三省堂のWebコラム

小学校外国語(英語) 「ふれ、なれ、したしむ」環境で“やり取り”を

第1回

全3回

やり取りをするための「環境」について

服部 吉彦(中部学院大学)

~はじめに~

 現在、令和2(2020)年度の新学習指導要領の完全実施に向けての移行期間として、外国語活動の時間数の増加や学習内容の検討がなされています。また、各地で開催される研究会、ワークショップやフォーラム等の交流会に、多くの先生方が参加され、新学習指導要領の円滑な実施に向けた指導体制の充実、指導技術の向上等に努められています。

 保育現場に目を向けてみると、最近では、3歳から5歳児の園児が英語に触れる機会を設定しているところも出てきています。私のまわりでも見受けられます。新学習指導要領では、低学年では英語に触れることを必修としていませんが、小学校の中学年の外国語活動と高学年の教科化を考えるにあたり、先進の保育現場での英語活動に目を向けることもいいことだと思います。

 幼稚園教育要領には5つの「領域」が示されています。5領域とは、「各領域は、幼児の発達の側面から、心身の健康に関する領域『健康』、人との関わりに関する領域『人間関係』、身近な環境との関わりに関する領域『環境』、言葉の獲得に関する領域『言葉』、及び感性と表現に関する領域『表現』としてまとめ、示したもの」です。

 本コラムでは、保育現場の英語活動を、「環境」「言葉」「表現」の3つの領域の観点から考察し、小学校での外国語活動(英語)の“やり取り”を提案したいと思います。

第1回(本稿)

 やり取りをするための「環境」について

第2回

 やり取りをするための「言葉」について

第3回

 やり取りをするための「表現」について

 幼稚園教育要領の「環境」のねらいの(1)に「身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心をもつ」(心情)があります。

 先日、私は岐阜県内の保育現場(幼稚園)にて、“My Favorite Food”というタイトルでの年長の園児たちの英語活動を参観しました。下記に保育現場の英語活動を報告し、英語活動の考察と小学校における外国語活動(英語)で“やり取り”をするための「環境」を提案します。

報告:保育現場の英語活動(30分程度の活動)

※ALTと保育者(小学校における担任の役割)による授業(年長児40人程)

① Hello Songによる英語にしたしむ導入

・ALTと園児、保育者が一緒に歌う。

歌の最後でペアをつくりあいさつをする。そして、何度も一緒に歌いながらペアを替えていく。
Hello Song を歌い、歌の最後にペアをつくって、”Hello. How are you?” “I’m fine. / I’m hungry.”等とあいさつをする。最後に ”Good-bye.” と言う。

・保育者は、ペアのできていない園児のところに行きあいさつをする。

② My Favorite Foodのモデル提示

・保護者とALTの好きな食べ物についてのやり取りを聞く。

保育者:What is your favorite food?
ALT: Pizza. I like pizza. Do you like pizza, too?
保育者:Yes, I like pizza. And I like curry. How about you?
ALT: I like curry, too.
保育者:Do you cook?
ALT: Yes.

・「食べ物」「果物」「ケーキ」などのお店を作って、保育者がお店の店員となり、ALTや別の園児役の保育者がお店に行って、バイキング形式で自分のお皿に盛っていく。

(園児が行う活動のモデルを示す)
「食べ物」のお店に行って、

ALT(園児役):Hello. Pizza, please.
保育者(店員):Here you are.
ALT(園児役): Thank you.

③ ALT(園児役)は次の「果物」のお店に行って同じようにやり取りをして、 My Favorite Food づくりをする。

・園児と店員の英語でのやり取りは、下線部の “Hello. ~, please.” “Thank you.” となります。

ALTと保育者は英語で、“Good. OK.” 等、園児の活動をほめたり、“curry” “pizza” “onigiri” 等とヒントを示したりしながら支援する。

考察と提案[考察]

この園の年長の英語活動では、環境設定に次の点が工夫されていました。

工夫(1)

お店で園児たちが選択する食べ物は、それまでの園での造形活動で作った物であること。

 ピザ、カレー、ケーキ、リンゴ等、英語活動で使用する食べ物を新しく作るのではなく、保育活動を通して作成した子どもたちの作品を使ったことによる「身近な事物」「日常生活」などであり、「したしみ」「楽しみ」「興味・関心」の感覚を養うものとなっています。

工夫(2)

園児の話す英語が、「伝え合い」につながる「やり取り」が意識されていること。

 使用している言葉は、園での生活や遊びの中で使うことが可能な日常的なやり取りの言葉になっています。事例にあげた英語活動は「お店屋さんごっこ」の形態であり、このような活動は小学校の外国語活動(英語)でも行われていると思います。

 保育現場でのこの環境設定の工夫を踏まえ、小学校での外国語活動(英語)では、次のようなことを考えてみてはどうでしょうか。

考察と提案[提案]

工夫(1)

環境設定は、子どもにしたしみのある楽しくできるものであること。

工夫(2)

使用する言葉は、言語の働きを大切にして、日常的なやり取りの言葉を多用し、身振りや表情等も織り込みながら行うこと。

(1)について

 「何ができるか」「何を理解しているか」といった知識及び技能を体験的に身に付けていくためには、小学校の教室という環境の中に身近な環境を設定し、そこで使われるであろう表現を、発達段階と関連づけて、自然にふれ、学んでいくように授業を構成していくことが大切であると考えます。

(2)について

 幼稚園教育要領では、「言葉」の領域の「3 内容の取扱い」の項目に、(2)「幼児が自分の思いを言葉で伝えるとともに、教師や他の幼児などの話を、興味をもって注意して聞くことを通して次第に話を理解するようになっていき、言葉による伝え合いができるようにすること」とあります。

 この「伝え合う」という言葉は、『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』(文部科学省)でも大切にされていることであり、第1節 外国語活動の目標では、「中学年の外国語活動では、伝え合う力の素地を『外国語で聞いたり話したりして』と、『聞くこと』、『話すこと[やり取り]』及び「話すこと[発表]」の三つの領域を通して養う」とあります。また、第2節 英語 1目標では、(2)話すこと[やり取り]に、「学級の友達や教師、知っているALT等とのやりとりを設定する」「言葉だけでなく、動作や表情を手掛かりにすることで、相手の意図をよりよく理解したり、動作を加えて話すことで、自分の考えや気持ちをより分かりやすく伝えたりすることを児童が実感できるようにする」等と書かれています。幼稚園教育要領には、外国語活動についての目標が書かれているわけではありませんが、言葉を獲得していく過程の子どもへの指導にとってのヒントになると思います。

 私が見学した幼稚園では以下のようなあいさつ、お礼、返答、依頼、指示等が、ALTや保育者により使用されており、園児にとって親しみのある英語になるとともに、園児の状況にもよりますが園児自身も“OK. Let’s go.” 等と自然に使用していたことから、小学校においても、まずは、ALTや担任の先生が、より多くの英語使用をして児童にとってのinputを増やせば英語に慣れ親しむ環境になると思います。

「使われていた言葉」

あいさつ

Hello. Good morning. Good afternoon. Good-bye. See you.

ほめる

Good. Very good. Good job. Nice. Great. Wonderful. Fantastic.Beautiful. Excellent. Nice gesture. That’s right.

はげまし

Good luck. Nice try. Don’t worry. Close.

指示

Stand up. Sit down. Come here. Stop. Listen. Make 2 lines. Make a circle.

やり取り

Here you are. ― Thank you.
Are you ready? ― OK.
Let’s ~. ― OK.

 果物の種類についてやり取りをしている中で、ALTが “Do you like oranges?“ と質問すると、園児が “Yes.” と答えるといった状況は、幼稚園の英語活動の中でもありました。必然性のある自然な会話の流れの中での英語の使用は、コミュニケーションを図るために必要なやり取りとなると考えます。

本稿のまとめ

 保育者、そして小学校の先生方の様々な活動のアイデアは、園児・児童の日常生活とつながる、豊かな感性を持ち合わせたものであると、参観するたびに感じました。

 英語という言語に「ふれ、なれ、したしむ」そういう言語環境を設定し、「やり取り」を意識した英語活動を工夫していただきたいと思います。そのことが、小学校での外国語活動(英語)での「なれ、したしむ」、そして、「英語やるよ」「やったー」といった先生も児童も笑顔になる瞬間を味わえる機会につながっていくと思います。

プロフィール

服部 吉彦  はっとり よしひこ
中部学院大学教育学部子ども教育学科教職センター副所長・教授

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