工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2019年10月07日
工藤
では,今回も津久井・工藤のEnglish Coffee Break,張り切って始めていきたいと思います。
前回は,音声をよりよくするためには,「英語を発するということは,コミュニケーションであって,相手に伝えるというマインドセットが必要」という話をしましたね。
津久井
そうでした。
工藤
もちろん,そういうマインドを持つことは大切なんだけど,マインドだけですごく向上することは難しいから,やっぱり実際には先生方の指導が必要だよね。今回は,音声指導の具体的な話に切り込んでいきたいと思います。
「大きく」「英語らしく」は,少し危険?
津久井
小学校でもチャンツが取り上げられたり,もちろん中学校でも音読をしたり,音声に関する取り組みはしているはずなんだけど…。
音読に関して一つ思うのは,伝えるためじゃなくて,覚えるために課している先生方が多い気がする。音に対する指導っていうよりは,インプットの一つとしての位置づけというか…。もちろん,生徒のモチベーションのためにも,逐一音に関する指導ばかり,というのもいけないのだけど。
工藤
あと,たぶんね,もし仮に音読のときに個々の発音とかイントネーションの指導をしていたとしても,その指導が本質をついていない可能性があると思っていて。
津久井
本質をついていない?
工藤
うん,いま教えている大学生で,留学を経験した学生がいるのだけど,彼女によると,向こうの大学で日本人はてきめんに音読を注意されたと。その注意の観点がね,「ピッチ」なんだって。英文の開始を高いところから始めるとか,低いところから始めるとか。
津久井
日本の中学校で典型的にされている音声指導といえば,「文末のイントネーション」,例えば,Wh疑問文やYes-No疑問文の文末の上げ下げであって,ピッチの話って確かにあんまりしないね。
工藤
そう,だけど,「文末を下げる」っていうことは,その前は上がっている必要があるし,その前はさらに,じゃあスタートは?っていう指導が本当は必要なのかなって,その話を聞いて思ったんだよね。文末の指導だけをしていると,途中までずっと平坦に読んでいて,最後だけ急にイントネーションがつくから不自然になっちゃう。
津久井
あと,あたりまえだけど,「英語らしく」って教えても,生徒には意味が伝わらない。
工藤
ああ,そうだね。
津久井
多くの先生方が,「大事なところは大きな声で言う」って指導するけど,これもちょっと曖昧だと思っていて。「大事なところ」って,結局,ピッチが上がるんだと思うんだよね。Very good!って言うとき,goodの部分で下がることないでしょ。このあたりの感覚が,自然にできる生徒はいいんだけど,わからない生徒は「ただ声を大きくする」って解釈していると,それはなんだか少し不自然で。
工藤
NEW CROWNは,「強く高く」って表現していますね。
津久井
そうそう。「大きく」より「強く」「高く」っていう指導の方がいいかもしれない。あとやっぱり,「ゆっくり」かな。
工藤
「大事なところ」を「早く」読むことってあんまりないよね。
津久井
「大事なところは大きく!」「英語らしく!」ではなくて,もう少し教師側が音声の要素を細分化して生徒に伝えるようにするだけで,ニュアンスが伝わるかもしれないね。
「台本あわせ」をやってみよう
津久井
あとは,音で伝わる感情,表現から伝わる感情やメッセージってあるから,そういうのが本当は一番楽しいんだけどね。
工藤
同じ”Oh, yes.”でも,言い方次第でだいぶニュアンスが…(図1)。
津久井
違うもんね。このあいだ高1の生徒が,英語表現Ⅰの時間にドラマっていうのは大げさなんだけど,中学生で言う「ペアでスキット上演会」みたいなのやってて。
工藤
「スキット上演会」?
津久井
ええと,イメージ的には,役者さんの「台本あわせ」っていうのかな。自分も経験したことはないけど。台本は全グループ共通で,それをロールプレイしていくんだけど。
台本もストーリーの起伏がちゃんとあるものを選んでいて,泥棒が盗みを働こうとしたんだけど,間違えて図書館に入っちゃって,職員に借りに来たと勘違いされて ID発行させられて…みたいな。
工藤
コントみたいだね。おもしろい。
津久井
ストーリーに起伏があるのがミソだよね。で,そのやりとりを,抑揚なく読んだらつまらないじゃない。だから,音声で変化をつけてやっていて,声とか音の面白さを,生徒たちもすごく楽しんでやっていたよ。
工藤
いいね。「スキット上演会」と聞いてぱっと思い浮かんだのは,「面白いオチをつけてみよう」とか内容自体を工夫するものかなって思ったんだけど,同じ台本で,そういう演じ方での工夫っていうのがすごくいい。
津久井
意図的なのか,先生のコメントも音声に関してのことが多くて。きっとこれって,中学校でもできたんだろうな。このテーマで話してみてやっぱり思う,まだまだ音声に対してできることはたくさんあるし,音にフォーカスするのって大事だなって。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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