英語教育リレーコラム

児童・生徒に読ませたい本:ネイティブスピーカーの子ども向けの絵本を読む

宮下いづみ(SEG多読コース主任)

 「おかあさんが古いってどういうこと?」――Poor Old Mum!(Oxford Reading Tree,オックスフォード大学出版)を読んでいる子どもが驚きの声をあげました。Oldが「古い」という意味だと思ったのです。

 「給食は昼に食べるのにdinner?」――Dinner Time(Story Street,ピアソン・ロングマン)では,給食をみんなで食べている内容にいぶかしげな顔をしている子どもがいました。“Can you play?”と聞かれて,いわば決まり文句“Not today.”と断られる場面では「こういうふうに断るのだね」との声も。

 これらは私が主宰する英語教室での実際の会話です。教室では,子どもたちが手軽に読める英語の本を揃えておき,授業の中で各自が自分のペースで読む時間を設けたり,意欲のある子どもは家庭で読んでこられるように貸し出しています。小学校での英語活動は音声が中心となりますが,1年生の頃から何らかの形で英語の音に触れてきている子どもたちは,中学年から高学年にかけて文字に対する興味が湧いてきます。英語に対する慣れ親しみが湧くように,授業の中だけでなく,英語の本に触れられる環境を整えていくようなことも徐々にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。以下,簡単に,絵本導入のねらい,子どもの絵本への触れさせ方,おすすめの本のいくつかについてご紹介いたします。

■絵本を読ませることのねらい

 小学生の英語の授業でネイディブスピーカーの子ども向けの絵本を使うことの魅力は,日本にいながらにして,英語圏の子どもたちの中に飛び込んでいるかのように,彼らの生活の疑似体験ができ,英語圏の生活習慣を自然に感じ取ってもらうことができることです。また,普段授業で習った単語や表現が実際にどう使われているのかを,絵本を通して理解していけることです。絵本は本文の内容に合ったイラストが描かれているため,「多少わからない言葉があってもよくわかる」と子どもたちは述べています。短い本はたった8ページですが,その中にはストーリーがあるので,どういうシチュエーションで話が進むのかを楽しみながら,英語に触れることができます。

■絵本の読ませ方

 絵本は読み聞かせや,一斉に音読して覚えるまで読み込むなど,いろいろな楽しみ方がありますが,読ませ方のコツをいくつか紹介します。

  • 個々のレベルに応じて,簡単なレベルのものから読みはじめると,子どもが気楽に取り組んでいけます。
  • 多少わからない単語があっても読み飛ばすこと。すべての単語がわかるまで待っているといつまでも読み進められません。
  • シリーズになっているものであれば,まず全員で1冊読みながらキャラクターや本の雰囲気を理解しておくと,その後が読みやすいようです。
  • ある程度読みなれてきたら,英語の活動時間に貸し出すだけでなく,教室に常備しておいたり,図書館でも借りられるようにしたりして,いつでも子どもが読める環境をつくるとうまく進むようです。戸田市立戸田第一小学校の小川隆夫先生は,本をかごに入れ,各クラスを回覧させて子どもが自由に読めるように工夫されていました。

1) Oxford Reading Tree (Oxford University Press,2006)
ISBN 9780198459835


絵を見ると本文の内容がわかります。何を見ているのでしょう。

 イギリスの小学校の国語の教科書のオックスフォード・リーディングツリー(ORT)は,キッパー少年と彼の家族を取り巻くほのぼのとしたストーリーです。オチがあって,3つの隠れキャラ(はげおやじ,犬の骨,めがね)があるので探すのも楽しみのひとつです。ORTの中のキッパーシリーズは232冊あり,Stage 1から9まであります。ひとつのパックが(一部を除く)6冊の絵本とCD,解説書のセットになっています。一番はじめのステージ1は,絵だけのお話や単語が20語程度の短いものから始まります。ステージ9になると,1300語程度の長さにまでなります。ガイドに家族の紹介が出ていますので,読む前には一度目を通していただくとお話の展開がわかりやすいでしょう。
 

2)Info Trail (Pearson Longman / 2003,2006)
ISBN 9780582817241


なかなか近づいては見られない,動物の足のクローズアップです。

 様々な文章の形態で書かれ,テーマごとに分かれているノンフィクションのシリーズです。科学,歴史,地理の3科目があり,入門から中級・上級レベルまで4段階に分かれています。理科の用語などは,絵と照らし合わせながらそのまま覚えられ,ヨーロッパを中心とした歴史は日本人の視点と異なり興味をひきます。地理には,日常生活に役立つ表現が満載。アメリカ英語とイギリス英語の両方がCDには収録され,教え方の手引きでは語彙の説明,あらすじ,授業での活用法などが紹介されています。
 

3)Leveled Readers (Houghton Mifflin, 2004)
ISBN 9780618285464


雪ふりにどんな遊びをするのでしょうか。

 170年の歴史があるアメリカの出版社ホートン・ミフリンの,小学校の副教材として使われているリーダーです。日本では,小学1年生から6年生まで,14段階にレベル分けされています。6冊ごとにCDつきのパックがあり,ホームページから指導するときに役立つ様々な資料がダウンロードできます。スポーツ,伝記,ベストセラー作家,異文化,アメリカの歴史,家族など多岐にわたるテーマが扱われています。フィクションとノンフィクションと両方が入っているシリーズです。

宮下いづみ
SEG多読コース主任。Eunice English Tutorial主宰。実践女子大学,東京音楽大学付属高校非常勤講師
現在,朝日小学生新聞で「タドキッズ」,Edu誌で「おうちでイングリッシュ」を連載中。
著書:
『おうちで英会話 すぐに使える英語表現200』(三省堂),『イギリスの小学校教科書で楽しく英語を学ぶ』(小学館,共著),『続・イギリスの小学校教科書で楽しく英語を学ぶ[社会・理科編]』(小学館,共著),『MANGAで楽しく英語を学ぶ』(小学館,共著)

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英語教育リレーコラム第16回
児童・生徒に読ませたい本

「ネイティブスピーカーの子ども向けの絵本を読む」 宮下いづみ

「「多読」で英語の世界を広げる 〜中学3年生の選択授業での取り組みから〜」 島津博文

「高校生に合った読書指導 〜辞書,日本語訳,教員の役割〜」 和田俊彦

 

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