石川 雄一郎 (海老名市立今泉小学校・有鹿小学校)
2021年02月16日
2020年度、小学校で外国語科が教科になりました。しかし! 私たちは新型コロナウィルス感染防止を意識した授業を繰り返すことしかできず、教科化に向けてこれまで準備してきたことが水の泡、、、 そんなことありません! 私たち小学校教員が心を込めて準備した授業を展開している限り、子どもたちの瞳は変わらず輝きます。
今回は、2020年度の実践に加え、マスクを取ってコミュニケーションできた2019年度の実践を紹介させていただくことで、小学校外国語教育の見通しや明日の授業への活力を養っていただければと思っています。
教科開き
3、4年生での外国語活動の経験を胸に、新5年生たちが外国語科の世界に入ってくる4月。子どもたちは外国語科の授業に対する期待と不安でいっぱいでしょう。そんな子たちにこそ、Hello! と元気よく声をかけたいものです。きっと様々な Hello! が返ってくることでしょう。私は、あいさつは「心と心の握手」だと思っています。まずは Hello! を通して子どもたちと心を通わせる努力が大切だと思っています。そしてこれは、マスクをしていても、フェイスシールドをしていてもできることです。
5年生最初の単元は自己紹介。初めての授業では、4年生までの外国語活動で培ってきた子どもたちの英語の力を信じて、ぜひ、思い切り発表させてあげてください。あいさつや名前に加えて、I like dodgeball. My favorite place is the playground. など、嬉しそうに話し出す子どもたちに出会えるはずです。
そんな子どもたちに伝えるべきことは、「何を話すか」よりも「どのように話すか」です。はっきりとした声、相手を見る目、柔らかな表情。この3つはコミュニケーションを支える土台ですが、子どもたちは既に国語科などで学んできています。子どもたちからすれば、外国語を通して、コミュニケーションの学び直しをしているという感じでしょうか。つまり、外国語科は言葉を暗記する教科ではなく、コミュニケーションの嬉しさを実感する教科なのです。「みんなでご飯を食べると美味しいね」と、素直に言える幼児のように、「一緒に学ぶと楽しいね」と言いたくなるところが、外国語科の授業の魅力だと思います。
小学校での最終地点
中学校、高等学校の先生方から見れば幼い子どもの小学6年生も、小学校の中では最も大きなお兄さん、お姉さん。そんな子どもたちが、小学校での外国語科の学びを全て終えた時、どのような姿だと思いますか?
ALT : What club do you want to join in junior high school?
C : I want to join the basketball club.
ALT : Oh, do you like basketball?
C : Yes, I do. I like basketball. It’s exciting. Do you like basketball?
ALT : No, I don’t.
C : What sports do you like?
ALT : I like rugby.
C : Wow! That’s great. Can you play rugby.
ALT : No, I can’t. But I like watching rugby.
C : Ah, I see.
ALT : You like basketball. You want to join the basketball club, so do you want to be a basketball player in the future?
C : No. I want to be a cook.
ALT : Oh, Why?
C : When I was 9, I went to Hokkaido with my family. We ate delicious Japanese food. It was great, so I want to be a cook.
ALT : Sounds great. Anything else?
C : Um…I like cooking, and my mother is a good cook.
ALT : I see. That’s why you want to be a cook. Nice dream.
C : That’s right. Thank you.
こんな風に、子どもたちがALTと楽しそうに会話する姿を想像すると、ワクワクしませんか?実は、これはただの想像ではなく、実際の授業中での会話を文字に起こしたものです。このコラム用に私が修正したのは冠詞の有無程度です。外国語を専門に教えている先生方はともかく、今まで教えたことがない先生方は、ぜひ、こんな夢みたいな姿を思い描きながら毎回の外国語科の授業と、それに向けた教材研究を楽しんでいってほしいと思います。
ただし!こんな姿を思い描き過ぎることでの「教え過ぎ」に注意してください。ときどき、必要以上の反復練習と暗記を強いてしまうという失敗をしてしまうことがあります。私たちは言葉を教えているのではなく、人との関わり方を教えていることを、いつでも思っていてください。そして、外国の音楽や文化にふれさせて、人に興味津々な子どもたちに育てていってください。
おわりに
日本の外国語教育では、「慣れ親しみ」という言葉が長く使われていますが、「つまり、どういうこと?」という質問をたびたび受けることがあります。私はこの言葉に「ふつうのことになる」という日本語訳をつけています。
〇〇〇に慣れ親しんでいる → 〇〇〇が子どもたちにとってふつうのことになる
つまり、「先生や友だちが〇〇〇を使っても意外じゃない。〇〇〇を自分が使うのも当然のこと。」という感覚です。そして、一歩進むとこのお手紙にあるように「生活の一部」になってくるはずです。
このお手紙は、6年生の保護者から学級担任がいただいたものです。外国語科での学びが、その子の、そしてその子の周りの人の幸せにつながるということは、誰にとっても嬉しいことだと思います。「中学校になったらもっと難しくなるから」「受験や就職で有利になるから」といった指導観の話でも、「しゃべれなくても機械翻訳機があるから」「外国と関わる気なんてないから」という未来の話でもなく、今を生きる子どもたちの「今」の生活を豊かにできるところも、外国語科の魅力だと私は思っています。
石川 雄一郎 いしかわ・ゆういちろう (海老名市立今泉小学校・有鹿小学校)
ヤマハ音楽振興会加盟店で楽器講師、中学校での音楽科実技講師を経て小学校教員として採用。学級担任として神奈川県数学教育研究連合会や日本学校教育学会で研究発表。近年は小学校外国語専科として、英語授業研究学会や日本児童英語教育学会で実践発表するとともに、神奈川県内で外国語教育の講師・助言を行っている。研究テーマは「小学校教員がする外国語教育」「無理なくできる総括的評価」。
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