英語教育リレーコラム

児童・生徒に読ませたい本 高校生に合った読書指導 〜辞書,日本語訳,教員の役割〜

和田俊彦 (明星中学高等学校)

■はじめに
 社会情勢を知るために朝,新聞を読む。通勤・通学の電車の中で歴史小説を読む。翌日の授業に備えて教科書を読む。寝転がって携帯電話のメールを読む。一口に読むといっても様々な読み方があります。高校の英語教育においては,従来の訳読式学習法が十分な読書量を確保してこなかったことに対する反省があります。そこで,近年では,辞書を使わずに理解できる内容の本を直読直解で数多く読ませる取り組みが盛んに行われています。英語圏の子どもたちが生活を通して英語を身に付けていく過程を追体験させるねらいがあるようです。このような読み方は,学齢の低い子どもたちやpleasure readingに適しています。本稿では,高校生を対象とする際の留意点について検討します。

■認知レベルと英語運用能力の差
 高校生は,日本語であればかなり複雑で抽象的なことがらについて理解することができます。しかし,ほとんどの場合,英語で同じことはできません。英語の運用能力が,生徒自身の認知レベルに達していないのです。高校生に英語で読書させる際は,このズレが問題になります。私はオックスフォード・リーディング・ツリー (ORT) などを授業で使用していたのですが,回を重ねるうちに生徒は物足りなさを訴えるようになりました。

 次に,もう少し高い学齢向けのものを用意したのですが,今度は語彙レベルが高くなりました。辞書は使わない約束にしていたので,生徒は次第に本を手に取らなくなっていきました。辞書なしで読める本を探させる方法もありますが,辞書があれば読み進められると考えている生徒には,辞書を使ってはいけないことがストレスになったようです。

 もちろん,本を読んでいるよりも辞書を引いている時間の方が長くなるような読み方だけでは問題でしょう。しかし,内容理解の鍵となりそうな語については,辞書を積極的に引かせた方が生徒は達成感を得やすくなります。また,日本語を介在させることで,語義が明確になる場合もあるでしょう。

■読んだ内容の確認を
 私は読書量の記録を取らせていたのですが,絵だけを見て文は読んでいない生徒の存在に気付きました。自分の解釈が的外れでないかを確認する手段がないのですから,当然なのかもしれません。教員は,内容把握やその鍵となる文法事項の解説や確認問題がある本を選ぶか,作成する必要があります。

 例えば,前々回の宮下いづみ先生は、'old' という語の持つ意味の広がりについて,また前回の島津博文先生は 'achoo' の語義の推測法について触れておられます。このような気付きを与える活動なしには,生徒がひとりよがりの解釈をしてしまう危険性があります。文法に関しても同じです。大量のinputがあれば,文法も自然に習得されるとの主張があります。しかし,英語圏に移住して何十年と経った人でも,三単現のsを文法通りに使っているとは限りません。

Animal Farm
 高校生の認知レベルに合致し,なおかつ内容把握の確認が容易な本として,ここではGeorge OrwellのAnimal Farm (Penguin Books,他) を取り上げます。ただし,paperbackで100ページ近くありますので,長期休暇中の課題とお考えください。

 この作品をお勧めする理由の1つは,本書がおとぎ話の体裁を取っていることです。おとぎ話は閉じた世界で展開しますので,世界観がつかみやすくなります。生徒の理解度が高ければ,史実に対する風刺として読むこともできます。この懐の深さは魅力です。

 もう1つの理由は、日本語版が入手しやすいことです。日本語版があると,原書を読まなくなってしまうおそれがあります。しかし,生徒のやる気を考えると,未知語の全てを辞書で調べさせるのは現実的ではありません。ここで大切なのは,内容確認を助けるものとして教員が日本語を位置づけることです。また,訳文を読んでも分からない部分があれば,それは日本語と英語の論理の違いを示す格好の題材になります。

 私がかつて担当した中に,難関国立大学に現役で合格した生徒がいました。実は,その生徒は授業への取り組みがあまり熱心に見えなかったので,どうやって英語の試験に臨んだのか尋ねてみました。彼は,Harry Potterシリーズ (Bloomsbury Publishing,他) の原書と翻訳版を読み比べて,物語を追うとともに重要そうな単語や表現を確認したのだと教えてくれました。訳文が納得のいく部分は速読し,引っかかるところはじっくりと読み比べることで,メタ認知を高めることができたのでしょう。

 翻訳版を読むことに抵抗を感じる方には,Cliffs Notes (http://www.cliffsnotes.com/) をご紹介します。これはいわゆる「教科書ガイド」のウェブ版(米国)で,作品の概要や注意すべき点をあらかじめ知ることができます。教科書ガイドとはいえ,authenticな英語です。かつては洋書を扱う一部の書店でしか手に入れることができませんでしたが,現在ではウェブサイトから無料で様々な情報を得ることができます。

■おわりに
 本稿では休暇中の課題の例として Animal Farm を取り上げましたが,日頃読ませる本を選ぶ際にも参考にしていただければ幸いです。

和田俊彦 (わだ としひこ)
ニューヨーク州立大学バッファロー校修士(TESOL)。教員歴15年目の今年は高2を担当。著書に『@Will English Grammar in 30 Lessons』(美誠社),『中高生のためのアメリカ理解入門』(明石書店,共著)など。

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英語教育リレーコラム第16回
児童・生徒に読ませたい本

「ネイティブスピーカーの子ども向けの絵本を読む」 宮下いづみ

「「多読」で英語の世界を広げる 〜中学3年生の選択授業での取り組みから〜」 島津博文

「高校生に合った読書指導 〜辞書,日本語訳,教員の役割〜」 和田俊彦

 

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