工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2018年11月05日
工藤
さて,今回も英語教育のキーワードをざっくばらんにお話ししていきたいと思います。
2021年度から施行の中学校学習指導要領に,「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに,授業を実際のコミュニケーションの場面とするため,授業は英語で行うことを基本とする」という事項が明記されましたね。
津久井
高校でこの文言が導入されたときには,先生方が文法解説まで全部英語でやっちゃうみたいな現象も起きたけど…。今回,中学ではそんなことは起きないんじゃない?
中学の先生方は,「生徒を授業に参加させる」っていうことをとても大切にされているから,文法解説まで英語でして,生徒の気持ちがどんどん授業から離れていくようなことをするとは思えないよ。高校生ならまだしも,中学生だと使える語彙や文法も限られているから,説明しようとしても難しいんじゃないかと思うし。
工藤
まぁ,中学でWhat is the subject of this sentence?って先生が生徒に問いかけている授業を見たことがないわけじゃないけど…。あんまり中学校で高校と同じことが起きる印象は,自分もないね。
津久井
高校で「文法解説まで含めて,全部英語で授業」っていう現象が起こった背景には「英語の授業なのに日本語でほとんど解説している」「和訳の答え合わせをしている」っていう授業スタイルがあったから。その授業スタイルを前提として,「英語で授業」という言葉を実現させた結果だったんじゃないかなと,自分は考えているよ。
高校の先生は英語力がそもそも高い方が多いから,実現できちゃったっていうのもあるかもしれないけど。
工藤
確かにそうかもしれないですね。
津久井
でも,活動の質はともかくとして,中学校では,すでに授業内に言語活動がちゃんとあって,英語を使うという状況がある程度は確立されているから,この文脈の中で「授業は英語で行うことを基本とする」と言われれば,みんな「文法解説を英語でしなさい」って言われているんじゃなくて,「言語活動の充実」とか「実際のコミュニケーション場面に近い形で」という意味であることは理解できると思う。
工藤
そうだね,たしかに中学校の先生方は,文法の解説をすることじゃないっていうのはすぐに理解できると思うけど,でも,「音読以外の活動やっていない,どうしよう」って悩む先生はたくさんいるんじゃないかな。
たまに,授業の中心は和訳で,最後に音読だけして英語使った雰囲気で終わる,という授業を見たりするよね。
津久井
音読をたくさんやるのはいいと思うけど,音読は最終ゴールにはならないからね。
中学校で言われる「英語で授業」の意味は,「与えられた英文を読み上げることに終始しないで,生徒が自分の気持ちや考えを英語を通じて伝えあう活動を授業の中心に置かなくちゃいけない」っていうマインドを持ちなさいっていうことだと思うんだよね。
英語で,リキャストやフィードバックをしてみよう
工藤
「英語で授業」といったときに,今津久井さんが言ったみたいに,音読のその先の言語活動の充実もそうだけど,今自分が考えていたのは,リキャストやフィードバックの可能性。
例えば,昨日の出来事について話しているとき,生徒が,”I go to the library yesterday.”って言ったとするよね。そこで,どうフィードバックするか。
津久井
自分だったら…,”Library? Good! You WENT to the library YESTERDAY? Which library did you go?”とかかな。
工藤
そうそう,「時制は?」って日本語で言わなくても,”Yesterday? Today? Tomorrow?”と声をかけてあげれば,時制に意識を向けさせられるよね。
今津久井さんが言ってくれたリキャストがまず基本だと思うけれど,それに気づかない生徒もいるから,その時は,”Oh! You WENT to the library. Say one more time.”とか言って,もう一度同じ文を言わせることも必要かと。いずれにせよ,こんなふうに,日本語でストレートに言わなくても,生徒が類推できるような働きかけをする英語力。こんな形で「英語で授業」を実現させていくこともできると思うんだよね。
津久井
中学生はとくに,途中で日本語を使うと流れが一気に崩れちゃって,一度頭が日本語になってしまうとなかなか戻ってこられないよ。できるだけ,英語の頭のままでいさせてあげたいよね。
幸い,高校と比べて,文法も中学校のほうがシンプルだから,リキャストしやすいし。
工藤
せっかく頑張って発話しているのに,明示的に間違いを日本語で指摘すると,「間違えると指導されるんだ」ってことが生徒に強く伝わるから,間違いを恐れて話さなくなってしまう生徒も一部いるだろうし。
津久井
いつ指摘するかは,今でも自分も迷うなあ。内容は深いことを言ってるのに3つも間違いがあるからって,全部リキャストしちゃうと聞いている人の頭の中から内容が全部消えちゃうから。だから,意見交換をしているような場面では,あんまりリキャストしないことが多い。でも,生徒の学習実態がよくわかるアウトプットのデータになるから,間違いは気には留めておく。
工藤
どこまで指摘するか難しいところだけど,まずはテーマになっている文法単元がちゃんと使えているか確認することだよね。先生もいきなり全部は見られないし,気づいたところを全部指摘すればいいってものでもないから,最初のうちはターゲットを決めてやるしかないよね。
それで,先生にも生徒にも余裕が出てきたら,少しずつ気にする範囲を広げていけばいいと思うよ。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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