大島希巳江
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科、「NEW CROWN」編集委員
2023年12月04日
「日本一おもしろい話」プロジェクト(No.19 笑いとユーモアの根底にあるもの④ 参照)に投稿された話には、会話調で語られているものが多い、という特徴もあります。会話で構成されている笑い話には臨場感があり、それぞれの登場人物のキャラクターなども伝わり、よりリアルな話として伝達できるという利点があります。実際、投稿された話だけでなく、私たちも日常会話の中で過去の出来事や自分に起きたエピソードなどを話すときに、会話調で語ることが多いのではないでしょうか?
「昨日、旦那に“渡したお財布どこにやったの?”って聞いたら、“俺知らなーい”とか言うのよ。“俺知らない”っておかしくない? 絶対に渡したのに!」
「そういうとこあるよねー、旦那って。」
「いやいや、いい加減すぎるでしょ。だから私、“それ絶対に酔っ払って失くしたでしょ!”って怒鳴ってやったわ。」
「わかるわ。それはしょうがない。」
「そしたら“え?まじか?そうかなあ?”ってとぼけるし。」
たわいもない話であっても、内容はともかく、自分のセリフや相手が言ったセリフをそのまま言ってみたり、セリフに感情を込めて言ったりすることは珍しくありません。その時の相手の顔の表情や言い方の調子などをなるべく再現しながら、臨場感あふれる会話を構成します。日本語は、語尾の使い方(〜だよ、〜ね、など)や、呼称(自分のことを俺と呼ぶか僕と呼ぶか、相手をお前と呼ぶかキミと呼ぶか、など)の選択によって、話の登場人物の性別、年齢、性格などを表現しやすい言語です。そのため、会話調でエピソードを伝えることによって、プラスアルファの情報伝達ができるのです。これは、人間関係の構築に有効です。
英語圏であれば、同じ話でも伝え方がかなり違うであろうと想像できます。
“I asked my husband where he put the wallet I handed to him yesterday. Then he said he doesn’t know. Can you believe it? I gave it to him for sure!”
“Well, that’s how husbands are.”
“Oh yes, but that’s too much. So I scolded at him. I knew that he was just drunk and lost it.”
“Yes, no doubt. That happens.”
“He was just playing it off….”
「昨日、旦那に渡したお財布をどこに置いたのか聞いたのよ。そしたら知らないって言うの。知らないなんて信じられる?絶対に渡したんだから!」
「ああ、旦那ってそうよね。」
「まあね、でもやりすぎでしょ。で、怒鳴ってやったわよ。どうせ酔っ払ってなくしたんだから。」
「ええ、間違い無いわね。よくあることよ。」
「とぼけちゃってさー・・・。」
どちらかというと、英語ではこのようにナレーションスタイルで伝えられることの方が一般的です。ちょっと雰囲気が違うのがわかりますね。
日本一おもしろい話プロジェクトに寄せられた会話調のおもしろい話
【プリンター】
会社である日のこと。
部長:このプリンター、エイゴ(A5)で印刷できたよね?
事務員:はい!英語はできますけど、ロシア語は無理ですー。
部長:ええ!!でも俺、ロシア語できないから、それはどっちでもいいよ?
事務員:はい!私もロシア語わからないです!
部長:で、エイゴは印刷できるんだよね??
事務員:英語なら、もちろんできますー。
心配なので部長はA5はやめてA4に印刷していました。
【おじいちゃんだけひいき】
「お母さん、チョコレートあともう一つ食べてもいい?」
「ダメよ、もういい加減にしなさい。虫歯になっちゃうわよ。」
「ひどいよ。じゃあどうしておじいちゃんはチョコレート食べてもいいの?ずるいよ!」
「だっておじいちゃんはもう歯がないでしょ。だからいいのよ。」
その時の情景が目に浮かぶようです。一般の日常会話においても、私たちは会話調でエピソードを話しがちです。実はさらに観察すると、プロのエンターテインメントにもこの影響が及んでいることがわかります。次回はそちらに注目してみましょう。
<参考文献>
・「日本人がおもしろいと感じる話の傾向―日本一おもしろい話プロジェクト(2010年4月〜2011年3月)の結果と分析―」
『笑い学研究18(2011.7)』 大島希巳江
https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/18/0/18_KJ00007413866/_pdf/-char/ja (2023年12月4日)
大島希巳江
おおしま・きみえ
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科、「NEW CROWN」編集委員
教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。
1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている。
著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。
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