三省堂のWebコラム

大島希巳江の英語コラム

No.19 笑いとユーモアの根底にあるもの④:
「日本一おもしろい話」プロジェクトの結果から見る、日本の笑い

大島希巳江
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科、「NEW CROWN」編集委員

2022年11月30日

「日本一おもしろい話」プロジェクト

  前回紹介したワイズマン博士の調査結果には、1つ大変気になる点があります。それは、ワイズマン博士自身が「日本からジョークの投稿はなかった。やはり日本にはユーモアの文化や習慣がないようだ。」とコメントしたことです。確かに、ジョークが集まった70か国の中に日本は入っていませんでしたが、この調査は英語で行われたものなので日本人の目につきにくかったと考えられます。そもそも、日本には英語で発信して海外の人に理解しうる「出来合いジョーク」は少ないと思われます。しかし、それだけで「日本にはユーモアの文化や習慣はないようだ」という結論を出すのは少々乱暴です。

 

 

 

 そこで、その後ワイズマン博士に連絡を取り、日本の笑いとユーモアの特徴について説明をしました。そして日本で同様の調査を日本語で行うことによって、日本の笑いの傾向を分析したいと申し出ました。その結果、2010年に立ち上げたのが、「日本一おもしろい話」プロジェクトです。

 

 「日本一おもしろい話」プロジェクトでは、1年間、全国からおもしろい話の投稿をウェブサイトで募り、同時におもしろい話に投票してもらうという、「世界一面白いジョーク」と同じ方法をとりました。合計で569の話が投稿され、延べ1,949票の投票がありました。このプロジェクト名を「ジョーク」ではなく「話」としたのは、ジョークという言葉が何を指すのかが曖昧であることに加え、英語のジョークの翻訳が集まってしまうことも危惧されたので、日本人のニュアンスにより合ったものを考え、「おもしろい話」としました。また、「面白い」ではなく「おもしろい」とひらがな表記にしたのは、「面白い」という漢字表記には「興味深い」という意味の印象の方が強い、というプレ調査の結果があったためです。「笑える」という意味を強くもたせるために、ひらがな表記の「おもしろい」を使いました。

 

 この調査でどのようなことがわかったかというと、まずやはり多くの話が投稿者の体験談であった、ということです。それでも、あまりにも「内輪ウケ」すぎて、仲間うち以外の人にはわからないような話はあまり投稿されていませんでした。全体としては、言い間違いや同音異義語を使った、言葉に関する話が最も多く集まりました。この点からも、日本語のおもしろい話が翻訳不可能で、海外に向けて発信しにくいものであることがわかります。

 

 投稿者の年代を見ると、多くは40代・50代、次いで20代・30代からの投稿でした。これまでの海外のユーモア研究でも、ユーモアの作り手は主に社会との接触が多い30代~50代の男性である、という結果が出ているので、それに近い結果が出たと思います。性別で見ると、女性は突発的な偶然から起きる言い間違い・聞き違いなどに関する話が最も多く、男性からの投稿は作り込まれた言葉遊びや、文化・社会を反映した笑い話などが多い傾向にありました。

日本の「おもしろい話」のバリエーション

投稿されたすべての話を種類ごとに分類すると、次のようになりました。

 

1.言葉に関わるもの(言葉関連)

 1-1 言い間違い・聞き違い

 1-2 シャレ・同音異義語

 1-3 言葉遊び

 1-4 英語・外国語関連

 1-5 外国人の日本語

2.文化・社会を反映したもの

3.普遍的なもの

4.ナンセンスなもの

 

それぞれの項目に分類された、代表的な話(投票によってランキングが高かった話)をいくつか紹介しましょう。

 

1.言葉に関わるもの(言葉関連)

1-1 言い間違い・聞き違い

エントリー№ 99【さすが韓国!?】

友人3人と韓国へ旅行したときのこと。ホテルのベルボーイの人がスーツケースを全部運んでくれたので、チップを渡そうとすると彼は流暢な日本語で「いえいえ、キムチだけで結構です」と言った。キムチ…さすが韓国、チップの代わりにキムチがいいのか?と思ったところ、何度か会話(まだ韓国に来たばかりでキムチを購入していない、などの言い訳をして)をくり返すうちに「気持ちだけで結構です」という謙虚なセリフだったことが判明。

 

1-2 シャレ・同音異義語

エントリー№ 242【国語の勉強】

小学生の兄弟が国語のテストに向けて勉強していました。

兄「問題です。擬態語の例を挙げなさい」

弟「はい、ぴかぴか」

兄「じゃあ、次は擬音語の例を挙げなさい」

弟「えーっと…?わかった!そうどすえ!」

 

1-3 言葉遊び

エントリー№ 254【聞いてない】

娘が幼稚園に入る前の頃だったと記憶しています。叱ることがあって「ここ大事だわ! ちゃんとゴメンナサイって謝ることを覚えさせなくては!」と真剣に彼女の眼を見て言いました。「こういう時はなんて言うの?」「…?」「ほらっ!『ご』でしょ?次は?」「…ろく…」

 

1-4 英語・外国語関連

エントリー№ 492【名前は難しい】

友人が電話で宛先の名前と住所を聞かれ、「名前は○○英子です。漢字は、英語のエイに子どもの子です」と答えた。すると数日後、郵便物が届いたが、宛名はローマ字のAに子どもの子で、「A子」になっていた。

 

1-5 外国人の日本語

エントリー№ 23【日本語作文】

日本語を習っている外国人のクラスで「あたかも」を使って日本語を作りなさいという問題に、ある生徒が「れいぞうこに、ぎゅうにゅうがあたかもしれない」

 

2.文化・社会を反映したもの

エントリー№ 545【領収書】

私は雑貨屋で働いているのですが、ここでは基本的に学歴などは関係なくバイトを雇っています。ある日新しく入ってきた新人が「領収書書いてて思ったんですけど、この辺『上』って名前の人多くないですか?」って、本当にそんなこと言う人いるんだな…これがゆとり世代か…と思っていると、横で話を聞いていた店長が真顔で「俺もそれずっと気になってたんだよ、みんな同じ会社の人なのかね…」おいおい…店長…

 

3.普遍的なもの

エントリー№ 232【プロポーズ】

女性1「あたしこの間、結婚してくれって言われたの」

女性2「あたしなんか、2人同時に結婚してくれって言われたわ」

女性1「あなたが?誰から?」

女性2「うちの両親」

 

4.ナンセンスなもの

エントリー№ 466【おつかい】

小1の息子におつかいを頼んだ。

ママ「リンゴとジャガイモとキュウリ買ってきてくれる? 買ってこられるかな~?」

息子「はーい、大丈夫」

買い物から帰ってきた息子。

息子「なかったから、ダイコンとタマネギとナス買ってきた~」

 

 他にも思わず吹き出すような話がたくさん寄せられましたが、やはり特徴的なことは、普遍的なもの以外は「ある程度日本語や日本の社会常識を理解していないとわからない話がほとんどである」、ということです。特に、言葉を使った話が多いことはよく見ればすぐにわかります。この「日本一おもしろい話」の特徴についてもう少し詳しく見ていくことで、英語とのユーモア文化の違いが見えてきます。

<参考文献>

・「日本人がおもしろいと感じる話の傾向―日本一おもしろい話プロジェクト(2010年4月〜2011年3月)の結果と分析―」

 『笑い学研究18(2011.7)』 大島希巳江

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/18/0/18_KJ00007413866/_pdf/-char/ja (2022年11月30日)

 

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大島希巳江 著
定価 2,200円(本体2,000円+税10%) A5判 128頁
978-4-385-36156-7
2013年6月20日発行

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プロフィール

大島希巳江    おおしま・きみえ
神奈川大学 国際日本学部 国際文化交流学科,「NEW CROWN」編集委員

教育学(社会言語学)博士。専門分野は社会言語学、異文化コミュニケーション、ユーモア学。

1996年から英語落語のプロデュースを手がけ、自身も古典、新作落語を演じる。毎年海外公演ツアーを企画、世界20カ国近くで公演を行っている。

著書に、『やってみよう!教室で英語落語』(三省堂)、『日本の笑いと世界のユーモア』(世界思想社)、『英語落語で世界を笑わす!』(共著・立川志の輔)、『英語の笑えるジョーク百連発』(共に研究社)他多数。

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