三省堂のWebコラム

小学校外国語(英語) 「ふれ、なれ、したしむ」環境で“やり取り”を

第3回

全3回

表現する楽しさと伝え合う喜びを味わい、心を通わせるための「言葉」について

服部 吉彦(中部学院大学)

 前回のコラムでは、「小学校においても、これまでに培われた文化を大切にしながら、英語を使う必然性のある環境を、学校での他の活動や、教科、季節に関連する題材、また、子どもたちが住んでいる地域、つまり、ふるさとに関わる地域素材を使って構成したりして、英語学習を進めていってもらいたい」と締めくくりました。

 小学校における英語活動のキーワードは、「やり取り」ではないかと思います。児童が英語という言語を獲得していくために、先生方は、「教えたい英語が先にあるのか」「環境が先にあるのか」はともかくも、その両方を少しでも取り入れた言語活動を大切にして授業案を作成されます。言語活動は、「目的、場面がある」「相手に伝えるために、繰り返したり、違う言い方をしたりするなどの相手意識がある」「考えながら伝え合う」等、いろいろな要素があって成立します。また、言語の使用場面や働き、語、語句、文法事項などの言語材料等、意識しなければならないことがたくさんあります。そして小学校の担任の先生は、「英語学習者のモデル」と言われて久しいです。「担任―ALT、担任―児童、ALT-児童、児童―児童」等さまざまな活動形態を授業構成の中で多用して「やり取り」を豊富にすることが大切だと思います。

 「やり取り」は、言葉(言語)とそれが表す意味、状況、価値を直感的に把握できる能力を育てる機会になります。幼稚園教育要領では、「表現」について、次のように書かれています。

幼稚園教育要領

第2章 ねらい及び内容(一部抜粋)

表現

感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする。

2 内容

(7)かいたり、つくったりすることを楽しみ、遊びに使ったり、飾ったりなどする。

(8)自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりするなどの楽しさを味わう。

3 内容の取扱い

(3)生活経験や発達に応じ、自ら様々な表現を楽しみ、表現する意欲を十分に発揮させることができるように、遊具や用具などを整えたり、他の幼児の表現に触れられるよう配慮したりし、表現する過程を大切にして自己表現を楽しめるように工夫すること。

 これらは、保育現場での英語活動の要領や指針ではありません。しかし、これまでのコラムで紹介した例が、「自然な喜びや楽しさが園児の表情に出てくるように環境を構成し、言語を獲得していくきっかけとなる表現活動をおこなうことは、保育現場での英語活動でも可能であること」を教えてくれています。

 英語活動はALT(他、外部指導者)が主として行っていると感じる園があります。観察をすると、園児はALTと自然に“Hello”とにこやかに挨拶をしています。また、次のような場面がありました。ALTが、“elephant” と言うと、園児は “kangaroo” のカードを持ってきました。このとき、園児の笑顔が、ALTの英語使用を多くし、園児が適切なカードを取ってくると、ALTは、“Good” と笑顔でまた反応しました。そこには、言葉だけでない「やり取り」があり、今後は英語の「やり取り」となっていくことを予感させるものでありました。

 ある園長さんが、「外国人が隣にいることが普通の環境になるであろうこの子たちに、ALTが英語の活動だけでなく、給食や掃除の時間にも一緒にいることで、英語に触れることのできる機会を作っていきたい」と述べられていました。小学校にも参観させていただいていますが、ALTが給食や掃除の時間をともにする場面を多く見ます。

 過日、幼稚園の給食で、子どもが、給食で出された食事の中に、「豆」を見付けて、そばにいたALTに指をさして聞きました。ALTは子どもの意図を読み取って、“beans”と答えたのですが、周囲の子たちも、“beans”とにこにこして発話したのです。ALTとの自然な人間関係を感じる場面です。給食配膳中に、子どもが“Here you are.” “Thank you.”と言ってもいました。また、給食が近づくと、“hungry”とか 朝空をみて、“Sunny” “Rainy”等、英語活動の時間以外にも口ずさみます。そこの園では英語活動の素材を身近なものを使って構成をされていましたが、こういった場面を観た保育者さんは「子どもたちは、意識をせずに、英語も日常で使う言葉として使っているのですね」と述べられていました。子どもたちにinputされたものが、別の時期に同じような場面で outputされたことがうれしかったようです。

 外国の人と接することで起こる必然的な言語環境は、子どもたちに、「外国の人と接するときにどうあったらよいのか、どんな言葉でコミュニケーションをするとよいのか」等を気付き身に付けさせていくことになり、外国の人といることは「日常」の光景になるのでしょう。教師が意図するのは、「環境を構成」し、そこで、使われると予想される「表現」を用意し、非言語も含めてサポートしていくこととなります。英語に触れる活動を続けていくことで先生方の言語への関わり方も、「教える」から「なれしたしむ」「やり取りを楽しむ」、そして「一緒に考え、伝え合う」と変化してきていると思います。

本稿のまとめ

 このコラムの連載では、保育現場での英語活動を幼稚園教育要領の「領域」に観点をもちながら具体的な実践を紹介し、英語における保育現場と小学校との接続を考えてきました。小学校において悩みながらも奮闘されている多くの先生方に出会います。『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』に記述されている内容から自分の授業を構成する視点(例えば「やり取り」等)を決めていくとよいといった助言もさせていただきました。今後の取り組みの一助になればと思います。

プロフィール

服部 吉彦  はっとり よしひこ
中部学院大学教育学部子ども教育学科教職センター副所長・教授

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