工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2020年01月06日
工藤
年が明けて,2020年になりました!令和2年ですね。
津久井
小学校での外国語教科化が全面実施となる年ですね。東京オリンピック・パラリンピックももうすぐです。今年も,よろしくお願いいたします。
突然だけど,昨年の7月くらいかな?中学校の先生方を対象にした研究会にお邪魔してきたのね。
工藤
そうなんだ。
津久井
そうそう,それで,ちょうど1学期が終わったタイミングだったから,「1学期を終えて,新任の先生方の悩みをお聞きしよう」っていうのがテーマだったのだけど。
工藤
なるほど,そこはぐっと英語の方に引き寄せたいところですね。
津久井
そうでしょう?自分もそのつもりで参加したのだけど,実は先生方が共通で口にされたのは,「とにかく忙しい」ってことだったんだ。
工藤
そうか~。
津久井
みなさん,「忙しいのはわかっていたけど,こんなに忙しいと思わなかった」って。でね,何が忙しいかっていうと…。
マルチという言葉で表すには多岐に渡りすぎるタスクが同時発生しているみたい。普通マルチタスクといっても,英語のアレと英語のコレと…っていうイメージだと思うのだけど,もう,全然違って,英語の授業準備と,文化祭の用具係と,事務に出さなくちゃいけない書類,みたいな。
工藤
もう,何が忙しいかがわからないくらい忙しいって感じですね…。
教師の働き方については,日々新聞やニュースなどでも話題になることがありますよね…。
津久井
「授業しているときは楽しいし,生徒も好きだし,先生になってよかった」っていう先生の言葉を聞いて,うれしい反面少し心配にもなっちゃって。今は授業準備をする時間を体力や情熱でカバーできているかもしれないけど,いつか本当に首が回らなくなっちゃって,「生徒にしてあげたいことができなくなった」とか,「本当はやりたい授業があったのに実現できなくなった」ってなったら,少し心配だなって。
カレーの箱には,秘伝のレシピ
工藤
「先生方がとにかく忙しい」ってことに関して,自分がまず思ったのは,教科書以外の活動をたくさんしようと思うと,当然準備が大変になってしまうってことなんですよね…。
津久井
確かにそうだね。
工藤
これは,自分も教員養成をしている身でいつもすごく悩んで,すごくジレンマなのだけど,自分で活動を作ることはスキルアップとして必要なことだし,でも,そこに時間をかけすぎてしまうと,絶対に終わらなくなってしまうので…。
津久井
難しいところだね。
工藤
で,しばらく「うーん…」って思って悩んでいたのだけど,以前,TVで深夜バラエティ見てね。
津久井
深夜バラエティ?
工藤
そうそう,何か1つのテーマにゆかりのある芸人さんたちが集まって,熱い思いを語り合うっていう番組で,「カレー」がテーマだったのね,そのとき。
で,とある芸人さんが,「おいしいカレーを作るには,何かユニークな隠し味を入れないとダメだっていうけれど,結局はルーの箱に書いてある通りに,普通の食材で普通に作るのが一番おいしい!」っていうようなことを言っていて。
津久井
なるほど!確かに!
工藤
そこで瞬間的に英語の授業もそうなのでは!?と思った。深夜に一人で…。
津久井
職業病だね。工藤先生の働き方が心配!
でも,考えてみたらそうだよね。一番おいしくなるように,カレーの専門家たちが,幾度の実験を重ねてルーもレシピも作っているんだから。
工藤
でしょう?英語の教科書も同じで,専門家たちが何回も会議して,何年もかけて…。
だから,だまされたと思って,教科書側が用意したものを頭から使ってみるっていうのも大事だと思うのだけど,実は多くの先生方がやったことないんじゃないかなぁ。
津久井
実はそうかも…。工藤先生の言ったこと,本当にその通り,本質だね。初めて作る料理で,いきなりレシピ見ないで「オリジナリティ」を出す,っていうのは「オリジナリティ」って呼んじゃいけない気がする。
工藤
そうそう,とりあえず教科書の活動を順に一通りやってみて,やっぱりここはうちの生徒に合わないな,とか。
津久井
うちの学校だったら,とか。
工藤
うん,変えるポイントだけ変えていったらよくて,そうしたら自分の学校や生徒に何が必要かも理解できるし,自作教材をたくさん作るよりも授業準備に時間がかからなくなって,忙しさも少しは軽減されるんじゃないかな。
ワークシートは引き算で
工藤
あと,先生方が日々大変だなと感じているのは,ワークシートかな?
津久井
そうだよね。
ワークシート作るのって全然悪いことじゃないし,もちろん自分も現在進行形で作っているけど…。かつての自分もそうだったのだけど,フォントをたくさん持っている先生がすごいとか,かわいいキャラのスタンプがついてくるとか,そういう点に目が行ってしまうと,厳しく言えば,指導技術から離れていってしまうんだよね…。
工藤
気持ちはわかる,でもそうなんだよね…。
津久井
さらに言えば,例えば,フェアトレードの題材で,たくさんのロゴマークや写真を載せてワークシートを作ったとしても,意外と費用対効果が薄いことがあって。先生の一言の発問や,教科書の内容がしっかり理解できていたほうが,よっぽど意見が書けたりするのだよね。
工藤
津久井先生,ふだんどんな感じでワークシート作っていますか?
津久井
自分は「引き算」の観点をすごく大事にしている。最初は,教師の英語での指示や思考のポイント,「ここに一文を書いてみよう」や「この表現を使って英文を膨らませよう」のような指示文も入れておく。とにかく最初はスモールステップなんだけど,それをscaffolding(足場かけ)の逆の発想で,だんだんと足場を外していくんだ。いつまでも「ワークシートに手取り足取り足場を作ってもらわないと自分で学べない,メモすら取れない」っていう状態はまずいと思うから。ワークシートを作る時間があんまりかからなくなるっていうのも一つあるけど,でも,だってねえ,世の中のもの,ほとんどワークシートなんて付いていないでしょ。
工藤
その考え方いいですね。その考え方だけで,ワークシートの全体設計が変わってきますね。
津久井
そう,あんまりワークシートに頼りきりになってしまうと,生徒の主体性を削いでしまうというか…例えば,ワークシートを使わない授業の日,生徒が何も書くものを持っていないという状況が起こりかねない。
工藤
中学校では英語ノートを運用しているところも多いから大丈夫かもしれないけど…。
ワークシート派の先生って,あんまりノートを運用してないイメージですよね。ワークシートに番号つけて,ファイル作って,ノート代わりにしているというか。
津久井
そう。ワークシートを用意しておくと,授業が型にはまって進んでいくからやりやすいのだよね。でもそれが,本当につけようとしている力がついているか,特に今大事にされている主体性とか,学びに向かう姿勢の観点で考えると,実は相反していることもあって。だから,自分としては,最初はたくさん補助輪があったとしても,少しずつ省いていって,最後にはノートに思い思いにメモをするというのが理想かな。将来的にはタブレットかもしれないけど。先生にとっても,指導や発問のブレをワークシートが補正してくれるから,それがいいときもある反面,逆にうまくいってなかったときに誤魔化されてしまってフィードバックが得られないという危険性も頭に入れておいた方がいい。ワークシートでがっちり道筋を固めすぎてしまうのは,先生と生徒双方にとって少し危険だよね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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