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明日からの授業づくりに2%! Before and After
〜My Dictionary?

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小学校英語

羽渕 弘毅 (西宮市立甲陽園小学校 教諭)

2025年03月26日

1.はじめに

 「このページどう使うの?」「何のためにこのページはあるの?」と、新しい教科書に関して、たくさんの疑問が先生方にあるかと思います。
 この度は、そんな皆さんの悩みに少しでも寄り添うために自分の実践を紹介します。Before(あるある失敗談) and After(改善後)という形でまとめていきますので、明日からの授業づくりに2%ほど貢献できればと思います。

 

※こちらの事例も、ぜひあわせてご覧ください。

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 今回は、令和6年度版の新しい教科書から登場した緑色の教科書、My Dictionaryです。私が担当しているクラスでは、子どもたちが「緑本(みどりぼん)」と勝手に命名しています。それだけ子どもたちには身近な存在でもあります。そんな「緑本」、My Dictionaryの使い方について紹介します。

 

2.Before〜ある教室のできごと「ハブ先生!これは何に使うの?」

 休み時間に、ハブ先生と子どもが何か話しています。少し様子を見てみましょう。

 

 児童:「クイズです。英語の教科書は何冊あるでしょう?」
 ハブ:「え?1冊じゃないのかな?」
 児童:「ブブー!正解は2冊です。ほら!」
 ハブ:「あ〜!My Dictionaryね。たしかに2冊だね。」
 児童:「このMy Dictionaryって何に使うの?」
 ハブ:「自分の使いたい表現をいつでも調べることができるよ。」
 児童:「ふ〜ん、そうなんだ〜。」

 

 My Dictionaryは絵辞典のようになっていて、子どもたちが使いたい表現を、イラストを中心とした視覚情報をもとに選ぶことができます。ハブ先生も空欄のあるワークシートや教科書のLet’s Read and Write!などで、My Dictionaryの使用を促していました。

 

 

 しかし、この会話から分かるように、子どもたちにはハブ先生が伝えているような使い方が浸透していない様子です。ハブ先生は悩みます。
 「My Dictionaryは便利だけど、子どもたちが自主的に使って、便利さを実感できるような工夫はないか?」
 では、My Dictionaryを使って子どもたちが便利さを実感し、自ら使うことを促せるような指導の工夫はあるのでしょうか。

 

3.小学校外国語教育における「書くこと」

 そもそも「書くこと」における注意点は何でしょう。学習指導要領の解説(p.82)を見てみましょう。

 

イ 自分のことや身近で簡単な事柄について,例文を参考に,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書くことができるようにする。

 この目標は,英語で書かれた文,又はまとまりのある文章を参考にして,その中の一部の語,あるいは一文を自分が表現したい内容のものに置き換えて文や文章を書くことができるようにすることを示している。例えば,名前や年齢,趣味,好き嫌いなど自分に関する事柄について,英語で書かれた文,又はまとまりのある文章の一部を,例示された語句,あるいは文の中から選んだものに置き換えて,自分に関する文や文章を書く活動が考えられる。その際,例示された中に児童の表現したい語句,又は文がない場合は,指導者が個別に書きたい語句を英語で提示するなど,児童の積極的に書こうとする気持ちに柔軟に対応する必要がある。(下線部は筆者によるもの)

 

 中学校や高等学校の外国語科のように一から文章を作るのではなく、自分が表現したい内容のものに置き換えて文や文章を書くことが求められています。そのためには、「まとまり」への気づきを促す必要があります。「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現」とあるのは、語句や表現に何度もふれたり、繰り返したりする中でそういった気づきを促すことができるからです。(下線部は筆者によるもの)

 

※「まとまり」とは…?(学習指導要領解説 p.130より)
 例えば,主語+動詞+補語という文構造を用いて人物を紹介する際,次のように音声とともに英文を列挙して提示することで,is が共通して用いられることや,is の後ろに説明する語句が続くことなどに気付かせることができる。
This is my hero.
He is a good tennis player.
He is cool.

 

4.After ハブ先生の実践

 ここは授業づくりを2%ほど変えたハブ先生の教室。    
 今日の主な活動は、6年生のLesson 6の将来の夢についてやり取りし、自分が将来したいことについて例文をもとに書き写すことです。
 では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。

 

 ハブ:「Let’s talk about your dream.」
  〜ペアで将来についてやり取りをしている〜
 児A:「What do you want to do?」
 児B:「え〜、なんだろう。ん〜 I want to go to France.」
 児A:「Oh, France. Nice.」
 児B:「How about you?」
 児A:「I want to be a vet. I want, I want to…. 動物を助けたい。」

 

 どのペアも前時までに習った既習事項を使いこなしながら、やり取りをしています。
 ただ、言いたいことを英語にして伝えるのは限度があるようです。
 もう少しペアの様子を見てみましょう。

 

 児B:「助けたい?この前のワークシートに似た文を書いたような…」
  〜児童Bがワークシートを見返す〜
 児B:「あった!あった!これこれ!前の授業で人を助けたいっていうのがキーフレーズになったよね。」
 児A:「peopleが黄色になっているから…。I want to help animal.」
  〜様子を見ていたハブ先生がさりげなく声かけをしつつ、リキャスト※する〜
 ハブ:「Aさん。It’s a nice dream. You want to help animals.」
 児B:「先生、僕もフランスに行って料理を作りたいって英語で言いたいけど…。」
 ハブ:「緑本、My Dictionaryを見てみよう!」

 ※リキャスト…児童の発話に誤りなどが含まれている時に、指導者が全体を言い直して行うフィードバック。

 

 

 

 Beforeでは子どもたち自身がMy Dictionaryの使い方があまり分かっていないようでした。これは、「まとまり」の理解が伴っておらずMy Dictionaryの役割が単語を調べるだけのものとなっていたからです。
 それを踏まえて、ハブ先生は毎時間のキーフレーズを書く時間を設定し、文書作成ソフトを使って教室の大型スクリーンに提示をしました。

 

 

 ハブ先生はその際、以下のような工夫をしました。

 

 ・子どもたちの実態に合わせてキーフレーズを提示する。
  →決め打ちではなく、子どもの「伝えたい」を大切にする。
   そうすることで「書くこと」への意欲が高まる。
 ・空白となる部分は灰色とする。
  →aが2文字分入る程度と伝える。
 ・黄色の部分は子どもたちが自分の思いに応じた表現に直す。
  →ただの写す「作業」にしない。

 

 引き続き、6年生のLesson 6での授業です。今日の授業におけるキーフレーズを提示する場面です。

 

  〜ペアトーク終了後、一斉指導の場面にうつる〜
 ハブ:「Aさん、What do you want to do?」
 児A:「I want to help animals.」
 ハブ:「Oh! Nice! Do you have any pets?」
 児A:「Yes! 2 dogs!」
 ハブ:「You have 2 dogs. I like dogs. How about you? Bさん What do you want to do?」
 児B:「I want to go to France. I want to cook delicious food.」
 ハブ:「Great! I want to eat your cooking!」
 ハブ:「実は、Bさんはさっきまでフランスに行きたいという思いだけを伝えていたんだよね。」
 児B:「ワークシートと緑本を見直して、新しいのをつけくわえました!」
 ハブ:「That’s great! Today’s key phrase is…」
  〜キーフレーズを確認後、ハブ先生がパソコンに” I want to cook delicious food.”と打つ〜
 ハブ:「Where is “yellow”?」
  〜子どもたちはそれぞれ自分の表現が変更できるとこを口にします〜
 児童:「cook, food, delicious…」
 ハブ:(文書作成ソフト内で黄色のマーカーを入れながら繰り返す)「cook, food, delicious…」
 ハブ:「Let’s open your My Dictionary.」
  〜子どもたちは、キーフレーズをもとに自分の思いをのせた文を書き写す〜

 

 ハブ先生は黄色の部分(自分の思いをのせられる)を確認してから、My Dictionaryを開くように指示をしました。そうすることで暗示的ではありますが、「まとまり」について理解を体験的に促すことができると考えたからです。こういった指導を継続することで、「まとまり」の理解だけではなく、「書くこと」への慣れ親しみにつながります。

 

5.After ハブ先生の実践〜番外編

 ここはハブ先生が授業を担当している6年生の教室です。3学期になり、中学校の外国語科にむけて学習のつながりを意識していきたいハブ先生です。
 「今日の授業はこれまで…(時計を見ると授業終了時刻まで5分)。よし、中学生チャレンジだ!」
 「My Dictionaryの○ページに3つの単語が載っているね。3つの単語は読めるかな?この3つのつづり、アルファベットの並びを3分で覚えてみよう。3分後に覚えているか自分で確認してみよう。」
 子どもたちは「え〜!」、「できないよ〜!」という感じですが、いざタイマーがスタートするとそれぞれがそれぞれの方法で、つづりを覚える作業が始まりました。
 「はい、時間になりました。My Dictionaryの文字の部分を隠して、ワークシートのメモの部分につづりを書いてみましょう。書けたら自分でチェックしてね。」
 ハブ先生は「こんなに覚えられたの?」、「ここまでできたの?」とできた部分を認める声かけをしています。子どもたちの「書くことの憧れ」を大切にしながら、中学校に向けた素地を養うこともめざした取り組みです。
 さらに「どうやって覚えたの?」と問いかけることで、自分が取り組んだ方法と友だちの覚え方の工夫とを比較することができます。ゲーム的な要素が強い活動ですが、継続して取り組むことで、子どもたちが「自分に合った学習方略」を見つけることにつながります。自分に合った方法を中学校入学までに見つけることで、中学校での学習がスムーズになることが考えられます。

 

6.まとめ〜「使わない」は「モッタイナイ」、カタカナ台本からの卒業

 My Dictionaryを小学校で使い終わるのはもったいないです。QRコードで音声が聞ける絵辞典を、中学校の授業や家庭学習でも活用することができます。「小学校でやったな〜!」と思える、思い出せることが小中連携の第一歩です。小学校だけではなく、中学校の先生方も使ってみてはいかがでしょうか?
 My Dictionaryがあることで子どもたちは自分の思いをのせた文、文章を書こうとするようになりました。中学校の初期段階でも見られる発表原稿のカタカナ台本は、もちろん小学校でも多く見られます。継続した「書くこと」の指導によって、慣れだけではなく「憧れ」につなげてほしいと思います。小学校段階では、英語で台本を書くことは求められていませんが、子どもたちが英語で書こうとする姿勢やできていることは積極的に認めていきたいですね。
 書くことを継続して指導と評価することで、6年生の最後になると英語で台本を書く子がほとんどになってきました。「書くことが楽しい!」、「中学生みたいでしょ?」と誇らしげな笑顔にいつも驚かされています。
 次回は、「HOP・STEP・JUMP」の「HOP」の活用方法について紹介します。

 

参考文献

文部科学省 (2018). 『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』

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プロフィール

羽渕 弘毅    はぶち・こうき (西宮市立甲陽園小学校 教諭)

専門は英語教育学(小学校)、学習評価、ICT活用。広島大学教育学部を卒業後、高等学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。

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