はじめに今回の学習指導要領改訂を機に,公立の中学校,高等学校,中高一貫校での勤務の経験から,中学校と高等学校の接続という点について考え,具体的な提案をしてみたい。 新しい学習指導要領で求められる能力とは先行して発表された中学校学習指導要領では,外国語の授業時間が3時間から4時間と増え,学習する語彙も増えたが,基本的には学習の質的変化や量的拡大というよりも,繰り返して学ぶことによる学習の定着に重きが置かれているように読める。 これに対して高校の英語では,「授業は英語で行うことを基本とする」ことが打ち出され,学習の質的変化を促すような内容になっている。この「授業は英語で」は,文法訳読中心の授業に対するアンチテーゼのようにも受け取れるが,「その際,生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう十分配慮する」とはあるものの,教える側にとっても,学ぶ側にとっても,相当高いレベルの能力が要求されるであろう。 「土台」となる基礎的な知識高校でのこの高い目標を達成するために,高校入学段階でどの程度の英語の力が求められているのだろうか。 「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」とともに,語彙の習得,文構造や文法事項の理解といった,語学にとって欠かせない基礎的事項が身についていることが重要だと考える。コミュニケーションを図ろうとする意欲や態度は大切であるが,それだけでは適切・正確に伝えるには不十分で,豊かなコミュニケーションが成立するためには,情報の送り手,受け手の双方にしっかりした知識が必要である。土台がしっかりしない所で高い建物を建てようとしても,傾いたり,倒れたりしてしまうであろう。ただ,語学の技能獲得的性格を考えると,文法の用語や分類といった知識偏重に陥ることなく,あくまでもコミュニケーション能力に欠かせない土台としての知識の獲得が大切であると思う。 中学校で身につけたい二つの力では,具体的に中学校の英語指導において中学生にどのような英語の力を身につけさせて高校に送り出したらよいのだろうか。私自身は大きく分けて2種類の力をつけさせることを意識している。 一つは,音声によって基礎的なコミュニケーションができる能力である。この中には自分の意見を盛り込んだスピーチ,必要な情報の取得・伝達,描写,相手への依頼・申し出,雑談などをおこなう力が含まれる。学習の進み方によってはディスカッションやディベートができればよいと思うが,特別に相当な時間を割いて指導しなければ,中学校段階では“どの学校でも目指す内容”とは言い切れない気がする。(このような音声によるコミュニケーション能力の下位能力として「英語の音」を作る力を身につけさせることは中学校段階においては決定的に重要であると思える。) もう一つは,最初に言及したが,正確に文を作り,できれば適切に文章として配列する力。特に正確に文を作る力は重要である。ともすると中学校ではセットされたフレーズを使って英語で楽しそうにやりとりすることを「コミュニケーション」としてしまいがちになる。決まり文句的なフレーズの習得ももちろん大切であるが,学習した語彙や文法を駆使して,自分で正しい語順で正確に文を作る力が目指すべきレベルであると思える。そして,その場で文を作って正確性も損なわずに基礎的なコミュニケーションを図る力が養成できれば理想的であろう。(このような力の下位能力としての「基礎的な語彙や文法の習得」は中学校段階で是非なされるべきことがらであろう。) 注)「幹」となる文法をまとめて学習するための指導例をご紹介しておく。ご参照されたい。(後置修飾の例: PDFファイル 80KB/1ページ) 以上の二つの力以外にも,テクストを読む力や,「読んだり聞いたりしたことについてメモをとったり,感想,賛否やその理由を書いたりすること」といった統合的な力も養成できるに越したことはないが,まずは基礎となる部分をしっかり固めることが中学校の段階では大切であると考える。 おわりに様々な教育環境があり,いろいろな生徒がいる中で,生徒全員に上記のような力をつけさせることはなかなか難しいが,英語の教師として,理想とするレベルを常に意識して日々の授業にあたりたいと思う。 齋藤 勝彦 (さいとう かつひこ)
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