第2回
全3回
服部 吉彦(中部学院大学)
本稿では、保育現場の英語活動を、「環境」に加え「言葉」の2つの領域の観点から考察したいと思います。
幼稚園教育要領に、言葉の獲得に関する領域の「言葉」のねらいは、次のように書かれています。
1 ねらい
(1)自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう。(心情)
(2)人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう。(意欲)
(3)日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、言葉に対する感覚を豊かにし、先生や友達と心を通わせる。(態度)
※( )部分は筆者が加筆。
先日、私は前回と同じ岐阜県内の保育現場(幼稚園)にて、「(ALT)先生に日本の遊びを教えよう」というタイトルでの年長の園児たちの英語活動を参観しました。
アメリカに帰省していたALTが1月に日本に戻り、久しぶりに園児と再会することになりました。授業はそのALTと担任の保育者によるもので、当日は保護者参観の日でもあり、保護者も参加した活動になっていました。保育者の皆さんは、どんな英語活動ができるだろうかと考えていたことでしょう。
活動の「環境」構成の工夫と英語活動でのやり取りによる「言葉」は、次の通りです。
① 日本や日本語にまだ不慣れな段階で年末年始にアメリカに一時帰国していたALTに日本のことをもっと知ってもらう機会となる活動にする。
② 日本の遊びの中で、園児たちが遊んだり、高齢者から教えてもらったりした園活動の内容を季節も意識して使用する。
③ 保護者参観も兼ねていることから、保護者にも参加を促す。
→「(ALT)先生に日本の遊びを教えよう」というタイトルで英語活動を行う。
「(ALT)先生に日本の遊びを紹介しよう」
①保育者とALTとのやり取りによる導入 |
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保育者:Where are you from? |
②園児たちが、保護者のところに行き、あいさつをして、遊び道具をもらってくる。 |
※用意された遊び道具:こま、けん玉、あやとり、なわとび 園児: Hello. |
③4つのグループにまとまって座る。 |
保育者:Everyone. Are you OK? |
④ ③の活動を4グループについて行い、ALTのコメントのあと、園児たちは、“See you.”の歌を歌いながら、会場の教室を退場する。 |
同様の取り組みは、小学校でも見かけられます。小学校では、ALTだけではなく、地域に住んでいる外国の人たちや、留学をしている学生等に、実際に日本の遊びを教えるといった活動を取り入れている学校もあります。また、ALTなどの出身地の遊びを提示され、異なる文化に触れたりしながら英語活動を行っている学校もあります。 今回の英語活動では、「環境」と「言葉」について、次の点が工夫されていました。 |
(1)幼稚園教育要領の「環境」の内容の中には、「(6)日常生活の中で、我が国や地域社会における様々な文化や伝統に親しむ」とあるが、取り上げた日本の遊びは、園児たちが、すでに、高齢者の人に教えてもらって一緒に楽しんだり、自分たちで遊びの道具として、こまやけん玉などを工夫して遊んだりしてきているものであり、身近な内容を取り扱っていることで、意欲や態度が養われている。
(2)今回の英語活動の課題は、「(ALT)先生に日本の遊びを教えよう」である。異文化の背景をもつALTと英語を使ったコミュニケーションが必然性をもつ場面となる。ALTに久しぶりに会うというだけで、「今度の英語活動はどんなかなあ。」と興味を示し、「日本の遊びを教えよう。」という言葉を聞いただけで、「あ、この間やったよ。こままわしは、どうだろう。おはじきもいいねえ。」などとワクワクとする。また、ALTのことを思いめぐらせる中で、「コマって知っているかなあ。やったことあるかなあ。」と考える。「コマって何というんだろう。ALTの先生に聞いてみようかな。」と思う。幼児にとっての慣れ親しみは、実際の場面や状況の中でできることだと思う。日本語と英語の区別なく言葉が広がることになる。園児より、“Hello.” “OK.” “Here you are.” “Thank you.”等の言葉が自然にでてきていたのは、これまでのALT(他のALTであったとしても)との英語活動の時間だけでなく、日常的に接する時間があり心を通わせる時間があったからである。
(3)保護者も参観をするという状況から、「保護者との英語でのやり取り」を取り入れたことも、興味を喚起する要因である。英語活動を園でやるようになってから、「家で英語の歌を歌ったり、園での活動をニコニコ話してくれたりして、こちらもニコニコしてしまう。」「子どもは園での活動を楽しみにしている。」等といったこともある。ここで工夫された活動は、園児が保護者のところに行き、“Hello.”をスタートに会話を交わすことである。 “How are you? I’m (fine).”や、“Go for it!”等と保護者が工夫して話しかけそれに応える場面もあった。
(4)英語を使う機会の設定が多くあった。「子ども─保護者、子ども─保育者、子ども─ALT等」である。物的、人的な環境をうまく構成することで、園児は、人と人とのふれあいを通して、人間形成の基礎が培われているのである。
今回は、「日本の遊びの紹介」ということで、これまで接してきた高齢者など身近な人との関わり、親しみを深めるとともに、英語活動では、日本の遊びを行うときに子ども同士で励まし合ったりして、一緒に活動をする楽しさや協力する喜びを味わう(領域でいうと「人間関係」)等の保育を、英語活動を通して培っていると感じました。
前号でも述べましたが、保育者、そして小学校の先生方の様々な活動のアイデアは、園児・児童の日常生活とつながる、豊かな感性を持ち合わせたものです。
小学校においても、これまでに培われた文化を大切にしながら、英語を使う必然性のある環境を、学校での他の活動や、教科、季節に関連する題材、また、子どもたちが住んでいる地域、つまり、ふるさとに関わる地域素材を使って構成したりして、英語学習を進めていってもらいたいです。
プロフィール
服部 吉彦 はっとり よしひこ
中部学院大学教育学部子ども教育学科教職センター副所長・教授
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