工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、大妻中学高等学校
2021年09月08日
津久井
久しぶりのEnglish Coffee Breakになりました。緊急事態宣言下の休校や、行事の取りやめなど、コロナ禍の影響を、学校現場はもろに受けてきたね。
工藤
そうだね。大学でも、授業のことをはじめとして、対応に追われる日々が続いてる。授業はオンラインで進めていたし、学会やワークショップもほぼビデオ通話を使った開催になって、新しい生活様式が一気に浸透したね。
津久井
自分は2020年の春に異動したんだけど、新しい学校の生徒になかなか会えなくて、生徒との関係作りが大変だったな。
コロナ禍で学校現場に起きた大きな変化としては「オンライン授業」があるけど、使用感とか、生徒の反応とか、どうだった?
オンライン授業では難しかったこと
工藤
大学では元々、課題をオンラインでアップロードできるようなサービスを使っていたから、オンラインでのやり取りに全く対応できていないわけではなかったんだよね。ただ、そうはいっても、オンライン授業はほとんど経験がなくて、ビデオ通話をメインに授業を進めるのは、コロナ禍で初めて経験したよ。
自分は今、いくつかの大学で授業をしてるけど、オンライン授業への対応はやっぱり差があるなと思った。早い段階からビデオ通話を活用している学校もあるし、逆にもともとオンラインのサービスをあまり使ってこなかった大学だと、課題の提出方法がわからずに手間取る学生がいたりして、大学でも学校によるなと思った。
津久井さんの学校は元々そういうのを使ってた?
津久井
先生と生徒が双方向で使えるサービスを以前から契約していたんだけど、ちゃんと授業に使うのは、ほとんどの先生が初めてだったみたい。授業動画を事前に録画して、英語のテロップを入れるなどの編集をして、それを流すオンデマンド型の授業をしたよ。生徒からしたら、見ず知らずのおじさんが動画に出てきて、あれこれ話しているわけだから、びっくりしただろうね!
動画を共有できるプラットフォームにアップして、生徒には授業時間にそれを見てもらうんだけど、その時間中はクラスのチャットグループに待機しておいて、生徒とコミュニケーションを取れるようにしてた。ビデオ通話みたいな、生徒たちの顔を見て行う双方向の授業は、インターネット環境の整備と生徒との関係作りができていない状態では、難しくてできなかったな。
工藤
ひとつ聞きたいんだけど、さっき、授業を事前に録画しているって言ったじゃない。それで、津久井さんだと、これまでの経験上、こんなことを言ったらこんな反応が返ってくるだろうなって、ある程度予想はできると思うんだけど…。それでも、実際の声が届いてこないと、授業はやりづらかった?
津久井
オンデマンド型の授業は、想定外のことが起こらないから、表面的にはやりやすいの。 “Did you remember what I said? Oh, that’s right.” みたいに、生徒に語りかけるようにして進めるんだけど、どんどん一本調子というか、わざとらしい間になってしまったんだよね。その場のやり取りで生まれた想定外の反応にどう返すか? っていうところも含めて、英語を使う面白さだと思っているけど、それを味わわせる授業がオンデマンド型では難しくて。こう言ってくるだろうなっていう想定があると、自分の英語が台詞っぽくなっちゃって、録画を見直した時に、あまり面白くないなって思った。同僚の先生と話していても、生徒の反応を少しでも聞きながら授業を進めたい、っていう声が多かったな。
直接会えなくても、相手意識を持った授業を
工藤
オンデマンド型の授業が一方通行になるのは仕方ないと思うんだけど、かといって教師からの説明だけで終わってしまうのは、ちょっと物足りない気がする。
津久井
自分は、一方通行だとしても、なるべく相手意識を持って授業するようにしてる。具体的には、例えば動画の最初の10分弱はその日の内容に関わるティーチャートークをやって、授業の途中でティーチャートークの内容を拾ったり、字幕で示したりしてる。
工藤
特に小学校や中学校前半の英語学習では、音声的なインプットが非常に大事だよね。しかも中学校の場合は、毎回のレッスンで新しい文法や単語が出てくるから、音声をただ聞かせるだけではなくて、オーラルイントロダクションをやったり、絵や写真を使ったりして、先生が支援をしていることが多いでしょう。そういう導入がない状態で新しいレッスンの音声を聞いていても、習得につながるようなインプットにはなりにくいよね。
学習量は宿題で担保できていても、音声から自然に、例えば「主語+動詞」といった英文の構造の仕組みの感覚をつかんでいくようなことは、生徒1人ではできないからね。
津久井
そうだね。毎回新しい文法事項を学ばなければならない中学校は、オーラルイントロダクション、インタラクションが特に重要だよね。
あとは、音読練習もやっちゃう。「自分がみなさんの10秒後に読み始めるから、抜かされないように読んでください。Ready, go!」で始めて、「はい、どうでしたか? もう1回トライしたい人は、映像を戻してやってみましょう」っていう流れ。録画でやっているからリアルタイムの反応はないんだけど、授業アンケートを取ってみたら、なかなか好評だったよ。
工藤
英会話のテレビ番組みたいで、その方法は面白いかも。生徒に好評だった理由の1つは、自分のペースで音読できるからかもしれないね。教室での音読だと周りに合わせて声を出さないといけないけれど、この方法だと自分のペースやリズムでできるよね。もちろん、教室でみんなで合わせて音読する意味もあるんだろうけど。
他に、オンデマンド型の授業で留意しないといけない点ってある?
津久井
自分たち教師が「説明したり宿題でやったりした内容は身についている」という発想にならないようにしたいね。コロナ禍では、対面授業のとき以上に気をつけておきたいところ。対面ですら教えたことがすぐには身につかないものだから、オンデマンド型の授業では、より長い目で見ていきたいなと思ってる。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
大妻中学高等学校、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在大妻中学高等学校教諭
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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