3. 教材利用法指導上の工夫と共に、適切な教材を選ぶことはリスニング力を効果的に高めるために重要です。適切な教材とは、適切なレベルの教材であると同時に、生徒が楽しむことができる教材である必要があります。 教材を選ぶ場合、次の1〜5について、どのようなタイプのリスニングを行うのかをまず決めます。第1は、視覚的情報が伴うか、それとも聴覚的情報のみかの点です。映像を伴う教材は話をしている状況を見られるので、音声は補助的な役割となり、意味上重要な言葉の把握に注意を集中させやすくなります。しかし、真正な教材を使おうとすると、発話のスピードが速かったり、語彙・表現が難しかったりという問題が起こります。聴覚的刺激のみのテープなどは生徒のレベルにあった鮮明な発話のものが選べますが、実際のリスニングとはずれが生じ、作為的なものになりやすいという欠点があります。第2は、一人の人の話かそれとも対話かの区別です。モノローグの場合には、放送やスピーチなどのようにあらかじめ文章が作られている場合と、逸話や語りのように即興の場合があります。第3は、目的による区別です。社交的な話なのか、目的を持った交渉なのかです。第4は、聞く目的による区別です。概要をつかむのか、手順を知るのかなどです。第5は、相互交渉をしながら聞くのか、一方通行で聞くのみの活動かの区別です。 これらの教材が生徒たちのレベルにあったものかどうかを判断する必要もあります。話者が何名いるか、話の速さはどうか、英語に特別のアクセントがあるかなどの話者要因、生徒は聞くだけか、それとも答えるのか、どの程度の答えが求められているのか、話のトピックには興味を持っているのかなどの聞き手要因、文法、語彙、情報の複雑さ、どのような背景的知識が要求されるかなどの内容要因、そして、絵、図、そのほかの視覚的な補助があるかなどのサポート要因などです。 教材の種類は、幅広くすることが望ましいでしょう。常に同じ声のテープばかりでなく、女性、男性、アメリカ英語、イギリス英語、対話、放送、社交的な会話、業務英語等、さまざまなものに触れるチャンスを作って欲しいものです。一方で、教科書に沿って用意された教科書本文の読みのテープも、利用法次第では教室で大いに活用できます。リスニング教材として最も利用価値が高いのは、他のものを探したり編集したりする手間を考えると、実は、先生方がお持ちのテープなのかもしれません。 最後にもう一度、効果的なリスニング指導の特徴をまとめてみましょう。 @リスニングの目的が明確にされている いくら練習しても、ちっとも聞けるようにならない生徒のほとんどが、英語が読めません。リスニングは、聞こえた語順どおりに、その速度に合わせ、それまでの経験に基づいて統合的に意味を理解していく作業です。聞こうとする英語と同レベルの英文を、同じ速さで読み、意味を伝えることができない生徒が、どうしてそれを聞いて理解することができるでしょうか。読んだり書いたりする活動も欠かせません。4つのスキルを統合してリスニング力は伸びていきますし、リスニング力がつけば、他のスキルも伸びます。英語の語彙、文法をしっかり勉強するというミクロの学習から、常識を使って話を理解するといった英語の授業の枠を超えたマクロの学習に至るまで、オールラウンドな力をつけていくことが、遠回りのように見えてもリスニング力をつけるための最も近道なのかもしれません。 ◆参考文献 |
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