工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2020年01月31日
津久井
今回も英語教育について,ゆるっとおしゃべりしていこうと思います。
この前,新任の先生から「どんな宿題が『良い宿題』だと思いますか?」っていう相談を受けて。
工藤
良い宿題,か。
津久井
そう。その相談を受けて,自分も宿題について改めて考えてみたいなということで,今回は宿題をテーマにしようと思います。
書き写す宿題は,何のため?
工藤
英語の宿題で,予習として次のレッスンの英文をノートに書き写すように指示する先生,けっこういらっしゃるよね。
津久井
書き写す予習は古文や漢文でもあるよね。他の教科で同じ宿題が出されてるのを見たとき,「あれ,何のためにやってるんだろう」っていう,素朴な疑問がわいてしまった。
工藤
たぶん,ノートに写した英文にSVとかスラッシュを書き込んで,教科書はまっさらな状態を保っておいて,次の時間に何も書いていない教科書を見たときに,授業でやったことを思い出しながら読む。そういう学習ステップを踏ませたいんじゃないかな。あと,誰でもできるから出してる,っていうのもあるかも。
津久井
たしかに。英文をコピペするだけだからね。
工藤
うん。これをやってこないっていうのは英語力の問題じゃなくて,やる気の問題だから。難しい宿題を出すと,わからなかったんですって言ってやってこない生徒もいるからね。
津久井
いるんだよなぁ~,そういう生徒。気持ちがわかる気がする…。
工藤
本当は取り組んでいなかったとしても,その真偽はわからないから何も言えないよね。そういう事態を避けるための,生徒指導的な側面も大きい宿題だと思う。
津久井
気持ちとしては共感できるところもあるけど,生徒指導的な意味じゃなくて,「英語を学習する」視点から見たとき,自分は書き写す宿題って疑問に思った。だって,まだ習ってなくて内容もよくわからない英文を写してるんだよね。理解ができていない文章をただ写すだけの宿題を,生徒は「やってよかった」って思えるのかな?
工藤
次の授業がわかりやすくなる,つまり生徒のためとも捉えられるけど,厳しい言い方をしてしまえば,授業を進めやすいっていう,先生側のメリットが大きいように思える。
生徒にメリットがある,家庭学習を
津久井
だから,最近は復習中心って言われてるんだよね。授業で何らかの学びがあって,その上で生徒のレベルに合わせた復習を提供して,宿題をやることで生徒側が得をするような。
工藤
復習の定番は音読かな。授業で理解して,Repeat after me.で読んで発音がわかったら,あとは家庭学習で音読する。ただ,音読の宿題はチェックしにくいから,形に残る宿題をさせる先生が多いね。簡単なものだと本文を書いて覚えさせたり,ちょっと高度になると,次の時間にリテリングを行うなら,その準備をさせたりするのが,復習としても効果があるよね。
津久井
基本は復習中心なんだけど,もし予習をやるなら,少し選択制にしてあげるとかがいいんじゃないかな。Q1から6までのうち奇数のQだけやるか,偶数のQだけやるか選んでやってって言うと,やってきたものにギャップが生まれる。インフォメーションギャップって言うとかっこうがいいけど。それを授業で聞き合うと,宿題でやってきたことが次の授業のやり取りに役立った!って生徒も思えるよね。
あとは,いくら予習といっても,ゼロからにならないように気をつけてる。授業で扱ったことの一歩先のこととか,最低限,次にやることのヒントを与えておけば,まっさらな状態から予習をするのと比べると,生徒も取り掛かりやすいんじゃないかと思って。たとえば,「次の授業はPracticeから入るよ」って生徒に伝えておくと,単語の予習に「やり取りで使うから」っていう目的が生まれるよね。授業と連携した予習を出すことで,取り組む意味を持たせることが大切だと思ってる。
工藤
はしごをかけておくのは,すごく大事だよね。
自分も高校で教えてた時,予習を最初はそんなにやらせてなかった。オーラルイントロダクションをやるし,ネタバレになっても嫌だなって思って。でも,だんだん,勉強を習慣づけるためには予習も大事かなと思うようになって。
あと,辞書を引く時間は授業中になかなかとれないから,そのための時間を確保する意味でも予習は必要かなと。でも,単語をいくつも調べないといけない予習は,しんどいからやりたくなくなっちゃう。だから,自分は「辞書を1回だけ引く」予習を宿題として出してたこと,あったなあ。その文章を1回読んでみて,この単語さえわかれば文章を理解できるぞ,っていう単語を1個だけ選んで意味を調べてきてって指示するの。そうすると何が起きるかというと,意外にもちゃんと読んできてくれるんだよね。1個だけって言われると,逆に気になるから。
津久井
これもやっぱり,生徒が単語を1個選べるっていうところに選択権があるから,意欲的に取り組めそうだね。次の時間,他の友だちが何を調べてきたんだろうっていう興味もわくし。
工藤
「何十個も調べる予習とか大変でしょ,1個でいいから」とか言って。
津久井
おもしろい。
工藤
でも,読まないと1個を選べないから。中にはもちろん,めんどうくさいから最初の1個をいきなり引いて5秒で終わらせる生徒もいるんだけど,全部の単語を意味調べしてきてって言ったらやらないのに,1個だけならやってくる生徒たちがいて。彼らは,ちゃんと自分で英文を読んで,意味の確認もしてきてくれたりするから,意外と手間ひまかけた勉強ができてる。英文を読む習慣づけのためには,こんな方法を使うのもアリじゃないかな。
津久井
たしかに。
宿題の目的は,たとえば勉強の習慣作りとか,授業に生かすとか,色々ある。だけど,教員の授業の進行を楽にするための,教員を助けるための宿題じゃなくて,生徒にメリットがある宿題を出すっていう意識を,常に持っていたいね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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