工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学
2022年11月01日
津久井
一人一台タブレットを持っていることが当然になってきた昨今ですが、タブレットみたいなものには悪魔的魅力がありますよね。配って開けたそばから違うことをやっている子もいるくらいです。
今日はその中でも、英語教育の現場においてある種タブー視されている「AI翻訳ツール」についてお話したいと思います。
工藤
最近では、学校の先生方から「英作文や和訳といった課題を出しても、AI翻訳ツールに入れたものを答えとして持ってこられるから授業が成り立たない」、なんていう悩みもよく聞くようになりましたね。
そもそも新しいものは嫌われる?
津久井
先日、中学校に出前授業に行きましたが、中学生たちはものすごいスピードでタブレットとかを使いますよね。Googleで検索してちゃちゃって答えを見つけている感じで、タブレットの威力はすごいな、と。
一方で、「今はタブレット使わないで」、「辞書系のものは禁止」、みたいな指導もしていて。
工藤
今回のAI翻訳ツールに限らず、昔から「便利なものは使わせたくない」みたいな風潮はありますよね。教えている先生自身がしてきた学習と違うことをされると気持ち悪いという感覚は分からなくはないですけど。20年以上前だと、「メモは手書きでするものだ、写メはダメだ」、みたいなことが言われていましたよね。電子辞書に置き換わってきたときにも、なんとなく「紙の辞書が良い」みたいな感覚があったりとか。
津久井
便利なものに頼るのはタブーみたいな文化、ありますよね。でも、タブレットはもう配られちゃったから、「AI翻訳ツールを使うな」って言うのも無理があって。先生たちも頑張って、「最初はまず自分で考えよう!」と指導していたりもするけど、先生が机間指導しているうちに生徒はもう使い始めちゃっているのが実態ですよね。
「使うならこういう風に使おう」、というような指導をしていかないといけないフェーズに入っていると感じます。
AI翻訳ツールは全知全能か
津久井
そもそも、英語が苦手な子ほどAI翻訳ツールには頼りたがりますよね。これまでだと、白紙の上に自分でゼロから生み出さないといけなかったけど、AI翻訳ツールに入れると何かは出てくるわけだから。
でも段々と人間も横着になっていって、ただ検索して出てきたものを写すだけ、になると、ひょっとすると自分で書いた英文以上にひどい英語が出てきて終わっている感じもあって、それはもったいないですよね。
工藤
そうなんですよ。AI翻訳ツールって、少なくとも現段階では万能ではないですからね。たとえば、「明日朝早いんだよね~」みたいに普通に言う言葉をそのまま検索すると、”Tomorrow is early in the morning.”とか出てきちゃったりして。この英語じゃダメじゃないですか。
津久井
日本語と英語の感覚は違うから、カジュアルな文をそのままAI翻訳ツールに放り込んでも、主語がうまく定まらなかったり、うまく訳されないこともあるんですよね。
工藤
まあ日々進化しているから、いま工藤が検索したことによって機械学習が回って、明日からはちゃんとしたものが出てくるかもしれないですけど(笑)
そしてさっき津久井先生がおっしゃっていた通り、「英語が苦手な生徒ほどAI翻訳ツールに頼りたい」とのだとすると、指導の影響もあるかもしれないですね。
たとえば和文英訳をするときに、英文そのものが合っているかどうかだけをチェックされるのだとすると、生徒としては「合っている英文をつくりたい」という結果だけを意識してしまう可能性もある。
ただ検索して出てきたものを写すだけ
英作文指導の神髄
工藤
そもそも、英作文の指導で答えだけ共有していても仕方ないですからね。よくある、予習してきて当てられた人が黒板に書いて添削されて、「はいこれが別解です。テストに出るから覚えましょう。」みたいな指導ばかりを受けていると、授業中に恥をかかないためには「とにかく合っている英文」を書くことが生徒にとって重要になってきて、プロセスはどうでも良いと思ってしまいかねない。
だけど本来は、AI翻訳ツールを使おうが、使うまいが、どういう風にその英文を作ったのかというプロセスを授業で共有できると面白い。
津久井
たしかにね。プロセスが大事だって生徒も分かれば良いね。
AI翻訳ツールが全部うまく訳してくれたら、それを写せば「とにかく合っている英文を書く」という課題は済んでしまうけど、一方でそれで本当に英語力がつくのかみたいなところで先生方もどう指導すれば良いのか悩んでるでしょうしね。調べなくても分かるだろと思うような単語でさえも検索していたりするし。
工藤
AI翻訳ツールで調べたとしても、どういう風に調べたのか、複数あった候補の中からなぜこの表現や単語を選んだのかとか、そういうやり取りができると意義があるよね。英文を書くまでのプロセスが大事だと理解した生徒は、もしかしたらAI翻訳ツールで調べようとは思わなくなるかもしれないし。
津久井
AI翻訳ツールが「なんとなくやましい、ラクするために先生に隠れてこそっと使うもの」、というような位置づけになっちゃって変な使い方をするくらいなら、かえって表に出して授業の中に組み込んであげた方が良いですよね。ダメだダメだとするのではなく、一定程度自由な中で本人たちが自分たち自身で「これはやりすぎだ」、と気付くように。
ツールとしてうまく使う方法を考えて教えていかないと、もう隠してる場合じゃないよね。
工藤
ちょうど先日ゼミでもAI翻訳ツールを使って英作文に必要なストラテジーを学ぶことができるんじゃないかと議論したところなので、次回はそれを紹介しますね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路 くどう・ようじ
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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