本コラムは、奥住桂先生が長年綴ってこられたブログ『英語教育2.0』をもとに、新たな視点と内容を加えて再構成していただいたものです。実践に根ざした具体的なアイデアと、英語授業への深い洞察が詰まったそのエッセンスを活かし、先生方の授業に役立つヒントをお届けします。
奥住 桂
埼玉大学教育学部・大学院教育学研究科、「NEW CROWN」編集委員
2025年12月18日
英語で雑談すれば、すべて Listening の練習だ!
中学校でやっていた授業を思い返すと、授業の最初は、ALT と英語で雑談(Small Talk)から始めるのが定番でした。それぞれ近況を語ることもあるし、1つの話題について2人で喧々諤々語ることも。
私は元来おしゃべりで、授業中によく「脱線」して雑談をしてしまうのですが、「これ、英語でやれば生徒にとってはリスニングの機会になるじゃん!」と気づいてからは、躊躇わずに授業中に雑談をするようになりました。もちろん、英語で。
当時の ALT は中学生の既習文法などは把握しているけど、語彙の選択などの点では「よくわからない」そうで、スピードも含めて、わりとナチュラルに話していました。私はそれでいいと思っていたので、そのままにしてもらっていました。そうなると生徒が話についていけるかが心配になりますが、不思議と結構ついていっているんですよね。
「日本語でツッコむ」基礎編
「なんでだろう」と当時 ALT と考えてみたのですが、振り返ってみると ALT が英語で話している最中に、私は日本語で相槌を打ったり、ツッコミを入れたりしていたんです。最初は無意識にやっちゃってたんですが、気づいてからは結構意識的にやるようになりました。ALT も「あれがいいんじゃないか」と言ってくれていました。
例えばこんな感じです。
ALT: I went to Shibuya last night.
私:へー、そうなんだ、なんで?
ALT: Oh, one of my friends played the guitar on the stage. He is a good guitarist.
私:すごいね
中学生でもキャッチできそうな英文であれば、そういう英語そのものに対するツッコミはせずに、内容に対して日本語でツッコミを入れます。英語と日本語で会話をしているようになるので、ちょっと変なんですけど、これによって slow learners も ALT の話の内容を推測しやすくなるという利点があります。
ALT の話が簡単なときは、私も無理に日本語にしないで、英語でリアクションするようにしていました。そのへんは生徒の状態と話題の難しさによって臨機応変です。
「日本語でツッコむ」応用編
ここは注目してほしい、ここは全員に聞き取ってほしいというときは、あえて ALT の言葉を繰り返していました。
ALT: I went to Shibuya last night.
私: Oh, you went to Tokyo!
これによって、1回目に情報をキャッチできなかった生徒にも、追いつくチャンスが生まれます。
このへんは、英語教師としての基本的なテクニックと言えるでしょうけど、私はこの効用を、当時ハマっていた落語で再確認しました。落語って、噺家が一人二役をやりながら、結構意識的に同じセリフを(別の人の口を借りながら)繰り返しています。あるいは、相手が何か言ったふうに演じて、リアクションからセリフを想像させたりします。「もう1回聞こう」と音声を再生するのではなく、自然に何回も聞かせてしまう「聞かせる」ための工夫ですね。
そして、本当に難しい英文のときは、これを日本語でやってあげます。(例文は簡単なものですが)
ALT: I went to Shibuya last night.
私: え、昨日渋谷行ったの?
これは、実質的に通訳してあげているのと同じなんですけど、不思議とそういう感じがしません。slow learners のプライドは保ちつつ、適切な支援ができるので便利です。
fast learners はというと、ALT の話を概ね理解しているはずですが、「今なんて言ってた?」なんて内容確認しようとしても、あまり自信がないのか手を挙げてくれません。でも、私が日本語でツッコんであげることで、「ああ、自分の理解で合っているんだな」と確認することができて、安心するとともに、自信を深めることができると思います。
思いつきで始めた活動ではありますが、英語も日本語も言語なんだ、ということを実感してもらえる機会になるんじゃないか、これって複言語主義のひとつの形なんじゃないか、なんて後付けで意義を見いだしたりしています。手軽にできますので、Small Talk で置いてきぼりになっている生徒が多いと感じていたら、お試しいただければと思います。
ブログ元ネタ:ALTに日本語でツッコむ(2017年6月3日)https://anfieldroad.hatenablog.com/entry/20170603/p1
奥住 桂 おくずみ・けい
・千葉県野田市生まれ
・獨協大学外国語学部英語学科卒業、埼玉大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学
・埼玉県公立中学校教諭、帝京大学、埼玉学園大学を経て、現在埼玉大学教育学部・大学院教育学研究科准教授
・最近の関心は「ゲーミフィケーション」と「演技」
・このところラーメン派から蕎麦派になりつつある自分に驚き

先生向け会員サイト「三省堂プラス」の
リニューアルのお知らせと会員再登録のお願い
平素より「三省堂 教科書・教材サイト」をご利用いただき、誠にありがとうございます。
サービス向上のため、2018年10月24日にサイトリニューアルいたしました。
教科書サポートのほか、各種機関誌(教育情報)の最新号から過去の号のものを掲載いたしました。
ぜひご利用ください。