工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2019年12月02日
工藤
12月になりました,いよいよ今年ももう残り1か月ですね。
津久井
今回は前回に引き続き,ディベート・ディスカッション関連のテーマで話していきたいと思います。
前回,「ディベートやディスカッションを最後の活動と位置づけたら,一発勝負じゃなくて,普段の授業から少しずつサブスキルを鍛えよう」という話をしましたね。
工藤
しました。
津久井
今回は,学期末や学年末に行うディベートやディスカッションのトピック選択について話したいと思います。
トピックが重すぎていませんか?
工藤
自分は,ディベート・ディスカッションのトピックに選ばれるものが,社会的な問題や環境問題など,中学生にとっては難しいと感じるものになりがちなことに少し疑問を持っていて。こういうトピックで,いざディベート・ディスカッションをしようとすると何が起きるか。
中学3年生にもなれば,しっかり周りを見渡して,深い内容を日本語で考えることはできるかもしれないけど,その深い意見を英語に変換するところに無理が生じたり,キーワードが未習語になって,リスナーが理解できなかったり…現在の英語力という観点から言うと,かなり背伸びした展開になると思う。
もしも,その活動がディベート・ディスカッションという箱を借りて,新しい表現を学ぶことや,社会問題・環境問題に関する単語をインプットすることが目的ならそれでもいいかという気もするけど…。
津久井
通常は,ディベート・ディスカッション自体のスキルを伸ばすことが狙いだよね。とするなら,そのテーマ選択では,ディベート・ディスカッションのスキルは伸びていないと言わざるを得ない。
工藤
もちろん,ディベートをするのだから,ある程度かっちりしたテーマで,理屈をしっかり組み立ててしないと意味ないっていうのもわかるんだけど。
津久井
確かに,メタ的に考えたり,論理的に展開を考えたりする力を育成することも必要で,そのために日本語を使って考える場面があってもいいとは思うけど,その内容が現在の英語力で表現できないっていうのはやっぱりまずい。そのトピックは,生徒たちのレベルに対して重すぎる,という判断になるのだろうね。
工藤
レベルが高すぎてしまうと,聞いている生徒に伝わらないこともあるし,話している本人も「なんだかよくわからないけど,準備したことをわーっと話している」ような状態になってしまうのは,少し残念だよね。
日本語と英語を行き来しよう
津久井
自分がかつて担当した高2のクラスで,「日本ではあまりフェアトレードが広まらないけど,どうしたら広まると思う?高校生らしいアイディアで提案してみて」っていうテーマでディスカッションしてみたのね。出たアイディアは,「コンビニのレジ横に置き場を作る」「ロゴを若者に響くように刷新する」「フェアトレードの認知度を上げるゆるキャラを作る」っていうような,とても高校生らしいアイディアで,さらにその中のどれが一番高校生にフェアトレードを伝えるのに適しているかってディスカッションをしたのだけど,このくらいのテーマが高校生でギリギリ話し合えるかな,自分の感覚としては。
工藤
英語が好きで得意な高校生のクラスで,そのくらいだよね。
だから,中学生に環境問題とか社会的な問題を課しちゃうとやっぱり少し背伸びしすぎで,「無人島で生活するときに1つだけ持って行くもの」とか「担任の先生になってほしい有名人」くらいのテーマはどうだろう?
津久井
いいね。中学生でも話せそうだし,考えるのも楽しそう。
工藤
そうそう,そう思って。それで,途中途中で英語を使って…,例えば,ちょっと思いついたアイディアをペアで英語で共有してみるとか,途中段階で英語を使用するステップをはさむことで,「このアイディアでいけそうだ」ってなるかもしれないし,逆に「このアイディアを英語で表すのは無理だ」ってなったら,プランの段階でそのアイディアは外しておくとか。最後の最後で「どん!」と英語を話すのでなく,少しラフな段階を作るのが必要だと自分は思う。
津久井
そうだね。重いトピックを最後の手前までだーっと日本語で考えて,最後だけ英語となると,ほとんど日本語で授業している感じで,少し違和感…。
工藤
最終的には英語なのかもしれないけど,それも完全に日本語の変換になっちゃう。
津久井
確かに,いまの工藤先生の言ったこと,すごく大事だと思う。日本語と英語を「混ぜる」っていうのじゃなくて,「行き来」っていうのかな,それは1回でもいいかもしれないし,複数回必要なのかもしれないけど,途中でちゃんと英語のスイッチを押してあげるのって大事だね。そして,それが生徒の英語力で可能なレベルのトピックを設定することだよね。
工藤
英語を勉強してきているわけだから,当然英語でできる部分もあるし,できない部分もあるだろうから,「できる部分は英語でやろう」「できない部分は日本語で」ってスタンスで,そのうえで,全部が日本語でしかできないような背伸びなトピックは避けるといいんじゃないかな。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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