羽渕 弘毅 (西宮市立甲陽園小学校 教諭)
2025年03月04日
1.はじめに
「このページどう使うの?」、「何のためにこのページはあるの?」と新しい教科書に関して、たくさんの疑問が先生方にあるかと思います。
この度は、そんな皆さんの悩みに少しでも寄り添うために自分の実践を紹介します。Before(あるある失敗談) and After(改善後)という形でまとめていきますので、明日からの授業づくりに2%ほど貢献できればと思います。
※こちらの事例も、ぜひあわせてご覧ください。
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time世界のおはなしってどう使うの?」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time ケンの冒険は使えば使うほど面白くなる!」
「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Panoramaは話すツールとなる!」
今回は、学習者用デジタル教科書です。
学習者用デジタル教科書が導入されたものの、「うまく授業で使えないなぁ〜」「そもそもどう使うの?」という声をたくさん耳にします。私が普段から取り組んでいる学習者用デジタル教科書の使い方について紹介します。
2.Before①〜ICTを活用した授業づくりの研修を受けたハブ先生
ハブ先生は、ある授業づくりの研修を受けました。大きなテーマは「ICTを活用し、授業改善を目指す」というものでした。今回の学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を進めるということを学びました。講師の先生は、「主体的・対話的で深い学び」の実現のために必要な道具の1つがICTであると強調されていました。
ハブ先生はそのことが強く心に残り、ICTを活用して主体的・対話的で深い学びを実現させようと考え始めました。そこで思い出したのが学習者用デジタル教科書の存在です。学習者用デジタル教科書を活用すれば、授業改善につながるのではないかという考えになりました。では、ハブ先生の授業はどのように改善されるのでしょうか?
3.Before②〜ある教室でのできごと
ここは今年度から初めて外国語科を担当することとなったハブ先生の教室。
今日は6年生の授業。Lesson 3「I went to the beach.」の(CROWN Jr.6のp.46)をメインの活動として考えています。学習者用デジタル教科書を活用することで、それぞれのペースで学習を進め、理解度を高めることを想定しています。
読者のみなさんはこのページを授業の中でどう「料理」されますか?
では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。
ハブ「Please open your textbook to page 46.」 ハブ「今日は、それぞれのペースでLet‘s WatchやLet‘s Listenに取り組んでもらいます。」 ハブ「タブレットを用意して、音声を聞いてみましょう。」 〜子どもたちはそれぞれのペースで動画を視聴したり、音声を聞いたりしている〜 ハブ「できましたか?」 児童「できました!」 |
学習者用デジタル教科書を使えば、たしかに子どもたちはそれぞれのペースで学習活動に取り組むことができます。しかし、ハブ先生は悩みます。
「せっかく学校に来て、教室に友だちがいるのにタブレットに向かって授業が終わるのは…。」
「これは子どもたちにとって学習の充実につながっているのかな?」
学習者デジタル教科書の活用で授業風景は変わったように見えますが、いわゆる「デジタル一斉授業」になっているような気がしています。
では、この学習者デジタル教科書を使って、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善につなげるにはどのような工夫がいるのでしょうか。
4.学習者用デジタル教科書?
そもそも学習者デジタル教科書の効果的な活用はどのような方法があるのでしょうか?
「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン(概要)」では、以下のような活用方法の例が挙げられています。
○個別学習の場面
(試行錯誤する、写真やイラストを細部まで見る、学習内容の習熟の程度に応じた学習を行う)
○グループ学習の場面
(自分の考えを見せ合い共有・協働する)
○一斉学習の場面
(前回授業や既習事項の振り返りを行う、必要な情報のみを見せる、自分の考えを発表する)
○特別な配慮を必要とする児童生徒等の学習上の困難の低減
(教科書の内容へのアクセスを容易にする)
○その他
(学習内容の理解を深めたり興味関心を高めたりする、教師の教材準備や黒板への板書の時間を削減し児童生徒に向き合う時間を増やす、児童生徒の学習の進捗・習熟の程度や学習の過程を把握する)
ハブ先生の教室での取り組みのように、もちろん個別学習の場面でも活用することが考えられますが、その他にも目的に応じた使い方が考えられそうです。
「目的に応じた…」
正直に言うと、ハブ先生は学習者用デジタル教科書を使用することが目的になっていました。「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、学習者用デジタル教科書の使用を促そうと思っていたところが手段と目的が混合してしまっています。
5.主体的・対話的で深い学びとは?
改めて、主体的・対話的で深い学びについて簡単に整理しましょう。整理をした図が以下のようになります。
竹内(2024)では、 「自分で目標を定め、計画を立て、方法を選び①、仲間を見つけて対話を通して協働し②、学習過程を振り返って③、必要に応じて目標や計画、方法などを調整④していく」(下線部、及び番号は筆者によるもの)と述べています。
学習指導要領では、このような学び方を求められていることを改めて意識することが大切です。普段の授業で、子どもたちの学び方をサポートするためにも指導者が意識的にこのような学び方を取り入れることが必要です。その中で子どもたちが、自分の学び方について認識したり、修正したりすることができれば良いですね。
6.After ハブ先生の実践
ここは授業づくりを2%ほど変えたハブ先生の教室。
今日の主な活動は週末の出来事について友だちとやり取りをすることです。
では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。
ハブ「Let’s talk about your last weekend.」 〜ペアで週末の出来事についてやり取りをしている〜 児A「What did you do last weekend?」 児B「I enjoyed swimming!」 児A「あ…Nice! え〜と何聞こうかな…。What did you eat?」 児B「I ate sushi.」 児A「お〜Nice! え〜と…。」 |
どのペアもやり取りではなく、一問一答のような活動が見られます。このような状況になることをハブ先生はある程度予想をしていました。
ハブ「How was your talking?」 児童「すぐ終わった!」 児童「何を話していいかわからない!」 ハブ「では、聞き手の人はどんなやり取りの工夫をしたかな?」 〜ペアワーク中に見つけた会話をもとにハブ先生が悪い見本として提示する〜
ハブ「Nice! Nice! Nice!」(例①) ハブ「…うん。うんうん。」(例②) ハブ「(ノーリアクション)」(例③)
ハブ「これでは話し手がどんなに頑張ってもやり取りできないよね?」 ハブ「聞き手はどんな工夫をすればいいのかな?」 〜児童はそれぞれに工夫を口に出す〜 ハブ「今日はそんな困った!を解決するためにあるものを準備しました。」 児童「え〜!なになに?」 ハブ「みんなのタブレットにあるよ。」 |
ハブ先生は授業準備の段階から、やり取りに関する「困った」を予測していて、それらを解決できるような資料を準備していたのです。
これは学習者用デジタル教科書のLet’s Watch!に用意されているアニメーションのURLとなっていて、登場人物の夏休みにおけるやり取りを視聴することができます。
アニメーションや動画は、速度や字幕を調整して一人一人が自分の状態に応じた選択やカスタマイズすることができます。
ハブ先生は学習者用デジタル教科書から子どもたちの「困り感」に寄り添えるような参考資料を用意して、それらを解決できるようなワザを見つけるように促しました。
もちろんワザを見つけるだけでは、先ほどのハブ先生のような「デジタル一斉授業」で終わってしまいます。
子どもたちも自分なりにワザを見つけ出したころ、ハブ先生はこう言います。
「一番いい技を決めよう!」
「見つけたやり取りのワザを黒板に書きに来てね。」
そうすると、子どもたちは自分が見つけたものとクラスメイトのワザを比較し始めます。
児童「え〜!同じ!」、「そんなの言っていた?」、「ここ聞いてみて!」
自然と仲間との対話が始まり、英語を何度も聞いて話し合うという流れが生まれました。
何人かの子どもたちが学習者用デジタル教科書の字幕を参考に、ワザを黒板に書き写しました。
見つけたワザを全体で共有した後に、もう一度ペアで週末の出来事についてやり取りをします。前回のやり取りよりもスムーズさが増して、Let’s Watch!のモデルのようにやり取りを続けようという姿が見られました。
7.まとめ〜「教えやすく」ではなく
「学習者用デジタル教科書」と聞くと、今の授業では必要ないと思う方もおられるかもしれません。もちろん学習者用デジタル教科書がなくても魅力的な授業をされる方はたくさんおられます。
しかし、同時に大切にしていただきたいのは、指導者主語の「教えやすさ」ではなく、子どもたちの「学びやすさ」についても考えてほしいと思います。
「教員は教えられたように教える」という言葉があるように、教わったように教えることから抜け出すことは難しいと言われています。しかし、今は教えるための道具はたくさんあるのと同じように、子どもたちが学ぶための道具もたくさん存在しています。
目的に応じた使い方の一つとして、学習者用デジタル教科書を使ってみませんか?
次回は、「My Dictionary」の活用方法について紹介します。
参考文献
文部科学省 (2017). 『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』
文部科学省 (2019).「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン(概要)」https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901/__icsFiles/afieldfile/2019/07/01/1349317_003.pdf
竹内 理 (2024). 学習指導要領における「学び」―英語教育の視点から 亀谷みゆき・竹内 理・江原美明・長沼君主『高校英語のパラダイムシフト―進化する授業づくりのヒント』(p.26). 三省堂
羽渕 弘毅 はぶち・こうき (西宮市立甲陽園小学校 教諭)
専門は英語教育学(小学校)、学習評価、ICT活用。広島大学教育学部を卒業後、高等学校での勤務経験を経て、現職。これまで文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。
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