工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,大妻中学高等学校
2020年04月06日
工藤
新年度が始まりました!新しい生徒を迎える準備で忙しい時期ですが,体調には十分気をつけて乗り切っていきたいですね。
津久井
今年度から教壇に立つみなさんも,どうぞよろしくお願いいたします!一緒に頑張りましょう。
教師になりたての頃がなつかしいな…。授業が指導案通りに進まなくて,つらかったのを覚えてる…。
一部の生徒しか発言していない…?
工藤
教育実習後の学生の日誌に,クラス全員が授業に参加してくれなかった,とか書いてあるのを見かけるよ。
津久井
答え合わせやペアワークの共有の場面では,英語の得意な生徒や授業の空気を読んでくれた生徒が,率先して「はいはいはい!」って発言してくれることがけっこうあるよね。もちろん,クラス全体で共有する時間をとること自体が悪いわけじゃないんだけど,一部の生徒の発言だけで授業を進めることができてしまうから,英語が苦手な生徒にとっては,ちょっと居づらい環境になっちゃうんじゃないかとも思ってて。
工藤
たしかに。そういうシチュエーションがつらくなって,生徒はどんどん萎縮しちゃうよね。
津久井
そう。英語が得意な生徒,空気を読んでくれた生徒がたくさん発表していく雰囲気の中で,急に当てられて「ここの答えわかる?」「…わかりません」っていう場面ばかり体験してしまうと,いざ発言しよう,授業に参加しようって言われても,英語が苦手な生徒はチャレンジできなくなっていくんだよね…。
工藤
答えがわかってる生徒がどんどん発言している授業は,活気があるように見えるけど,全員が授業に参加できているかどうかってことは,気をつけておかないといけないね。
生徒全員が授業に参加するためには
工藤
まず,英語が苦手な生徒を無理なく授業に参加させるには,授業参加へのハードルを下げるのも,ひとつの手だてだよね。
津久井
英文の中の単語を調べる時間をとるときに,生徒が調べたことを黒板に書いて共有するじゃない。自分が生徒の発言を黒板に書いてもいいんだけど,そこであえて英語が苦手な生徒を指名して,辞書に書いてある説明を黒板に書いて,それを読んで,って指示するの。生徒からは「え,私が言うんですか」っていう反応をされるけど,「辞書に書いてあることを言えばいいんだから,やってごらん」って。そういう気軽に授業に参加できる場面をたまに作ってる。もちろん,指名の前にその生徒の学習の様子も確認したり,読み方を支援したりしておくんだけどね。
工藤
授業で発言することに,少しずつ慣れさせていくんだね。
津久井
そういうこと。生徒全員が参加する授業を作るっていうのは,生徒全員に参加できる場面を与えることじゃないかな。もちろん,最後まで辞書の発表にしか参加できないのはまずいから,英語力がつくように教師が責任をもって力をつけさせていく必要はあるけど。私も授業に参加できてるなって生徒全員が思える,居心地のよい授業にすることは,安心して発言するための第一歩だと思うよ。
工藤
今の「安心」っていうのは大事だね。発言に限らず,安心して授業を受けてもらう環境を作るのは教師の仕事の1つかも。この人についていけば力がつく,っていう安心感を,特に英語が苦手な生徒が持ってくれるといいね。
津久井
あとは,授業で必要な時に会話ができるような,クラスの雰囲気作りも必要だよね。自分がよく実習生にアドバイスしているのは,生徒が授業中につぶやけるようにするにはどうしたらいいか,ってことかな。そのためには,誰かがボソッとつぶやいたことを,今こう言ってくれたの?ってちゃんと拾うこと。この場合は,たとえ日本語のつぶやきだったとしても,”OK, in English!”とは言わないほうがいいね。生徒が頑張って出したことばをスルーしてしまうと,次から出てこないから。
先生も英語でのコミュニケーションを楽しもう
工藤
雰囲気作りの点で言うと,生徒に英語を使って授業に参加してもらいたいのなら,先生が英語でコミュニケーションをとろうとしている姿を見せていかないとね。
津久井
それ,すごく大事!生徒って先生のことを本当によく見てるから,先生がコミュニケーションを楽しんでないのに,“Communication is fun!” って言っても,生徒には響かないよね。苦しげな表情で言ったところで,先生は本心からそう思っていないんだなって,彼らは見抜いてるよ。
工藤
僕らに言ったこと,そもそも先生ができてないじゃん!って思われたら,英語を使わなくてもいいかな,ってなっちゃう。例えば,授業から職員室に戻るとき,ALTの先生と談笑したりしているところを生徒が見ると,先生も英語を楽しそうに使ってる,コミュニケーションをとるってこういうことなんだって思ってもらえたりする。そういう小さなことの積み重ねで,生徒も英語を使おうって思えるんじゃないかな。
津久井
いきなりパーフェクトな英語が話せなくても,身近な先生が英語を使ったコミュニケーションに挑戦している姿は,きっと生徒のロールモデルになるはず。もちろん,でたらめな英語をしゃべっていいってことではないから,教師自身の英語の表現や発音の正しさは,常に気をつけておかないといけないよね。
工藤
生徒の気持ちを気にして,というわけでは全くないんだけど,昔高校で教えてた時,レッスンに関連した面白い動画とか資料をときどき探して授業で見せてたことがあって。教科書以外の面白いものを探してくることで,自分たちのために探してきてくれたんだ,って思ってくれる生徒もいると思う。そこで興味を持って教材に向き合ってくれる生徒もいるかもしれないし。
津久井
そうだね。授業づくりの中で生徒たちに少しでも興味をもって学んでほしいとか,深く考えてほしいとか,そういう思いと授業のねらいとのバランスをとりつつ,適度に取り入れたいね。
工藤
生徒全員が授業に参加できるように配慮したり,先生が積極的に英語を使うようにしてみたりと,生徒と一緒に英語の授業を作り上げていこうっていう意識を先生が持つことから,始めてみるといいのかもしれないね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
大妻中学高等学校,「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在大妻中学高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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