工藤洋路,津久井貴之
玉川大学,お茶の水女子大学附属高等学校
2018年01月09日
工藤
年が明けて,2018年になりました。今年も現職の先生方に役立つ内容を,理論から実践まで話していきたいと思いますので,どうぞよろしくお願いいたします。
新学習指導要領で新しく,「話すこと」が「話すこと[発表]」と「話すこと[やりとり]」に分かれて,これからこの2つにはもっとスポットが当たっていくだろうね。スピーキング活動については,津久井先生がお詳しいと思うけど,どうかな。
津久井
うーん,自分は,[やりとり]に関しては,毎授業じゃなくても,毎単元にせめて1回は,何かその場で即興で言わせるっていうのがあったほうがいいと思うんですよ。
そのときに文法エラーをどこまで拾うかって議論もあると思うけど…相手に伝わればOKっていう立場に立てば,「私・食べました・なんとかを」っていうのがちゃんと言えていればOKで,ひょっとしたら主語が落ちてても最初の段階ではOKかもしれない。つまり,「言えるようになってから」を待って,いつまでたってもそういう活動や発話の場面を生徒に提供できない,みたいにならないといいと思う。
工藤
文法も崩れてくれば結局コミュニケーションがおかしくなるので,まあ大きな文法を拾おうと思ったら,コミュニケーションを端的に拾っていけばそれなりにカバーはできるはずだよね。
津久井
うん。
「パフォーマンステスト」とか「即興スピーキングの評価」までいっちゃうと話が大きすぎるんだけど,その第一歩・第二歩として,今ぐらいのざっくりの評価規準でもいいから,「本当に即興で何かやる」っていうのは,単元に1回くらい1人ずつやっとかないと,年に1回,いきなり完全にデザインされた評価規準や難しいトピックでやれと言われても…。
工藤
それはそうだ。
津久井
だから,ステップとしてやるスピーキング活動は,極端な話,観点1個でいいと思うんですよ。○×で,過去形でこういうことが言えた/言えなかった,現在形で言えている/言えてないくらい。
工藤
それなら,先生側にだって負担が大きくなりすぎない。
津久井
そういう面もあるね。
今高校も,ルーブリックが大流行なんですよ。ついに高校にも観点別評価のブームがやってきて,もうとにかく,ルーブリック作り。でも,もし,本当に4観点×ABCみたいにして評価をするにしても,それなら授業でもそういう活動を入れないと,うーん,難しいよね。
工藤
自分は,授業中にやるスピーキング活動は,どんな場面でもいいと思っていて。
中学校では授業のはじめにチャットで1分間話そうみたいな活動をやっているかもしれないし,あとは,NEW CROWNで言ったらGETの本文を音読したあとに,続くセリフを考えてみる活動でも何でもいいと思うんだけど,こんな風に内容も自分で少し考えて,それを英語にするっていうような練習を一文,二文でもいいから各授業でやらないと,なかなかぱっと英語が出てくるようにはならないよね。
津久井
そうそう,一文でもいいよね。
生徒の「即興力」,でもその前に教師の「即興力」
工藤
でね,さらに前提を言うと,「教師のスモールトーク」がすごく大事なんじゃないかと思っていて。「実は昨日ね…」みたいな感じ で,preparedかもしれないけどpreparedじゃないように見える自然な英文がクラスにある,そういう雰囲気を作っているかどうかっていうのが まず大事だと思うんだよね。
津久井
素晴らしい。それはすごく思った。
工藤
それがないと,急に生徒だけがやってもさぁ…。
先生が即興で話していたら,言いよどみもあったり,フィラーとか入ったり,教科書の音読で先生がモデル示しているときとは全然違う英語の感じになるわけで,それが即興らしさであって,良いところであって。
それは,教科書とかの素材を単に音声化するだけだと,あんまりそういう感じにならないから,雰囲気作りがすごく大事だね。
津久井
今のが一番大事だね。今回はスパーンと結論出た。今のが一番大事。
工藤
それがベスト。大事というかベースだよね。
津久井
いま思いついたのは,TSインタラクションのときの,Sの返しに対する先生のコメントって,絶対的に即興だよね。TSTのこのTが即興なんですよ,絶対。
工藤
そうだね。
津久井
そのときにさあ,往々にして,”Oh, very good!”みたいな自動応答みたいな返しをしちゃってることが多いから,そうじゃなくてTSTの2回目のTで,生徒の言った内容にもう一即興返せるかが すごく大事。芸人さんも,その場のお客さんの雰囲気で,ちょっとアドリブで変えたりするっていうじゃない。教師もそれができるかどうかだよね。
自分もスモールトークでお菓子の話してて,生徒の反応がイマイチだったときに,「なんだよ,いつも甘いもの好きだっていうから話したのに,全然聞きかたがスイートじゃないな」とか即興で出てきたときなんかは,生徒は面白そうに聞いているもんね。
工藤
そりゃね。いまの津久井先生のレベルは日本語でも難しいから(笑),まあ英語でってなるとさらに…。小さいことでいいんだよ。そんなに張り切らなくていいんだけど。
津久井
ほんとに小さいことでいい,小さいことから,見えたことをちょっと,あるいは生徒の反応に対して,もうワンターン切り返すっていうのが,いいと思う。
あとやっぱり,自分もそうだし実習生もそうなんだけど,見たり聞いたりしているようで,見てないし聞いてない。生徒がぼそぼそって言っているんだけど,”OK, very good!”みたいな。
工藤
そうだね。まずはやっぱり,聞かなくちゃ始まらないのはもちろん。
TSTの2回目のTは,これは理論どうのじゃなくて,もう,やるしかない。やって鍛えるしかない。
津久井
そう,これはもう,やるしかない。即興でうまくいかないからこそ,どういうコツや言い回し・ストラテジーみたいなものが必要かを教師が身を持って体験する。それで教師が即興的な生徒とのやりとりを楽しめるようになると,生徒もその雰囲気を楽しんでいるはず。
工藤
どんなに先生が準備しても,やってみると,いいネタかどうかって思ってたのと違ったりするから。やるしかない。ほんと,芸人さんと一緒,実践なしでこの技術を身につけるのは不可能なんだよ。
※この連載は,お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり,工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学,「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て,現在玉川大学文学部英語教育学科准教授
・高校教諭時代に担当した部活動は,陸上部
・カフェでよく注文するのは,カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
お茶の水女子大学附属高等学校
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て,現在国立お茶の水女子大学附属高等学校教諭
・指導のモットーは,固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは,ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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