三省堂のWebコラム

工藤洋路&津久井貴之のEnglish Coffee Break

第25回:「選択する力」を習得させよう

工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校

2020年03月02日

津久井

前回は,宿題の中でも主に予習・復習についてお話ししました。

 

工藤

生徒にメリットがあるような宿題を出そう,っていう話だったね。

 

津久井

うん。今回は宿題からひとつ枠組みを大きくして,「自律的な学習」について,考えてみたいと思います。

自律的な学習を目指せていますか?

工藤

中学校の話題から離れるけど, 高校だと1年生から毎日ゼロ限(朝課外)をやってるところがあるよね。先生がたが朝の7時台から学校で授業をするんだよ。

 

津久井

結構多くの学校がやっているって聞くけど,遠くから通っている先生と生徒は大変そう…。

 

工藤

教科書を早く終わらせるためにゼロ限を使っていたりするんだけど,ゼロ限なのに事実上の必修科目となっていないか,って以前マスコミでも話題になったね。生徒はそれをとらないと本来の授業についていけなくなるし,先生がたの負担も大きいし。

 

津久井

確かに。習慣になってしまっているのかな。

 

工藤

そういうふうに,授業時間を増やすことが当たり前になってしまうのは,この前(第23回)話した働き方改革の点から考えても,望ましいとはいえないね。

 

津久井

そうだよね。それに,授業時間を増やしてつきっきりでいることは,生徒の自律的な学習にもつながっていない感じがする

 

工藤

自律的な学習といえば,宿題の出し方の話に戻るけど,例えば「単語を10回書いてくる」っていう宿題も,その観点においては疑問だよね。自分の習熟度に合わせて回数を調整したり,そもそも書いて練習する方法は自分に合ってないと気づいたりっていう学びを得ることを目的としているなら,自律的な学習につながっていて意味があると思う。だけど,ただ慣習として,全学年にその宿題を課していたら,まずい気がする。

 

津久井

宿題がただの修行になっちゃうのは,避けたいよね。初期に勉強方法を学ぶための宿題として出すならわかるんだけど,毎回同じだと,ただの徒労に終わっちゃう。

勉強方法を固定していると,一部のよほどできる生徒以外は,自分の担当になった先生の勉強スタイルにずっと縛られてしまうというか…。いくら反抗的な生徒がいるといっても,なんだかんだ担当の先生のやり方に一応は従う場合がほとんど。だから,予習でレッスンの英文を丸々写してきてって言われたら,「しょうがないなあ」と思いながらも,大体の生徒はやってくるんだよね。

「選択する力」を習得させよう

工藤

僕は,学校は学び方を教える場所だと思ってて。こういう勉強をしたら実力が伸びるんじゃないかって生徒が自分で考えて,勉強方法を選択する力をつけなきゃいけないんじゃないかな。

 

津久井

なるほど。

 

工藤

だから,色々なやり方を体験していく中で,今の自分にはこれだ!っていう勉強方法が結果としてわかるのが理想だよね。それができる生徒を育てるためには,授業の中や宿題で提示する勉強方法がバラエティに富んでいることと,1つのやり方に縛りつけないことが大切かな。この勉強方法は自分に合うかな?って,生徒自身で考えるステップが必要だと思う。

 

津久井

全く同感!

自分が長期休みに毎回出す宿題に,「自由課題」があるんだけど。

 

工藤

何それ?

 

津久井

えーと,厳密には自由じゃないんだけど。

自由課題用のノートを用意して,こちらから提示した複数のタスクのうち1つを選んで取り組んだら,あとは指定したページ数に達するまで,自分がやりたい勉強をするのがルール。「自分のやりたい勉強」は,文法のまとめとかじゃなくて,自分で考えてアウトプットをしてくるように指示しているけど,それさえ守っていれば,内容は制約しないようにしてる。そのかわりに,過去の先輩の自由課題ノートを見せることで,「効果的な学習」の例を示すことはやってるよ。

 

工藤

なるほど。

 

津久井

学年が上がるにつれて選択肢やページ数の自由度を上げていって,3年生に出す「自由課題」は,宿題そのものを「やってもやらなくてもいいよ」になるの。自分が必要なことを「自由課題」としてノートにできるならそれでいいし,そうじゃない勉強をしたいなら,ノートにやってきて提出する必要はない。

 

工藤

かなり思いきった宿題だね。生徒はどんなことをやってくるの?

 

津久井

ライティングをしてくる生徒が多いかな。書評を英語で書いてきたり,他の授業でやったことを英語で説明してみたり。

 

工藤

なるほど。生徒がその時々の状況で,自分自身が必要だと判断したことを,適切だと思った方法でやってきているんだね。

 

津久井

そう。もちろん最初の頃は,効率が悪い方法でやっていたり,ただ好きだからっていう理由で学習方法や内容を選択していたりするんだけど,自分のやりたい勉強をして,その内容を共有させる時間を授業中に取って,というのを繰り返していくと,徐々に自分に必要な勉強やその方法がわかってくるんだよね。これも工藤さんの言った,「学び方を教える」にあてはまるんじゃないかな。

 

工藤

やっぱり,自分で選んで,自分で気がつく,っていうのが大事なんだね。津久井さんの「自由課題」も最終的にはそこに生徒を誘導しているんだよね。

 

津久井

そう!その通り!

学校では,生徒全員が大学に入ることを目指して勉強するわけじゃないけど,最低限の学力は保証しないといけないと思うから,例えば高校3年生が,自力で英作文が1文も書けませんとか,そもそも書いたことありませんっていう状態で送り出すのはまずいと思う。でも,そこをクリアしていれば,勉強の方法や時間はある程度生徒に委ねて,生徒の個々の違いを懐深く受け入れられたらいいね

※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。

プロフィール

工藤洋路    くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員

・1976年生まれ

・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)

・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授

・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部

・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース

プロフィール

津久井貴之    つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校

・1974年生まれ

・群馬大学教育学部・同大学院修了

・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭

・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく

・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー

『NEW CROWN』の詳細はこちら

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