工藤洋路、津久井貴之
玉川大学、群馬大学
2023年09月08日
津久井
以前「AI翻訳ツール」について取り上げたけど(第31回、第32回)、今度は「ChatGPT(支持や質問に応じて文章を自動的に作成する対話型AI)」のような生成AIの話を教育現場でもよく聞くね。生徒にどう活用させるか、あるいはさせないか、みたいな議論が今後ますます出てきそうだね。
工藤
そうだね。「ChatGPT」って聞いたことはあるけれど使ったことはないという生徒もいるだろうけど、一方で、実際に使ってそのよさに気がつく生徒もいるだろうね。そうすると、先生が規制しても、生徒は使ってしまうかも。「活用させる」とか「させない」とか以前に、「勝手に使っちゃう」って感じかな。授業の見学をさせてもらうと後ろから生徒のタブレットの画面が見えるけど、最近では翻訳アプリとか、トピックに関わるホームページとか、生徒たちがいろんなものを使っているよね。
津久井
そうそう。生徒が勝手にいろんなアプリを使うことを先生が阻止する様子を目にすることもあるけど、学校で隠すものやダメなものはだいたい魅力的だから、先生が「ChatGPTだけはやめましょう!」とか言っちゃうと、「なんだそれは!?」と生徒は余計に興味を持つよね。
ChatGPTの何が危惧されているのか
工藤
いろいろと現場の先生が危惧していることはあるだろうけど、たとえば英作文だと、トピックや語数など、先生が指示したことをChatGPTに入力すれば文章を作ってくれちゃうよね。
津久井
「ゼロからでもできちゃう」ことに対する危惧はあるよね。自動翻訳だと、一応日本語で内容を考えるところは生徒自身でやらないといけない。自動添削アプリだと、どんなに無茶苦茶だったとしてもまずは自分で英文を作らないといけない。でも、ChatGPTみたいな生成AIだと、「こういうものを作って」ってお願いすると、自分で何も考えないでも答えらしきものが出てくるもんね。「それで何の力が鍛えられるんだ?」「なにも鍛えられない!」って懸念する気持ちはわかるよね。
工藤
そうだよね。「ゼロから考える思考力が培われなくなってしまうんじゃないか」っていうのは、いろんな大学がレポートなどでのChatGPTの使用を禁止している理由のひとつだよね。
生徒たちのような今後の世代にはゼロから内容を考えるスキルは必要ないとすれば、ChatGPTみたいなツールと共存するトレーニングをするほうが大事だっていう発想もあるけど。
津久井
このあいだ大学生にアンケートをしたんだけど、学生たちは「自分で考えない怖さ」みたいなものを感じているみたいだった。「得体の知れないものが内容を生成してくれるけど、自分では本当に何もしなくていいんだろうか」って。
でも、中学生だとそこまでメタ的に考えなくて、「何も考えなくていいんだ! 一番面倒なことをやってくれる、こんないいものはないぞ!」ってなっちゃう危険性もあるよね。だから「どこでどう使うとよいか」とか、「こんな風に使うとこうなる」っていう指導は、誰かがしないといけないかなと思う。
ChatGPTを中学生が使ったら?
工藤
先生が出した課題をそのままChatGPTにやらせると、中学生が書いたとは絶対に思えないような英文が生成されるよね。
津久井
内容にしても、使う表現にしても、絶対生徒が自分で書いたんじゃないなってわかるよね。
工藤
段々生徒が慣れてきて、たとえば「CEFRのA1レベルで書いて」とか、「2、3個間違いを入れて書いて」とか指示すれば、だんだん生徒が自分で書いたっぽいものは出てくるようになるよね。でも、「出てきたものが自分で書いたようなものかどうか」を自分で判断してChatGPTを使うなら、いっそ使用を許可しちゃうのもアリだよね。自分が書いたっぽくするためにちょっとずつ修正するくらいなら、めんどくさいからゼロから自分で書いたほうがいいってなるだろうし。
津久井
そうだね。あとは、実際に高校生にインタビューした時に、そうやってうまく使ったとしても、「自分が選んだ単語とか表現じゃない感じがなんか嫌だ」って言った生徒がいて、その考え方は思いもしなかったので面白いなって。AIが作った文章は明らかに自分で考えたものよりよい英語なんだけど、なんかそこが嫌だ、みたいな。
工藤
それ、津久井先生の授業を受けてきているから、っていうのが大きいと思う。普段から津久井先生が介入しながら、生徒同士とか、先生と生徒でとか、ライティングのコメントを含めて内容をやり取りしてきているから、それぞれの生徒の中に「My English」みたいなものができているってことだよね。簡単に言うと自己表現活動なんだと思うんだけど、やり取りしたり、書いたりという活動をやって「自分の英語」っていう感覚があれば、ChatGPTのような見知らぬものが作ったものをそのまま使うことに違和感をもつかも。
津久井
う〜ん、Chat GPTにはできない温かいコメント。そういうことにしておこう!
あとは、生徒が自分で作っていないところにプラスのフィードバックをしたときには、生徒は嫌がるよね。「これは翻訳アプリに頼ったところです」とか「これは教科書のモデル文を使っただけです」とか。自分が頑張ったところを褒められると嬉しいけど、ChatGPTが書いたものを褒められても、「やっぱChatGPTってすごいんだな」で終わりだよね。さらに悪い場合は、「やっぱり自分の英語じゃダメなんだな」と思ってしまうかも。
本当の脅威は、先生が「よくわからないからダメ」とすること
工藤
だけど、そもそも先生がChatGPTを知らないと、正しく評価もできないよね。このあいだ話をした先生も、ChatGPTっていう名前は知っていても、ChatGPTに質問を入れると文章が生成されるってことさえ知らなくて、「なんですかそれ? AIだからまずは学習のデータを入れなくちゃいけないんですか? 何を入れたら反応してくれるんですか?」みたいな質問をされたよ。
津久井
先生もそんなにいろいろ知っているわけじゃないもんね。
工藤
学会なんかでもよく、いろいろなツールが出てくる中でどういう風な英語教育をしていこうか、みたいな話になるけど、我々も学び続けないといけないよね。乗り遅れると、出てきたものを見ても「なんだこれ?」って、なんかよくわからなくて判断できないよね。
津久井
そうだね。AIの専門家みたいに細かいことはわからなくても、使ってみてどういうことが起こるのかっていうざっくりしたイメージは先生たちも持っていないとね。
そもそも生成AIは、先生の業務にもすごく活用の余地があると思うから、次回はその検討をしてみようか。
※この連載は、お二人のざっくばらんなおしゃべりを企画化したものであり、工藤先生・津久井先生の公式発表ではありません。 |
工藤洋路
くどう・ようじ
玉川大学、「NEW CROWN」編集委員
・1976年生まれ
・東京外国語大学外国語学部・同大学院博士課程前期・同大学院博士課程後期修了(学術博士)
・日本女子大学附属高等学校教諭等を経て、現在玉川大学文学部英語教育学科教授
・高校教諭時代に担当した部活動は、陸上部
・カフェでよく注文するのは、カプチーノやフルーツジュース
津久井貴之
つくい・たかゆき
群馬大学、「NEW CROWN」編集委員
・1974年生まれ
・群馬大学教育学部・同大学院修了
・群馬県内の公立中高一貫校教諭等を経て、現在群馬大学共通教育学部講師
・指導のモットーは、固定観念にとらわれずにチャレンジしていく
・カフェでよく注文するのは、ニューヨークチーズケーキとコーヒー
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