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■はじめに ■認知レベルと英語運用能力の差 次に,もう少し高い学齢向けのものを用意したのですが,今度は語彙レベルが高くなりました。辞書は使わない約束にしていたので,生徒は次第に本を手に取らなくなっていきました。辞書なしで読める本を探させる方法もありますが,辞書があれば読み進められると考えている生徒には,辞書を使ってはいけないことがストレスになったようです。 もちろん,本を読んでいるよりも辞書を引いている時間の方が長くなるような読み方だけでは問題でしょう。しかし,内容理解の鍵となりそうな語については,辞書を積極的に引かせた方が生徒は達成感を得やすくなります。また,日本語を介在させることで,語義が明確になる場合もあるでしょう。 ■読んだ内容の確認を 例えば,前々回の宮下いづみ先生は、'old' という語の持つ意味の広がりについて,また前回の島津博文先生は 'achoo' の語義の推測法について触れておられます。このような気付きを与える活動なしには,生徒がひとりよがりの解釈をしてしまう危険性があります。文法に関しても同じです。大量のinputがあれば,文法も自然に習得されるとの主張があります。しかし,英語圏に移住して何十年と経った人でも,三単現のsを文法通りに使っているとは限りません。 ■Animal Farm この作品をお勧めする理由の1つは,本書がおとぎ話の体裁を取っていることです。おとぎ話は閉じた世界で展開しますので,世界観がつかみやすくなります。生徒の理解度が高ければ,史実に対する風刺として読むこともできます。この懐の深さは魅力です。 もう1つの理由は、日本語版が入手しやすいことです。日本語版があると,原書を読まなくなってしまうおそれがあります。しかし,生徒のやる気を考えると,未知語の全てを辞書で調べさせるのは現実的ではありません。ここで大切なのは,内容確認を助けるものとして教員が日本語を位置づけることです。また,訳文を読んでも分からない部分があれば,それは日本語と英語の論理の違いを示す格好の題材になります。 私がかつて担当した中に,難関国立大学に現役で合格した生徒がいました。実は,その生徒は授業への取り組みがあまり熱心に見えなかったので,どうやって英語の試験に臨んだのか尋ねてみました。彼は,Harry Potterシリーズ (Bloomsbury Publishing,他) の原書と翻訳版を読み比べて,物語を追うとともに重要そうな単語や表現を確認したのだと教えてくれました。訳文が納得のいく部分は速読し,引っかかるところはじっくりと読み比べることで,メタ認知を高めることができたのでしょう。 翻訳版を読むことに抵抗を感じる方には,Cliffs Notes (http://www.cliffsnotes.com/) をご紹介します。これはいわゆる「教科書ガイド」のウェブ版(米国)で,作品の概要や注意すべき点をあらかじめ知ることができます。教科書ガイドとはいえ,authenticな英語です。かつては洋書を扱う一部の書店でしか手に入れることができませんでしたが,現在ではウェブサイトから無料で様々な情報を得ることができます。 ■おわりに 和田俊彦 (わだ としひこ) Copyright (C) 2011 SANSEIDO publishing co.,ltd. All Rights Reserved. |