三省堂高校英語教育 2006年夏号
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特集 リスニング力「リスニング力を高めるために2 ―活動と指導の工夫―」昭和女子大学 金子朝子

2. 指導の工夫

 リスニング力を伸ばすには、学習者に英語のインプットを十分に与え、気づきを起こさせる工夫が大切です。気づきを起こさせる方法とは、例えば、内容理解のためのキーワードを絵で表して提示したり、テキストを文字で見せるときに、指導する文法事項の部分を斜字体にしておいたりする方法です。

 はじめに、リスニング活動の種類を示し、次に、聴取と内容理解の能力を上げるための指導の流れを考え、最後に、リスニング・ストラテジーの指導についてまとめます。

@リスニング活動の種類

 興味を高め、学習に参加している実感を持つことをねらいとした、リスニング活動をいくつか挙げてみます。

1)聞きながら絵やチャートに情報を書き加える

Q. どの地域のことを話しているのか、英文を聞いて、地図にをつけなさい。

[聞き取る英文]
Have you ever heard of the Lake District in England? Beatrix Potter lived there when she wrote her stories about Peter Rabbit.

2)聞いた内容と合致する絵や項目を探す

3)ディクテーション
  普通のディクテーションに一工夫加えたものを紹介しましょう。

Q. Tea Pot と言われたところに共通に入る適語を入れて、英文を書き取りなさい。

[聞き取る英文]
If he takes a bow and arrow, he’ll tea pot strong. If he chooses some thread, he’ll have a long life. If he chooses money, he’ll tea pot rich.

4)ディクトグロス(dictogloss)

 短いパラグラフで、しかも文法的に込み入ったものを教師が読み、生徒がペアやグループでそれを再現する活動です。一人の生徒では複雑で再現できないような英文でも、何名かで協力することによってそれが可能になります。単なる書き取り(dictation)とは違って、このときの生徒同士の話し合いの内容は、自然と英語の文法に焦点が置かれます。

[聞き取る英文]
Mrs. Parks’ arrest made black people in Montgomery stand together. They decided not to use city buses until the law was changed.

5)キーワードを聞き取る

6)ジェスチャーなど体を動かして理解を示す

 全身反応教授法(Total Physical Response:TPR)はこの例で、子供が身体の動きと一体化して言語を学ぶことに注目した教え方です。教師は、基本的な文法と語彙を含んだ命令の形でさまざまな指示を生徒に発し、その指示に即座に全身で反応することで学習を進めるものです。はじめは教師自身が動作を見せ、次に生徒の代表者に行わせ、それからクラス全体が動作をします。以下はよく用いられる表現の例です。

Stand up. Sit down.
Raise your arm (leg). Put down your arm (leg).
Close your eyes. Open your eyes.
Pat your cheek (back, arm, stomach, chest).
Clap your hands.
        (name of student), walk to the door (window).
        (name of student), turn on (off) the lights.

 英語を聞いて理解することを徹底して行います。全身を使う学習は授業のペースを変えるのにも役立ちます。短い命令文が理解できるようになれば、“If You Are Happy, Clap Your Hands”(『幸せなら手をたたこう』)を歌いながらTPRを楽しむこともできます。さらに、丸や三角や四角に切った色紙を用意して、教師の指示の通りに並べたり重ねたりするグループ対抗のゲームなどにも応用できます。特に英語のインプットが少ない日本のような環境では、大変効果的な指導法と言えるでしょう。

7)繰り返して聞き、次第に詳細を聞き取る

8)他の生徒の英語を聞き取る

9)日本語/英語で、聞いた内容を表現する

10)日本語/英語で、聞いた内容の要点をまとめる

11)内容理解を確認する

12)聞いた内容をノートに取る

Aリスニングを中心とした英語指導

 1 時間の授業の中で4 つのスキルを満遍なく使うことが理想的なのですが、それでは50分の授業のうち長くて15分しかリスニングに集中できません。時には、ひとつのスキルを重点的に指導することも効果があります。本節の最後にリスニングを中心とした指導の流れを例示します。一般的に、その指導は以下の3段階に分けて考えられています。

1)事前指導…教材の関連事項を、絵や図などによって示し、予備知識と教材への興味を増す。

2)事中指導…教材を聞かせ、難しい表現、発音、構文を取り上げて説明する。

3)事後指導…スクリプトを渡し、再度聞き直す。文章全体の正確な意味を確認する。内容について生徒が意見を述べたり、ディスカッションをしたりする。

 このような指導の流れの中に、聴取と内容理解の活動をうまく取り入れることが重要です。聴取を目的とした、ボトム・アップ処理の指導は、特に初級者には欠かせません。最小対立語(minimal pair)の聞き分け練習、ポーズの位置の確認などが効果的です。イントネーションや音変化を含む基本的な音声面のリスニング力は中学校で学んでいるはずですが、高校でも復習の意味で繰り返し指導することが望ましいでしょう。また、まとまりのある話の概要や要点を聞き取るというトップ・ダウン処理の指導には、談話としての「スキーマ」を持たせたり、内容に関して「予測」をさせたりする練習が効果的です。スキーマとは標準的でステレオタイプ的な知識の表現で、ある出来事や状況のシナリオのようなものと考えられます。例えば、「レストランで食事」のスキーマは、「ウエイター」「テーブル」「メニュー」「注文」のような典型的な単位が組み合わされたあるパターンを持っています。過去の経験が、新しい経験に意味を与える手助けとなる心的な枠組みを与えてくれるという考え方です。リスニングを効果的に行うには、このスキーマを持っていることが重要な鍵となります。

Bリスニング・ストラテジー

 近年は、学習ストラテジーの研究の深まりと共に、リスニング・ストラテジーの研究が盛んです。学習者が常に自己モニター(self-monitoring)を行えるように、練習のはじめに質問の形でリスニング活動の目的を示しておくことも有効です。次の表は、それぞれのストラテジーを使用させるための質問例を示しています。

ストラテジー 質問の例
音素を区別する
Did the speaker say first or fourth?
特別な情報を聞き取る How much did they say the tickets cost?
話者の態度を知る Is the speaker surprised or not?
要旨を聞き取る Is the radio report about news or weather?
発話目的を聞き取る
Is the speaker agreeing or disagreeing with the suggestion?
話の展開を理解する What is this story about?
趣旨を汲み取る Why is the speaker asking the man questions?
暗示を汲み取る
What are the speakers implying by what they said?
当事者意識を持つ Have you ever had the same feeling?

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