三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第36回:まずは先生が生成AIを使ってみよう!

工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学

2023年10月10日

津久井

前回は、「ChatGPT(指示や質問に応じて文章を自動的に作成する対話型AI)」みたいな生成AIが出てきて、よいとか悪いとか、使えるとか使えないとか、いろんな議論があるけど、まずは先生がたが使ってみてどんなことが起こるかを知ることが大事だっていうところまで話したね。

 

工藤

電子辞書とか自動翻訳くらいまでならなんとなくイメージがつくかもしれないけど、内容生成のAIとなると、口頭で説明されても絶対わかんないからね。

 

津久井

そうそう、「ちょっと使ってみましょう」って言う方が速い。

 

工藤

ただ、新しいものを使う、っていうハードルを上げすぎちゃっている先生もいると思う。サインインとかログインとかって、めんどくさいじゃん? 自分もめんどくさいって思うことが結構あるよ。

 

津久井

たしかにね。以前だと、電子黒板とかも使わない先生は徹底して使わなかったもんね。メリット・デメリットの前に、「わたしは使わない!」って決めちゃって。

 

工藤

だけど、使ったことがないものはとりあえず一回使ってみて、そのうえで「ここの部分はこう使える」っていうのを考えていかないとね

 

津久井

ちなみにChatGPTに聞いてみると、「ChatGPTを活用した英語の授業は学習者の英語力の向上に役立つと考えられます」って言ってる。

実際に使ってみた

工藤

昨日自分も「ChatGPT」と「DeepL(機械翻訳サービス)」と「Grammarly(英文作成支援ソフト)」を全部立ち上げて、それぞれを行ったり来たりして使ってみたんだよね。自分が書いたものに対して正しいとか正しくないっていう判定をしてくれるし、内容に対しても提案を返してくれるから、すごく楽しかった。

 

津久井

うまくできてるよね。

 

工藤

あと、ライティングの採点もChatGPTにやってもらった。高校生レベルの英作文が100個くらいあって、「文法・語彙・構成の3観点で、それぞれ5点満点で評価してください」って指示したら、理由みたいなのも一緒に出してくれた。これがまた、ある程度まともなんだよ。

 

津久井

おおー。

 

工藤

ナラティブ系のライティングだったんだけど、2つの英作文を入れて「どっちがいいですか」って聞くと、「こっちは文法的にはいいんだけど、もう片方は内容がこういう風になっていて、最後のクライマックスが整っているからこっちがよい」みたいなコメントをくれた。その指摘も結構納得感があって。評価をChatGPTにやってもらうのもアリだなと思ったけど、いくつかの作文で試してみると中には教師の感覚とは異なる評価も出てくるんだよね。

 

津久井

なるほど。

 

工藤

教師の感覚と異なるものが出てきたときには、この評価をそのまま使うのは危険だなって思うんだけど、そうなったときには2つ考え方があるよね。「危険なのが時々出てくるからこれはもう使わない」か、「いったんChatGPTにやってもらって、自分で調整する」か

 

津久井

「まずはChatGPTにやってもらおう」っていう感覚になると、使ってみるハードルは下がりそうだ。

 

工藤

あとはサマリーも、ChatGPTに書かせるといいのが出てくるよね。

 

津久井

CEFRのA1の単語だけで作ってくれって指示したら一応できるもんね。

 

工藤

ただ、同じ指示でも毎回出てくるものは違うから、クオリティには差があるよね。最終的には手直しは必要。だけど、サマリーを何パターンか生徒に読ませたいってなったときに、先生が一生懸命ゼロから作るよりは、なにかベースになるものがあるほうがやりやすい

 

津久井

先生がどうしても自分で英文を作りたい場合は、先生が作ったものをChatGPTに入れて、そこから複数のパターンを作らせるとか。ChatGPTと競いながら、「自分ではこんなん作ってみたけど、お前(ChatGPT)はどんなの作る?」っていう感覚で、いいものだけ使うのもよさそう。あとは、意図的によいモデルとイマイチのモデルを生徒に比較させるときにも使えそうだね。

使ってみてわかった生徒向けの活用アイディア

工藤

生徒の学習ツールとしては、「会話ができる」っていうのがいいよね。ChatGPTとLINEをするみたいな感じでライティングの練習になる。ChatGPTは指示しない限り間違った英語は出してこないから、ChatGPTで作成されたものを読むとリーディングのトレーニングにもなるし。

 

津久井

そうだね。

 

工藤

ChatGPTは自分が書いたことに対して反応してくれるから、インタラクションの練習になるのが面白いなと思う。先生が、生徒ひとりひとりに対して即時的に答えるのはできなかったことだから。

 

津久井

自分で英語を書くし、出てきた英語を読むし、何もしないよりよっぽど考えてみようって生徒は思うんじゃないかな。たとえば、疑問文を習ってドリルをやったあとに、「できるだけ疑問文をたくさん書いてみよう」って言っても生徒はあんまり反応しないけど、ChatGPTが答えてくれたら、「おお! また書いてみよう!」ってなる気がするね。

 

工藤

一緒に「Grammarly」を立ち上げておけば、文法のチェックもしてもらえるし。

 

津久井

文法的な添削だけだったら、先生が自分でやるよりGrammarlyみたいなサービスのほうがよっぽど正確にやってくれるかもしれないね。

 

工藤

あとは、ChatGPTへの指示の仕方を生徒で共有して、自分で書いた英作文をChatGPTに評価してもらう。その評価を受けて自分で何回も修正して、最終的にはその時間内でできた作文を提出してもらう、ということもできそう。そうすると英作文を何度も書くことにつながるかも。

これ、実践するとどうなるかみてみたいなあ。やり続けると生徒がどういう方向に伸びていくか、あるいは伸びていかないか。

 

津久井

先生の負担を増やさずにフィードバックを与えて何度も書けるって、先生にとっても生徒にとっても得かも。ただでさえ教員の労働環境はブラック、って言われているから。

 

工藤

そうだね。先生自身の業務改善にもなるし、やっぱりまずは使ってみてほしいね

 

※この連載は、お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり、工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

 

 

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授

・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部

・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師

・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー

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