工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学
2022年12月01日
津久井
前回は、英作文指導の場面でAI翻訳ツールの使用を単に禁止するのではなく、上手な使い方を教えていきたいねという話でしたね。
今回は、実際にどんな授業展開ができるか検討してみますか。
工藤
前回例として挙げた、「明日朝早いんだよね~」という一文を例にお話しさせてもらうね。
AI翻訳ツールを使って英作文指導をしてみよう
工藤
例えばGoogle翻訳で、「明日は朝早い」と検索してみると、“Tomorrow is early in the morning.”とかって出てくる。
津久井
そうだったね。日本語と英語の感覚が違うから、カジュアルな文をそのままAI翻訳ツールに放り込んでも、主語がうまく定まらなかったり、うまく訳されないことがあるんだった。
工藤
そう、これはダメな例だけど、こういうダメな例を共有して、「何がダメだと思う?」とかって生徒を巻き込んで授業中に聞いてみる。そうすると生徒はどんなことを言うんだろうね。
津久井
「主語がおかしい」とか、「何が早いかが分からない」とかって言うかもしれない。
工藤
主語がおかしい、うん、たしかに主語が”Tomorrow”なのはおかしい。「明日は朝早い」っていう日本語の主語はなんだろう?きっと「私は」だよね。じゃあ、主語に「私は」って入れて、「明日は私は朝早い」とかて入力してみよう。そうすると、今度は“Tomorrow I will be early in the morning.”と生成された。
津久井
“I will be early”とかって出てきたけどこれは英語としてどうだろう。
工藤
英語が苦手な人はこれも不自然に感じないかもしれないけど、「明日は私は朝早い」の「早い」って何が早いんだろう。起きるのが早いの?家を出るのが早いの?…とかって考えてみて、次は「明日は私は朝起きるのが早い」って入力してみると、”Tomorrow I will get up early in the morning.”っていう英文が生成された。
津久井
お、これで英語的にも正しいし、元の日本語の意味を反映した英文が完成したね。
工藤
こうやって、翻訳ツールを使って日本語を英文にするプロセスを生徒自身もたどると、「あ、正しい英文を作るためには元の日本語にも主語を明確に入れないといけないんだ」、とか「何かが早いんだったら、早いのは起きることなのか、家を出ることなのかとかきちんと具体化して入力しないとGoogle翻訳くんはちゃんと英訳してくれないみたいだぞ」とか、生徒もだんだん理解してくるよね。Google翻訳は必ずしも完璧じゃないんだって分かるし、完璧な英文を作るためには元の日本語にも主述がきちんとしたものを入力しないといけないとか、文の内容を具体化しないといけない、って考えるようになる。これって、英作文をするときの日本語の処理プロセスと同じだよね。翻訳ツールを使って英作文をすることが、自力で英文を作るときの勉強にもなる。
津久井
たしかにね。きちんと翻訳ツールを使いこなすためには、日本語と英語の構造や感覚の違いを理解する必要があるんだね。上手に使えば、翻訳ツールを使って英作文に取り組んだからこそ学べることもあるね。自分で英文を書くときにも、「主語をどうしよう」とか「こういうときはitを主語にするんだな」とか考えられるようになる。
工藤
「翻訳ツールは使うな!」って言ってもどうせ使うんだから、「使うならこういう風に使ってみよう」、って話をして、先生も生徒と一緒に授業中に使って見せて、翻訳ツールを使って英作文をするとどういうことが起こるのかを共有する。そうすることで、翻訳ツールを使って英作文をしたとしても生徒にとって学びがあるし、翻訳ツールなしで自力で英文を書くときに必要なストラテジーを学ぶきっかけにもなるといいよね。
津久井
そうだね。
工藤
あとは宿題出す時も、「AI翻訳ツールを使って英作文をしても良いけど、AI翻訳ツールに日本語をそのまま入れるだけでは完璧な英文が出てくるわけではないからちゃんと自分でも考えてね。最終的に解答欄に書いた英文が完成するまでのプロセスを授業で共有してもらうから、どこまで翻訳ツールで英文を作って、どこから自分で英文を作ったのかが分かるように、翻訳ツールで調べたところは赤くしてきてね。」、とかってあらかじめ言っておくと良いかもしれないね。もしも全部真っ赤だと、全部翻訳ツールで調べたの?って周りから見ても一目瞭然だから、ちょっとくらい自分でやろうっていうモチベーションにもなるかも。
津久井
確かに!プロセスに注目した学習、面白そう。
工藤
まあこれはあくまでも一例で、こういうのを今後学校の教育現場にいる先生方と一緒に研究していかないといけないんだろうなぁ。
AI翻訳ツールが使えない「テスト」との兼ね合い
工藤
現状、まだ翻訳ツールを使って取り組んでいいよってなってる定期試験はたぶんないよね。そうなると、日常的に翻訳ツールに依存しちゃうとテストのときどうするかという問題もあるよね。
テストのときには使えないんだから自力で英作文をしてみようと言うだけではなくて、翻訳ツールの補助を受けるとどれくらいテストの成績が変わるのかを試しにやってみてもいいと思うな。たとえばテストの時間制約がある中で英作文の問題をいちいち翻訳ツールに入力してたらテストに取り組む流れが止まってしまうし、リーディングの問題で速読しなきゃいけないときに分からない文を翻訳ツールに入力してたら時間内に読み切れなくなって、問題が解けないかもしれない。時間制約が厳しいテストであればあるほど、結局AI翻訳ツールを使っても使わなくても、テストの点数は変わらないって可能性もあるよね。
津久井
たしかにそうだね。
工藤
生徒の方で、英作文やリーディングも、状況によっては翻訳ツールを使っても意味がないとか、むしろ使わない方が良い結果になるとか、そういうことを学んでいくんだろうね。
津久井
翻訳ツールの使用を最初からすべて先生がコントロールするのではなくて、一定程度自由に使わせる中で先生がコントロールする場所を作ることが大切なのかもね。生徒の目の前にタブレットのような便利なものがあると、生徒が自動的に便利な使い方を選択して便利なように使うけど、こちらが意図的に「便利なものを使わないで取り組ませたい」ってときには、「使わずに取り組んでみて良かった」、、「こういう場面でにこういう風な使い方をすると良いんだ」みたいな経験がないとダメだもんね。
翻訳ソフト、授業で使ってみよう。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路 くどう・ようじ
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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