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小学生になる頃,6歳前後の子どもたちは,大人と対等のつもりでおしゃべりをすることができる。口喧嘩をしても,負けずに頑張ろうとする。ここまで母語の習得が進むと,子どもたちが日常使っている生活語彙の中に,相当数の外来語が入っている。乗合自動車,貨物自動車,円タク,昇降機,樺色,かっぽう着,手ぬぐい,手提げかばん,たわし,獅子,このような単語は子どもたちにとって死語に近く,カタカナ語を使う。英語に由来する外来語を一切省こうとすると食事も儘ならず,日常生活が立ち行かなくなるほどだ。 子どもたちが既に使い慣れているこのような外来語を,英語音で発音しながら話しかけると,子どもたちは困った顔をせずに,英語での語りかけに耳を傾けている。子どもたちは「知っている」と思われる外来語を頼りに,「知らない」単語には耳を貸さず飛び石伝いに英語を聞き大意を捉え,納得している。
私たち教師は,日本語の説明抜きにしても子どもたちが推測できる語彙を選び,実物やイラストなどを見せながら話しかける。英語を聞いているだけで意味を捉えられるように仕組んで授業を進めているのである。1977年に勤務校の成城学園初等学校で57名の4年生を対象に調査した結果でも,その語彙数は軽く1000を越える。ジャンル別に代表的なものを思いつくままに1つずつ上げてみると,banana,
spaghetti, bus, penguin, notebook, doctor, post office, soccer, pink,
pajamas, bag, piano, cup, Sunday, park, the sun, mountain,
と限りがない。このように,子どもたちが英語を聞き取ったり,話そうとしたりするときに必要な語彙の量が想像以上に多いということを踏まえて,授業で使う英語を準備する。子どもたちは自分の持っている語彙を頼りに,聞き取ったり文字の中に読める単語を探して,内容を想像しながら自分の判断でその場の状況に対応しようとしている。ただ,この能力は受動的で,指導者に誘導されると産出できるレベルである。 (2) 子どもたちと英語でお喋り 〜子どものための英語絵辞典の旨味〜 子どもたちの持っている語彙を整理して,「あぁ,これ知ってる!」と自力で英語を思いつけるように手助けするのが,“子どものための絵辞典”である。アルファベット順に子どもが関心を持ちそうな語彙を配列してあるものは,魅力的なイラストが子どもの心をひきつけても,知りたい単語の音と綴りとが予測できる段階でないと使いにくい。 子どもが手元において使いやすいのは,ジャンル別に語彙が集められている絵本のような体裁の,説明的なイラストがある絵辞典である。動物園に動物がたくさんいるもの,食事の用意をしている場面で食器や食べものが並んでいるもの,家の中,街の中,など,見飽きることなく自然にお話が浮かんできそうな絵が,子どもの想像をかき立てる。私も,長年このようなジャンル別に語彙が集められている絵辞典で子どもたちと遊んできた。そして,子どもたちの語彙力を支えることができたと考えている。 子どもの小さな手でもページを繰りやすいものだと,1人1冊手にしていろいろなゲーム仕掛けの英語表現活動ができる。I can see a lion. I can see two penguins. などとヒントを出してページを探す活動は,子どもが大好きで,直ぐにヒントを出す役をやりたがる。4色刷りのイラストであれば,一つ一つの絵が意味を説明してくれるので,日本語を使う必要はない。ヒントでページを当てたあとで,さらに建物や人物を探させて,その衣服などの色,動作,名称などを答えさせる活動に発展させることもできる。What color is his T-shirt? What is he doing? What does he have in his bag? Where is the school? このような活動をするためには,イラストにどれだけのものを描きこんでおくかにかかっているので,制作に当たっては周到な配慮が必要である。 遊べる絵辞典のほかに,Duden*1
のような説明的な図解が豊富に入っているアルファベット順の辞書も,少し学習が進んできた子どもたちに適しており,語彙を増やしていくことができる。 (3) 知らなければ調べよう 〜子どもが味わう“分かる喜び”〜 調べることは厄介だ,と思うより,知らないことを調べて分かることは面白いことだ,という経験をさせて,知らないことが苦痛ではなく,むしろ調べるきっかけとなるように指導したいものである。高学年になり,授業時数が確保されるならば英語への関心も高まり,将来の学習に役立つ辞書指導ができる。 コンサイス*2
程度の英和辞典を,小学生に与えると,とても面白い効果があるのでご紹介しておきたい。よく知っている単語を辞書で探させて,本当に期待した訳があるか調べてみよう,と促す。例えば,fox
を見つけるように言うと,比較的早く見つけられて,キツネと確認するだけでなく,「ずるい,だって!」などと周辺の意味も読んでくれる。少し綴りの長いmonkey
やhorse を探させると,mo-とかho-
あたりまで辿り着いたところで,右側の日本語を読んで単語を確認したり,その単語から派生した熟語や諺などを,英語を忘れて読みふけって面白がる。漢字も読めるのだけ読むので,とんでもない意味の取り違えがあったりして,子どもたちの様子を見ていると楽しめる。6年生の男の子が,mapを調べていて,「染色体だって!」と叫んだこともある。子どもたちが学んだ理科の内容に思いを馳せ,単語の使い道の広さへの心の準備をして欲しい,と願う。 (4) 「自分の力で分かる」経験 〜一生の宝となる学びのストラテジー〜 自分がよく知っている単語を辞書で確認することから辞書に親しみを持たせ,思いがけない意味もあることを発見させると,素直に喜び,驚きの声を上げている。ゆとりある授業がしたいものである。週1回では,中々そこまで指導することが難しく,場当たり的に辞書を持ち込むことになる。 子どもたちが,○○は英語でなんというか,などと思いがけない質問をしてくるときには,直ぐ答えを与えるより,「調べてみようか」とやおら和英辞書を持ち出して,ローマ字を思い出させながら一緒に引いてみると,「調べると分かる」ということを実感させることができる。そのときには,直ぐに英和辞典で確認し,さらに意味の広がりを経験させる。 子どもだから,と言わず,一人立ちできなければ手助けをしてでも早く辞書に馴染ませ,一生続く辞書とともに歩む生活を楽しめるように指導したいものである。
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