関口 友子 (江東区立豊洲小学校)
2024年12月16日
1 はじめに
私は現在、英語専科教員として5・6年生に外国語科の指導をしています。様々な学級で指導していると、子どもたちの英語学習経験の差が大きいことが分かります。特にリスニングをする際、1回で聞き取れる子もいれば、何も分からなかったという子まで様々な反応が見られます。リスニングは、言語材料の導入の際に活用することが多いので、この段階で「もっと聞いてみたい」という意欲を引き出し、「聞き取れた!」という成功体験をしてほしいと思っています。
「CROWN Jr.」には、各Lessonの冒頭にパノラマトークが入っています。パノラマトークでは、見開きの大きなイラストについて、5年生では1分30秒程度、6年生では2分程度のまとまった英語が流れてきます。新しい英語表現や言葉の使い方などの気付きを促すことができる教材です。しかし、長い英文を聞くことになるので、英語に苦手意識のある子どもたちは早々に聞くことを諦めてしまいます。そこで、今回は、子どもたちが意欲的に聞く活動に取り組むことができる、パノラマトークの活用における工夫をご紹介させていただきます。先生方の授業作りの一助となれば幸いです。
2 実践事例:5年生Lesson5 She can bake cookies.
今回は5年生の実践を例に、活用する際のポイントを3つご紹介します。
① スキーマの活用
私は、1人1台端末の学習支援ソフトを使って授業を進めています。学習者用デジタル教科書と学習支援ソフトを連携させることで、個々の子どもたちの学びを見取ることができるからです。パノラマトークのリスニングを行う際には、下記画像のように学習者用デジタル教科書のパノラマ部分をスクリーンショットして、子どもたちに学習カードとして配信します。
子どもたちは手元に送られてきたイラストを見ながら、「町の絵だね」「道案内するのかな」「doctorってお医者さんのことだよね」とつぶやき始めます。私は、この時間を大切にしています。高等学校の英語指導において、リスニング力を高めるために「スキーマ」の重要性が指摘されています(中野, 2006)。スキーマとは、過去の経験に基づいて作られた抽象的な知識構造のことです。小学生も、生活体験やそれまでの学習体験から各々のスキーマを持っています。リスニングを始める前にじっくりイラストを見ることで、子どもたちのスキーマが活性化し、リスニングの際に、持っている知識を活用することができるようになります。良いつぶやきが出た時には、学級全体に共有するようにしています。
② 何回も聞ける環境
いよいよリスニングを始めます。パノラマトークでは、どの部分の内容がどの順序で出てきたかをイラストに書き込ませています。ただ聞くのではなく、聞こえてきた内容とイラストを一致させ、話の概要をつかめるようにしています。Lesson 5のパノラマトークは1分32秒の長さです。これだけの長さの内容を、英語で話される順番に気を付けながら聞くというのは、5年生にとっては少し難しいかもしれないですが、挑戦しがいのある活動と言えます。
1回目のリスニングが終わると、子どもたちの反応は様々です。「結構、聞き取れた!」という子から「何も分からなかった…」という子までいます。ここで私は「“One more time, please!” or “No, thank you.” ?」と聞きます。もう一度聞きたいのか、もう聞かなくても大丈夫なのか、しっかりと意思表示させるようにしています。多くの場合、子どもたちは「One more time, please.」と言います。そして、「One more time, please.」という声が出なくなるまで、何度も音声を聞けるようにしています。
中学校や高等学校の定期テストや英語外部試験では、リスニングで何回も英文を聞くことはできません。1回で正しく聞き取れる力を育てることも大切です。しかし、小学校段階では、何度も何度も満足できるまで英文を聞き、「聞き取れた!」という成功体験を積み重ねてほしいと思っています。そこで、パノラマトークでは、何度でも聞ける環境、そして聞きたいと意思表示できる環境を作っています。
③ 個に応じた教材
2回目のリスニングを始める際、お助けカードを配信します。聞いてほしいところにマークをつけた、下記画像のようなカードです。
この時点で、自分の力で書き込めている子もいますが、全員に配信し、使うかどうかは子どもたちに任せています。聞くポイントが絞られることで、英語が苦手な子どもたちも「もう少しがんばってみよう」という気持ちになります。
3回目のリスニングが終わると、6年生では「One more time, please.」の声はなくなり、どの子も「だいたいは聞き取れた」と満足そうな表情をします。5年生では4回聞きたいという子どももいますが、どの学級でもそれで「One more time, please.」という声は聞こえなくなります。
3 終わりに
5年生で初めてパノラマトークのリスニングをする時には「こんなの聞き取れないよ」と言っていた子どもたち。でも6年生になると「今回は、1回で聞き取ってみせる!」とリスニングへの意欲を見せます。長い英文を聞き、必要な情報を聞き取れたという経験は、子どもたちの自信となり、学習意欲の向上につながります。
そのためには、積み重ねが必要です。日本語でもいいからスキーマを活性する時間を設定し、何度も英文を聞くことができる環境で学習を積み重ねていくことで、子どもたちは安心して外国語を学習することができます。
これからも、子どもたちが楽しみながら、英語に対しての自信や自己効力感を高めることができる授業づくりについて考えていきたいと思います。
[参考文献]
中野美知子(2006) 『リスニング力を高めるために1 ―理論と実践―』(三省堂機関誌「高校英語教育」2006年夏号)
※「高校英語教育」アーカイブはこちら→https://tb.sanseido-publ.co.jp/kikanshi/kokoeigo/
関口 友子 せきぐち・ともこ (江東区立豊洲小学校)
東京都公立小学校主任教諭。学級担任として、外国語指導の研究に取り組んできた。東京都の現職教員大学院派遣研修で横浜国立大学教育学研究科へ進学し、2020年3月に同科を修了。2021年4月より、英語専科教員として勤務している。子どもたちが楽しく力をつけることができる外国語活動・外国語科の授業を目指して、日々実践に取り組んでいる。
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