しないとね。」

 児A「あ〜そうか!今度の授業で○○先生が好きなもの聞いてみよう。」

 児B「私は○○先生に富士山を登ったことがあるか聞いてみるね。」

 

 ① 児童が設定されたコミュニケーションの目的や場面,状況等を理解する

 ② 目的に応じて情報や意見などを発信するまでの方向性を決定し,コミュニケーションの見通し立てる

 

 上記で説明をした2つの学習過程がAfterの授業では見られました。教科書の写真や動画を通して、子どもたちが目的や場面、状況等を理解し、発信するまでの方向性を決定することができました。Beforeでは、子どもたち自身がコミュニケーションの見通しを立てることができなかったようでした。これは、ハブ先生が課題を伝えるだけで、その後の学習過程における見通しが立てられるような促しが見られなかったのが原因だと考えられます。

 それを踏まえて、ハブ先生は教科書の「HOP」のページを使い、子どもたちに委ねる(まずはやってみる→足りないところを自覚する)ようにしました。

 子どもたちが目的や場面、状況等を理解し、発信するまでの方向性をある程度決定することができれば、「どんなコミュニケーションが必要か」を自然と考えるようになります。

引き続き授業の様子を見てみましょう。授業の終盤におけるMy Goal(教科書p.81右下部分)を設定する場面です。

 

 ハブ「Aさん。What is your goal?」

 児A「Mt. Fuji!」

 ハブ「Oh! Nice! What is good point about Mt. Fuji?」

 児A「う〜ん…。It is beautiful!」

 ハブ「Yes! Mt. Fuji is so beautiful. I want to go there. How about Bさん?」

 児B「まだ…。」

 ハブ「Oh, I see. What Japanese food do you like?」

 児B「とんこつラーメン!」

 ハブ「Me too. Do you know ○○先生’s favorite Japanese food?」

 〜Bさんが困っている様子を見て、全体に問いかける〜

 〜子どもたちはそれぞれ〇〇先生の好きな日本料理について口にする〜

 ハブ「You can talk about the food.」

 児C「じゃあ、そこで食べられるものも紹介していいの?」

 ハブ「Oh, that’s nice idea!」

 〜教室全体のやり取りを経てMy Goalを見直している子もいる〜

 

 先ほどまだゴールが決まっていなかったBさんも「福岡県で美味しいラーメンが食べられることを紹介する」ことが決まったようです。〇〇先生に出会った時に「ラーメンが好きかどうか尋ねたい」というコミュニケーションの見通しも立てることができたようです。

 

5.まとめ〜導入は大事!その後も大事!

 小学校に外国語教育において、単元の導入方法は非常に重要です。上記で述べた学習指導要領解説にもあったように、

 

 ① 児童が設定されたコミュニケーションの目的や場面,状況等を理解する

 ② 目的に応じて情報や意見などを発信するまでの方向性を決定し,コミュニケーションの見通し立てる

 

 この2つを意識しながら導入について考えなければなりません。私も単元の導入については、構成時はもちろんですが、授業中においても丁寧に子どもたちをサポートしようと心がけていました。

 CROWN Jr.の「HOP」を使うことで子どもたちが目的や場面、状況等を理解することを促し、コミュニケーションの見通しを立てやすくなります。モデル動画が子どもたちと同じ世代の子が話していることも大きなメリットであると考えています。学習者用のデジタル教科書がなかった時は、どうしても指導者やALTがモデルとなって単元導入時に話すことが多くなりがちでした。大人が話すことも「憧れ」としては大切かもしれませんが、子どもたちにとっては「大人だからできるんだよ…」、「そんなに上手に話せないよ…」と不安感を高めてしまうことになりかねません。モデル動画が大人ではなく、同じ世代の子どもたちが話していることで「わたしたちにもできるかも…!」といった動機づけにつながります。

 「よし!単元のスタートはバッチリ!あとはゴールに向けて練習あるのみ!」しかし、気をつけてほしいこともあります。導入がうまくいっても、単元の途中に「中だるみ」が生じてしまうこともあります。次回は、「HOP・STEP・JUMP」の「STEP」の活用方法について紹介します。「STEP」を活用することで、この「中だるみ」に対処する方法について考えてみませんか?

 

参考文献

文部科学省 (2017). 『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』

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プロフィール

羽渕 弘毅    はぶち・こうき (西宮市立総合教育センター 指導主事)

専門は英語教育学(小学校)、学習評価、ICT活用。高等学校や小学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科学博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。

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