義務教育段階である中学校時代に何を教えなければならないのか、まずは私なりに整理してみたい。
(1) 言語そのものへの関心を深める
多くの中学生は、日本語の意味構造と英語の意味構造は100%同じだと思っており、「お湯」に相当する単語が英語にもあると信じて疑わない。‘hot
water’だよと言うと、驚いた顔をする。また、日本語の「甘える」や「もったいない」を外国語に訳すのはなかなか難しいと言われる。言語は、その言語を話す民族の生活や習慣と密接に関連している。言語は文化そのものであるということを、ぜひ理解させたい。
(2) 英語の特性を理解させる
小学校における英語活動が盛んになったとはいえ、ほとんどの生徒にとって、教科として英語を学習するのは中学校が初めてである。故若林俊輔先生は、日本語との比較において中学校段階で確実に理解させておきたいものとして、「語順」「時制」と、数の違いによって名詞が複数形になったり、動詞の語形が変化したりするといった「数に対する概念」の3つを挙げられた。大切にしたい指摘である。
(3) 日本語への理解と関心を深める
大学時代に比較教育学を専攻したが、この学問の目的は「自国の教育への理解」であると指導教授から教えられた。中学生にも、英語を学ぶことを通して、日本語との違いを認識させたい。日本語は、欧米の論理から見ると「曖昧な言語」であると言われることがあるが、同時に非常に美しい言語でもあると思う。日本語を大切にする気持ちを育てたいものだ。
(4) 異文化を理解する態度を育む
義務教育に携わる私たちは、「生徒の人間として調和のとれた育成を目指し(中略)教育課程を編成」(学習指導要領)し、教育活動を進めなければならない。つまり「英語」という教科を通して全人的な教育を行うのである。特に英語においては「世界の中の日本人」という視点から、自国や他国の文化を正しく理解し尊重し合える態度を育てたい。
Every culture has its own rules and values.
まとめにかえて ― 授業は楽しく!
堅いことばかり書いてきたが、授業の基本は「楽しさ」である。楽しい授業の中に上記のような要素を散りばめていく。「楽しい授業づくり」という観点から、私は授業をプランニングするときに以下のようなことに特に留意してきた。
[1] 導入が命!
[2] ドリルはテンポよく、ひとつの活動は5分以内に!
[3] 誰にでもできる宿題を!
[4] accuracy だけにとらわれない評価を!
まずは教師自身が授業を楽しむこと。教師が楽しめない授業は、生徒も楽しめないはずである。
中学校入学当初の生徒たちは「字幕無しで映画が観たい!」「外国の人と自由に話したい!」と目を輝かす。しかし、中学の3年間で彼らの夢をかなえることはまずできない。中学の英語教師の使命としては、卒業するときに「これからも英語の勉強を続けるぞ!」という気持ちにさせることではないだろうか。そのためにも、彼らの知的好奇心を満足させながら、楽しい授業づくりを心がけることが何よりも大切なことだと思う。
English lessons should be fun and
interesting!
重松 靖(しげまつ
やすし)
東京都小金井市立緑中学校で英語教師としてのキャリアをスタートし、その後杉並区、府中市、小平市の中学校で英語を指導する。現在,東京都国分寺市立第二中学校教頭。東京都教育研究員、東京都教育開発委員、文部省教員海外派遣、東京都立教育研究所外国語研究室基礎教育研究調査員などを歴任し、研究と指導に尽力している。
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