工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2018年05月07日
工藤
はい,今回も英語教育に関するキーワードを裏から表から自由に話すEnglish Coffee Break,どうぞよろしくお願いいたします。
自分は,以前高校の教師をやっていて今は大学だけど,津久井先生は中学で教師になって今は高校だよね。何か違いを感じる,なんてことある?
津久井
そうだなぁ…自分の経験というよりは,最近中学校の授業を見ていてすごく感じるのは,「中学校は義務教育だから,生徒への個別の支援が宝」というか,「それをどれだけ丁寧にやっているかが教員の腕の見せ所」っていう考え方が,すごく強いなって感じる。
工藤
たしかに,高校は入試で選抜されているから,ある程度学力レベルが近い生徒たちが集まっているという特性はあるかもね。
津久井
そうだね。中学校はいろんな生徒がいるから,「個別指導が大切」っていう考えはもちろん理解しているんだけど…なんだろう,どんなに指導が大変な学校でも,その授業で絶対に個別に指導が必要な生徒が半数を超えるってことはほとんどないと思うんですよね。でも,現実には,一部の極端に英語が苦手だったり嫌いだったりする生徒たちが,クラス全体の指導を考えるときの先生の頭の中を支配してしまっているというか,そんな状況が少し気になっていて。
工藤
わかる。なんだろうね,そっちに目を向けちゃうのって。
津久井
それで多くの場合,逆によく出来る生徒っていうのは,まったく無視になっているんですよね。なんだろう,授業は学習する場だから,英語の授業だったらやっぱり英語のスキルやコミュニケーション能力を身につけるための場所のはずで。そう考えると,きちんと学んでいる生徒に手が行き届かないっていうのは,やっぱりまずい気がする。
ま,なんだろ,一部の生徒がほっておくと隣の生徒になぐりかかったりとか,なんか物まき散らしたりっていうのはまず止めなきゃいけないけど。
工藤
そうだね,学習上ね。
津久井
たった一人でも,本来あるべき姿で先生に食らいついて頑張ろうとしている生徒に目や手をかけることが,ちょっと話は大きいけど自分は教育としては最初のステップだって思っていて,いろんな先輩からも自分の指導に足りない部分として教わってきて,その通りだなって思っている。
本当,その生徒たちが先生の授業をあきらめたら終わりなんですよ,もう教室は。英語ができる生徒がこの授業は意味がないな,ってなったら,いわゆる学習集団の崩壊になってしまうと思うんだけど。
工藤
別に,その生徒たちに授業中にダイレクトに声をかけなくても,返却する小テストに「次はこういうことやったらいいよ」っていうプラスのアドバイスを書くとかでも何でもいいんだけど,その生徒たちに「見ているよ,わかっているよ,君が頑張っているの」っていうのを伝えていくことはとても大事。
津久井
だから,その前提として,「一人一人が何を学んでいるか」「何を考えているか」をできるだけ正確に,推測とか当てずっぽうじゃなくって,きちんと生徒の実態を捉えることが必要。まあ,限界はあるから,40人全員を正確に把握することは難しいかもしれないけど…。
サクサク手が動いている生徒が,本当は何をやっていて・どこまでできているかってのは,苦手な生徒に注意を向ける一方で,やっぱりつかんでおく必要があるよね。
生徒の実態はどうつかむ?
工藤
正確に把握するためには,やっぱり自分の授業をしっかり用意して,教師があたふたしないで授業できるようにしておかないとだめだよね。教師が,「次何のカード出すんだっけ,指導案見ないとわからないぞ」っていう状態だと,絶対生徒には目が行かないから。
そうなると,苦手な生徒の,手が止まっているとかの目立つ動きしか見えなくて,そっちに合わせてったら授業はどんどん遅れるし…。
津久井
自分も教師生活が一周して思うのは…,一周って何だ?まあいいや。
工藤
絶対一周じゃなくて,二~三周してるよね。
津久井
そうかも。
何周かして,それでも何年かに1回感じるんだけど,「自分は本当に生徒を見ていたかな」と思うときがあって。顔は上がっているけど,本当に見えているかなって思うときがあって,意識的に見なきゃいけないなって思い直すときがある。
何周かしたからこそ慣れてきている部分もあって,だんだん伝統芸能みたいになってきちゃって,”Oh, OK, OK, next!”みたいな感じで授業してて,ふと,本当に生徒の顔が見えていたのかなって。不安になるときすらある…。
工藤
むずかしいよね。それね。
津久井
たとえば,私が尊敬する先生のおひとり,久保野りえ先生が,read and look upのときに,「私を見て」って,やってるのを見たときに,「あ,逃げずにやらなきゃな」と思った。これちょっとね,なんか恥ずかしいというか,なんとなく生徒の目線に耐えられなくて,今までやってなかったのよ。
工藤
「私を見て」ってされているね。
津久井
でも,生徒の顔見なくちゃなって思って,こないだやってみたの。
工藤
やったの?あははは。
表情がわかるよね。口の動きだけじゃなくて。不安そうに言ってるのか,とかわかる。
津久井
そう,本当にそうなんだよ。「不安そうに言っているな,あの生徒はニコニコしながら言っているな,いま目が合ったからニコニコしているんだな,しっかり口が動いているな」とかわかる。ちゃんと見ると。
工藤
read and look upは,そういう仕組みでとらえたら面白いかもしれないね。
津久井
うん。「一人一人見てみる」みたいな意味で。
工藤
「見える」んじゃなくて,「見ている」っていうこと,フォーカスしているってことが大切だよね。
津久井
それって生徒に伝わるよね。やっぱり。
工藤
やっぱり「全体がどうなっているのか」と「個別にどうなっているか」を同時に把握できる力っていうのは,教員としては絶対に必要だよね。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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