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明日からの授業づくりに2%! Before and After
〜Story Time ケンの冒険は使えば使うほど面白くなる!

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小学校英語

羽渕 弘毅 (西宮市立甲陽園小学校 教諭)

2024年12月10日

1.はじめに

 令和6年度から、小学校教科書が新しくなりました。

 新しい英語教科書に関して、「このページどう使うの?」「何のためにこのページはあるの?」と、たくさんの疑問が先生方にあるかと思います。

 この度は、そんな皆さんの悩みに少しでも寄り添うために自分の実践を紹介します。Before(あるある失敗談) and After(改善後)という形でまとめていきますので、明日からの授業づくりに2%ほど貢献できればと思います。

 

※こちらの事例紹介も、ぜひあわせてご覧ください。

 「明日からの授業づくりに2%! Before and After 〜Story Time世界のおはなしってどう使うの?」

 

 今回は、CROWN Jr.が令和6年度版になってから登場した「Story Timeケンの冒険」について紹介します。

 「Story Timeケンの冒険」は会話文形式で構成されており、授業のなかでどのように取り入れればいいのだろうかという話はよく耳にします。

 

 それでは、今回もハブ先生の教室から改善案を考えてみましょう。

 

 

2.Before〜ある教室でのできごと

 ここは今年から初めて外国語科を担当することとなったハブ先生の教室。

 今日は6年生の授業。Story Timeのケンの冒険「Space Travel」(CROWN Jr.6の p.78)をメインの活動として考えています。

 読者のみなさんは、このページを授業の中でどう「料理」されますか?

 

 

 では、ハブ先生の教室をのぞいてみましょう。

ハブ:「1学期にもやったけど、ケンの冒険には続きがあるんだよ〜?」

児童:「え〜!楽しみ!」

ハブ:「では、音声を流すので内容をしっかり聞いてね。」

 〜ケンとルーシーの会話文が流れる〜

ハブ:「もう一度聞きたい人はいますか?」

児童:「は〜い!」

ハブ:「では、もう一度流しますね。」

ハブ:「では、下の問題にチャレンジしてみよう!」

ハブ:「英語に合う絵はどれかな?地球はどんな様子だったかな?」

ハブ:「では、答え合わせをしま〜す!」 

 

 ハブ先生が一方的に話してばかりで、子どもたちは退屈そうな顔をしています。

 「面白そうな内容なのに、どう扱えばいいのだろう。そろそろ成績処理の時期だし、このページだけに時間をかけることはできないし…。」ハブ先生は悩みます。

 では、この「Story Timeケンの冒険」を使って、子どもたちがイキイキと活動できる工夫はあるのでしょうか?

 

 

3.小学校の外国語科における「読むこと」の取り扱い

 そもそも「ケンの冒険」は、どんなねらいのために作られた教材なのでしょうか。

 CROWN Jr.6指導書(p.210)では、めあてが以下のように設定されています。

 

音声や絵もたよりに、物語を読み、ケンがルーシーに伝えた地球の様子を理解する。(下線部は筆者による)

 

 「ケンの冒険」は読む活動に使える教材です。ただし、「音声や絵もたより」にして読むことが求められています。語句や表現も直前のUnitまでに学習したもので構成されているので、既習表現の復習にも使うことができます。

 外国語が教科化となり、小学校でも「読むこと」について目標が記述されています。ただし、解説では以下のような説明がなされています。

 

「読むこと」,「書くこと」については,中学年の外国語活動では指導しておらず,慣れ親しませることから指導する必要があり,「聞くこと」,「話すこと」と同等の指導を求めるものではないことに留意する必要がある。(下線部は筆者による)

 

 「ケンの冒険」での活動は、学習指導要領では目標(2)読むことの

 

イ 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現の意味が分かるようにする。(下線部は筆者による)

 

に該当します。

 つまり、音声中心で慣れ親しんだことを起点として、文字へと接続することが目標とされているということです。

 読むことの活動として、ハブ先生は授業を改善しようと考え始めました。どのように授業は改善されるのでしょうか?

 

 

4.After ハブ先生の実践 その①

 ここは、授業づくりを2%ほど変えたハブ先生の教室。

 文字への慣れ親しみのためにも、「ケンの冒険」を1回きりの扱いで終わらすのはもったいないと考え、帯活動として毎回の授業で活用することを考えました。

 1回目の授業では、音声を中心としながら内容理解を促しました。教科書には簡単な選択肢の問題もついており、それらを活用することもできます。

 そして、1回目の指導以降は以下のような流れをもとに、帯活動としての展開を行いました。

 

 ■ペアでジャンケンをして役割を決める。

  ハブ:”Let’s do janken. Winners are Ken. Losers are Lucy. “

 

 ■音声を流す。

  ハブ:”Listen carefully to your roles. “

  ※こう指示をすることで、聞くことの必然性が生まれます。

 

 ■ペアで音読をする。

  ※指導者はうまくいっていないペアに寄り添い、サポートします。

  ※ある児童は、自分のペースで音声を聞くために教科書の二次元コードを読み取ったり、学習者用デジタル教科書を利用したりしていました。音声を参考にしながら練習している姿も見られました。

 

 ■ALTと間違い読み

  ハブ:”○○ sensei and I make some mistakes. Listen carefully and find them. “

  ※例えば、子どもたちがよく間違えるwant とwentの発音をひっくり返して読むことで、音への気づきを促すことができます。

 

 ■隠し読み

  ハブ:”Can you read? Can you fill in the blanks? “

  ※つけたい力に合わせて隠す部分を精選したり、増やしたりすることが大切です。

 

【教室のスクリーン画面】

 

 

先の事例と同様、ハブ先生はPowerPointにデジタル教科書をスクリーンショットで貼り、音声データも同じスライドに載せることで操作性を良くしました。

※児童が音声に十分に慣れ親しむと、隠す部分を多くしても、スラスラと読めるようになっていきます。

 

 ■(応用編)クイズタイム

  ハブ:”Let’s start quiz time. If you know the answer, raise your hand. “

  ※音声や文字に十分に慣れてきたら、会話文の理解について口頭で尋ねてみましょう。「クリスクロスゲーム」のように、ゲーム的な活動として行うことが多いです。

  ※このページでは、ハブ先生は以下のような英語の質問を投げかけました。

 

   ・”Where did Ken and Pam go? “

   ・”What did Ken and Pam see? “

   ・”Where does Lucy want to go? “

   ・”Do you want to go to space? “

   ・”What color was the earth? “

   ・”What color was Japan? “

 

 活動のはじめは、ハブ先生やALTの難しい質問に、子どもたちはポカーンとした状態でした。そこで、ジェスチャーを交えたり、スピードの強弱をつけたり、「聞こえた言葉から推測してね」という助言をしたりすることで、子どもたちも質問を理解していきます。

 表現だけを見ると「小学生にこんなに難しい質問するの!?」という感じですが、ハブ先生の子どもたちは質問の中のキーワードを聞き取って、自分なりに問われていることを推測している様子が見られました。「話していることについて推測しながら聞く」ことも、大切な活動のひとつですね。

 

※ 「クリスクロスゲーム」は、指導者に質問に対して分かった子どもが挙手をして回答するゲームです。全員が起立した状態で行い、正解した子どもたちは縦か横のクラスメートを座らせることができます。基本は全員が着席した状態になるまでこの活動を続けますが、子どもたちの様子を見て早めに終わらせることもあります。

 

 

5.After ハブ先生の実践 その②

 実はハブ先生は、「ケンの冒険」を使うにあたって意識していることがありました。それは、「動静の組み合わせ」です。主に音声を聞くこと(静)、音読をすること(動)、など、子どもたちの一つひとつの活動にメリハリをつけ、(静)と(動)が交互になるように活動を組み合わせていました。

 

 ・じゃんけん(動)

 ・音声を聞く(静)

 ・音読をする(動)

 ・ALTの間違い読みを聞く(静)

 ・隠し読み(動)

 ・クイズタイム(静と動)

 

 こういった動静の組み合わせにより、授業の中でリズムが生まれます。

 もちろん、毎回の授業で同じ内容のものを取り扱っていると、子どもたちにも飽きがきてしまうので、前学年や前学期に取り扱ったものや組み合わせを変えるなどして、日々の授業に「スパイス」を加えることも大切です。 

 毎回の授業に読むことの活動を取り入れることで、授業の中にリズムが生まれました。そして何より、はじめは読むことが難しかった会話文も読むことができる子どもたちが増え、自信をつけながら学習に取り組んでいる様子が見られました。

 

 

6.まとめ〜小さな小中連携

 中学校の授業に似ている?という感想をもたれた方もいるかもしれません。この活動には、普段の授業からできる「小さな小中連携」を目指しているところもあります。小学校での学習は音声が中心ですが、中学校では音声に加えて、大量の文字情報が入ってきます。中学校での学びを見据えた時に、小学校では音声だけに頼るのではなく、文字に関する指導も日々の授業の中で少しずつ取り入れていくよう意識しています。

 「Story Timeケンの冒険」は、1回の授業だけで扱うのは非常にもったいないです。毎回の授業において「読むこと」の活動を展開することで、小中連携の課題とされてきた音声と文字のつながりについてアプローチすることができます。

 明日からの授業を2%変えてみませんか?

 次回は、「Panorama」の魅力を紹介したいと思います。

 

 

参考文献

・文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』

 

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プロフィール

羽渕 弘毅    はぶち・こうき (西宮市立甲陽園小学校 教諭)

専門は英語教育学(小学校)、学習評価、ICT活用。広島大学教育学部を卒業後、高等学校での勤務を経て現職。これまで、文部科学省指定の英語教育強化地域拠点事業での公開授業や、全国での実践・研究発表を行っている。働きながらの大学院生活(関西大学大学院外国語教育学研究科学士課程前期)を終え、「これからの教育の在り方」を探求中。自称、教育界きってのオリックスファン。

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