工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2019年02月04日
工藤
2017年9月から始まったこの対談も,なんと今回で18回目。
津久井
意外と,長期連載になりましたね。
工藤
そうですね。今回はいつもと少し変わった「自動翻訳機のある時代に,なぜ英語を勉強しますか」というテーマを設定してみようと思います。
津久井
授業でこんなこと聞かれたら,It’s a good question! What is your idea? と言って一回逃げる…。
● Kudo’s Answer
工藤
自分は,実際どんなに自動翻訳機の性能が良くても,本当にそれを使ってコミュニケーションをとってみたら,絶対にめんどうくさいと思っていて。
だって,まず自分が日本語でしゃべったのを音声認識して英語が吐き出されるまでに普段の倍の時間がかかるよね。で,今度は相手がその人の母語で話して,それを日本語に翻訳するのに同じだけ時間がかかると思ったら…もう嫌になる。
将来的に脳の中から直接メッセージを取り出してコミュニケーションできるようになるかもしれないけど,それっていつの話?
翻訳機で1回話してみれば絶対めんどうくさいってわかるから,「これならつたなくてもいいから,英語で話してしまえ」ってなると思う,きっと。それで,つたないものだと通じないこともあるから,それなら英語勉強して…って思うんだと思う。
津久井
まずは伝えたいっていう思いがあるときは尚更だよね。全く学びも触れもしなかった言語ってことでもないしね。
工藤
そうそう。あと,もしも自動翻訳機がこのまま進化しても,発表ならいいけど,ターンテイキングが頻繁なやり取りに関しては,相手の発話の終わりを待つ必要が常にあるから,結局本当のコミュニケーションの再現はされないんじゃないかな。
それに,伝えたい内容は最低限伝わるかもしれないけど,感情のやり取りとか相手に対するインプレッションとかが伝えられないから,友達にはなれないかな,自分なら。
少なくとも,今の段階では,相手と本当に友達になりたくて,コミュニケーションをとりたいなら,同じ言語を話すのが一番近道なんじゃないかな。っていうのが,自分の答え。
●Tsukui’s Answer
津久井
自分は,そうだなあ…。
この問いに対する模範解答はさ,「その言語を学ぶことは,その言語を使っている人たちの思考や文化を学ぶことです」だよね?違うかな!?
で,「一番多くの人々が話す言語やその思考を学ぶことは,振り返って自分の言語である日本語の思考や文化の特徴を顧みることにもつながります」と,こんな感じだよね。
でもね,そういうことだけじゃないと思う。
工藤
生徒はその答え求めないよね。それはわかっているもんね。
津久井
求めてない。そういうことじゃないと思う。そんなこと言っても,生徒はしれーっとするだけだよ。
いまの自動翻訳機ってさ,すごく性能がいいんだよ,本当に。英語だけじゃなくて何十もの言語に対応してて…。そういう機械を見ると,「なんで英語を学んでいるんだろう?」っていう疑問がわくのもわかるんだけど…。
でも,この前たまたま見たTV番組なのだけど,海外の人が,自分のすごく好きなもの(アニメ,おせんべい,プラモデルなど)を学びに日本に来て,その道の第一人者に教えを乞うのね。で,最後に教えてくれた日本人にお礼を述べるんだけど,手書きの日本語の手紙を読むんだよ。
性能いいんだから,自動翻訳機を使ってお礼言ってもいいんだけど,なんていうかさ,やっぱり人間って,face to faceで一生懸命しゃべって感謝の気持ちを自分の言葉で伝えたいって,そういう思いがあるんだよ,きっと。直接会って言葉を交わすって,事実だけじゃなくて伝わるものがあるんだなって感じた。
工藤
同感。とくに,電話で相手と話したときとかは,face to faceってやっぱりよいなって思っちゃうよね。
津久井
うん。やっぱりface to faceがやりやすいって思うことは多いよね。
あと,「相手の言葉を話す」経験っていうのもすごく大事だなって感じた。
ビジネスでも,本題に入ったら英語でやり取りするけど,挨拶は相手の言葉でしたりするよね。その一言で「あなたの背景にも興味があって,本気でビジネスやりたいんですよ」っていうメッセージを伝えることができる。相手の国の言葉で話しかけるってことは,相手の世界に関わろうとする姿勢を伝えることができるんだと思う。
中学生だと,あんまり実体験ないかもしれないけど,いつか本当に母語を共有していない人とのコミュニケーションを経験したときに,こういうことを感じてもらえればいいなと思う。自分の国の言葉で気持ちを伝えてもらえるのってうれしいなって感じると,たぶんいま自分が言っている話の意味はわかると思うんだけど。
工藤
そうだね。でも,コミュニケーション手段の発展のスピードはすごく速くて,かつて固定電話しかない時代にいた我々も,最近はLINEなどでやり取りしているからね。自動翻訳機によるコミュニケーションもいったん商品化や実用化されて使いだしたら,意外になじんでしまうってこともあるかも。
とは言っても,現時点でそれは未知の世界だから,やっぱり母語を共有していない人とコミュニケーションをとるなら,英語を学ぶか,その人の母語を学ぶかってことをするのがよいって思っちゃいますけど。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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