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これからの英語教育はどうなるのか。気になることはいろいろある。しかし、私はやはり、英語教師の英語力が気になる。『戦略構想』では、英検が準1級、TOEFLが550点以上、TOEICが730点以上が望ましいとされた。しかし、教員の過半数はこの数値を下回っていよう。毎年行われている1ヶ月ほどの集中研修で英語力が付くことは期待できない。この現状を変えることでしか、将来の展望は開かれない、と考える。
もちろん、英語教師の力量はこのような試験の数値ですべて示されるわけはない。ましてこれらの試験はやはりpassiveな英語力を測定するだけで、具体的な英語の授業や実際的なコミュニケーション場面で、その教員が効果的なcommunicatorであるかどうかを直接測るものではない。それを承知した上で、やはり英語力はもっと高くてもよいと思う。なぜなら、英語力に不安を抱えていたのでは、よい授業を運営するための心の余裕が持てないし、また、工夫やアイディアを活かすこともできないからである。教師の英語力がおぼつかなくても、生徒の力は付くという逆転現象は、現実には、非常に少ない。
英語教師の英語力のアップの次には、「英語の授業は英語でやる」というキャンペーンを大々的に展開したい。文法の説明等の場合は日本語を効果的に簡潔に使う方がよいとは思うが、教科書の英文を扱う時だけでなく、授業運営の全般にわたって、生徒と教師の両者が使うコミュニケーション用語を英語にしなければ、それは英語の授業ではない、という覚悟を固めたい。もう、「それではslower
learners
がついて来られない」とか「しっかりとした知識が定着しない」などという弁解には耳を貸さないようにしよう。これらの問題点は、英語を教室での基本的な使用言語として使う中で、どう解決すべきかを考えるべきだ。さらに、「英語を通して正しい日本語を教える」などという本末転倒した議論にも、もう乗らない。そういう面はないことはないが、結局、それも弁解でしかない。
さらに、緊急にやるべきことは、中学校・高等学校の英語教育のそれぞれの終了段階で生徒が何ができるようになっているべきか、その"CAN-DO"
リストをしっかりつくりあげることである。可能なら、EFL環境で育った平均的日本人の成人に求められる"CAN-DO"リストも欲しい。そしてそれを英語教員だけでなく、中学生、高校生、一般の国民の共通理解にするのである。これさえできれば、学習指導要領は不要になるだろう。そのリストに示されていることができるようになるのなら、どのような指導法を採用しようと構わない。まして、語彙や文型・文法の制限をする必要はない。英語は技能科目であるが故に、このような対応をすべきだと思う。
最後に、大風呂敷ではない小さな提案を一つ。英語の授業は、ドリル活動とコミュニケーション活動のバランスをとることを念頭において実践すべきだと考える。従来は前者にしか目がいかなかった。そこで、後者のコミュニケーション活動(スキット、スピーチ、ディスカッションなど)が強調された。しかし、結局はこの両者のバランスを図るような授業を行わなくてはならない。要は、そのようなバランスが取れているかどうか、プロの英語教師なら自分で的確な判断を下してほしい。欠けている方を適宜補いながら、日々の授業に臨む。こう覚悟するだけで、英語教育は着実に変わると思う。
新里 眞男 (にいさと
まさお)
富山大学教授。富山大学附属中学校校長。専門は英語教育学。高校教員から、筑波大学専任講師、文部科学省(当時は文部省)教科調査官を経て、現職。
編著書に『実践的英語教育の指導法 21世紀の英語教育を考える』(ピアソン・エデュケーション)、『高等学校新学習指導要領の解説
外国語』(学事出版)、『オ−ラル・コミュニケ−ション展開事例集I・II』(一橋出版)など。
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