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日本の英語教育 ─これからどうなる? -- 小学校への導入が不可欠 --

渡邉時夫(清泉女学院大学)

 「現在の状況から判断して、今後英語が使える中学生や高校生が飛躍的に増えるか?」と問われた時、「Yes. 」と答える中・高の英語教師は極めて少ないだろう。期待を持てないまま、英語教育の仕事を続けているのが実態である。

 「今までのやり方では駄目だ。」私もそう思う。何かを根本から大きく変えない限り、日本の英語教育の改革に多くは望めない。では、何が変わればいいのか。私の答えは、明快だ。(1)英語教員自身が英語を使える日本人であることと(2)小学校から英語教育を始めること。この2つをきちんと実行することが決め手だと信じている。

 2002年7月に文部科学大臣が「戦略構想」を発表した。その中に、英語教育改革の決め手と私が考え続けてきた上記2つの提案が含まれている。しかも半年後には、所謂「行動計画」が打ち出され、2003年4月からは、英語教員全員を対象とする「英語教員研修」が始まった。遅すぎはしたが、文科省が重い腰を上げたことを歓迎したい。

 もう一つ、「小学校への英語教育導入」。これはいまだ確定してはいないが、その方向に進みつつあることは確実と言える。「教科化」を実現して欲しいが、条件がいまだ整っていない。In-service training の制度が整っていないし、英語のできる社会人登用の組織化が不十分であり、「英語を教える小学校教員」養成のためのカリキュラムが大学に導入されていない。政府には、これらを速やかに整備してもらいたい。ただ、「総合的な学習の時間」の内、「1時間を英語活動に当てること」という程度のことは、はっきり明言して欲しい。90%の小学校が英語活動を導入しており、文科省の決断を待っている。

 中学校では週3時間の中で、4技能全部と文法や語彙の習得もこなさなければならない。しかし、小学校では、主として英語を「聞いて分かる」ことだけを目指せばよいと考える。そのためには週1時間あればかなりの成果を上げることができるし、多くの小学校によってすでに実証されている。「聞いて分かる」ことを目標に展開されている小学校の英語の授業を参観した中学校英語教師のおよそ74%が「中学校英語とはアプローチが異なり好感が持てた」と、肯定的な評価をしていることが分かっている。

 わが国では、中学校から英語が始まるので、中1のかなり高い知的レベルと、文字通り初歩の英語レベルとのギャップがあまりにも大きい。教育内容が知的レベルにマッチしていなければ教育は成功しない。中学校1年生の英語教科書の30〜40%の内容(This is 〜, やWhat sports (food) do you like? など)は、むしろ小学生に適している。その分は小学校に移したい。中学校の教科書の内容がかなり削減されることになる。その分コミュニケーション活動に多くの時間をかけることができるだろう。小学校に英語が導入されれば、中学校の英語も必然的に変わる一例である。

 特区として申請している世田谷区の「日本語」の時間や、宇都宮の「会話科」の提案にも一理ある。しかし、子どもたちは、外国語(英語)に触れて初めて「言葉に対する興味関心」が高まり、そのことによって、日本語による伝達能力も磨かれるのだと思う。韓国では小学校で英語を教える目的の一つを、「母語の力を伸ばすこと」としている。

 @英語教員の英語使用能力を飛躍的に伸ばし、A小学校に英語教育を導入しようとしている文部科学省の方針に大いに期待している。改革が始まろうとしているこの時期を私は「英語教育革命前夜」と呼んでいる。

渡邊時夫 (わたなべ ときお)

清泉女学院大学教授。小学校英語教育学会会長。日本児童英語教育学会理事。
韓国の小学校英語教育事情にも通じ、教材制作や研究開発校の指導、各種研修会での講師の経験も豊富。長野県小学生英語指導力検定協議会の立ち上げに尽力、小学校での英語指導者育成に情熱をそそいでいる。小学校英語のご意見番的存在。

著書:
小学校英語活動用テキスト『KIDS CROWN』代表著者、小学校英語教材『FIRST CROWN』編集委員、中学校英語教科書『NEW CROWN』編集顧問。『英語が使える日本人の育成 MERRIER Approachのすすめ』(以上三省堂)、

英語教育リレーコラム第1回
日本の英語教育これからどうなる?
全般   「私の英語授業改革提案」 新里眞男  (2005年2月23日更新)

小学校 「小学校への導入が不可欠」 渡邉時夫  (2004年11月1日更新)

中学校 「期待される基礎学力」 高橋貞雄  (2004年12月8日更新)
高校   「高校英語教育における二極融合を目指す」 霜崎 實 (2005年1月21日更新)

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