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心に残るあの名作レッスン Language―Life Of A People 母語の持つ意味を問いかけたNEW CROWNの定番題材

後関 正明(ILEC言語教育文化研究所)

Language―Life Of A People (NEW CROWN昭和59年度版3年生)
 昭和53(1978)年度の初版から数えて3版目にあたる昭和59(1984)年度版NEW CROWNに掲載されたLET’S READの作品。ウェールズ語などを例に,民族にとっての母語の持つ意味を問いかけたメッセージは,結びの一文である “Language is the life of the people who use it.”とともに,多くの人々の心に刻まれた。その後一時休載期間をはさみ,形を変えつつも,平成14(2002)年度版まで掲載され,NEW CROWNの代表的題材のひとつとなった。(編集部)

生徒たちとの別れを前にして・・・

 今を去ること20数年前のひとこまです。高校入試も終わり,クラスの仲間たちほぼ全員の進路が決まり,卒業式まであと2週間。英語の授業もいよいよ大詰めです。

 私はLET’S READのLanguage―Life Of A Peopleで,生徒たちに熱っぽく語りかけた授業をしました。授業をしている自分が,その内容に共感して興奮し,話をしながら涙が出そうになったのです。私のただならぬ熱気を感じて,生徒たちもじっと聞き入りました。教師の心と生徒たちの心とがひとつに融け合ったような雰囲気を醸し出したことを,実感として,つい昨日のことのように覚えています。

 この題材は,ウェールズ語などを例にとり,自分たちのことばが失われていく様子や,やがてそれが自由に使えなくなることの悲劇について紹介したものでした。

 「ウェールズでは,イングランドによる統治のため,もともと使われていたウェールズ語の使用が禁止されました。Englishのみを使うように強制されたのです。それまで自由に話したり,聞いたり,読んだり,書いたりしていた祖国のことばが,ある日急に使えなくなってしまった!!」

 「どうして?」―生徒たちから素朴な質問が出ます。

 「それはね,政治問題がからんでいるのです。もともとことばというものは,ウェールズ語にしても,韓国・朝鮮語にしても,もちろん日本語も,その国の人たちの生活に根ざしたものであって,なくてはならないものですね。それは生活の基盤であり,いわばその国や民族の自然・歴史・風俗・習慣などを含めた,文化そのものと言えるのです。いま君たちが日常使っている日本語の使用禁止命令が出て,明日から使えなくなったとしたら,どうでしょう。そして何か別のことばを強制されたらどうでしょう。しかも,法律で決められ,日本語を使ったときの罰則まであったとしたら…。考えられませんね。でも,実際にそのようなことが,この世界にはあったのです。」

 私は教科書準拠教材の“Land Of My Fathers”(我が祖国)のテープを聞かせました。ウェールズの人々は,この歌を歌って祖国を偲んだのです。「私の心をいやしてくれる,祖国…」で始まるこの曲は,とても荘厳な感じのする曲でした。

ドーデの『最後の授業』 (*1) に話題がとんで・・・

 「これと似たようなことが,フランスでもありました。普仏戦争 (*2) のとき,フランスのアルザス地方はドイツ軍に占領されたので,村の小学校ではフランス語を使うことが禁止され,ドイツ語で授業をするように強制されたのです。ドーデ (*3) という作家の『最後の授業』という小説に詳しく書かれています。その学校に通うフランツ少年の担任のアメル先生は,フランス語が使えなくなるサイレンが村中に鳴り響くと,黒板に『フランス万歳!』と書いて,生徒たちに手まねで下校しなさいと伝えたのです。

 このアメル先生のことばを大切にする気持ちを,私たちは少しでもくんで,私たちの日本語をもっと大切に考えて使っていかなくてはなりません。このLET’S READの終わりの文は『言語はそれを使う人々のいのちだ』と結んでいます。そして最後のページには,約20カ国のことばで“さようなら”が載っています。ことばはみんなそれぞれ異なるけれども,話す人たちのこころはきっとひとつですね。」

おわりに・・・

 いま思い返してみると,ことば―その国または地域の文化―と教育との関係,さらには国家体制との関係について,私は少なからぬ関心を寄せ,その気持ちがいささか授業に反映していたのだろうと思います。

 「題材」というと堅くなりますが,要するに教科書の内容が,いかにそれを教える人と教わる人の心にときめきを与え,そしていつまでその余韻を残すか,ということが題材に課せられた使命だと思います。私はこの題材に接し,その重みをずしりと感じずにはいられません。

*1  『最後の授業』については,背景にある歴史的経緯や政治状況を踏まえ,この作品がどのように読まれ,時には利用されてきたかという点について,慎重になるべきとの見解もある。しかしここでは,あくまで生徒たちにことばの大切さについての視点を供するきっかけとして,この作品に言及するにとどめている。

*2 普仏戦争 (ふふつせんそう;1870〜71)フランスとプロイセン王国(後のドイツ帝国)の間で行われた戦争。独仏戦争とも。この戦争はプロイセン側の勝利に終わり,プロイセンはドイツ帝国全体を支配する。フランスはアルザス・ロレーヌ地方をドイツに明け渡すことになる。アルザス地方における1小学校の授業の模様を描いたのが,ドーデの『最後の授業』である。

*3 ドーデ (Daudet, Alphonse;1840〜97)フランスの作家。代表作に『風車小屋だより』(1866),『アルルの女』(1872)など。

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後関 正明  (ごせき まさあき)

東京都墨田区立中学校で教諭,校長を長年務める。その後,東京都滝野川女子学園中・高校で教鞭をとる。現在,NPO法人「ILEC言語教育文化研究所」常務理事。2003年より都内の私立大学で教職課程履修の学生を教えている。

英語教育リレーコラム第9回
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「Language―Life Of A People 母語の持つ意味を問いかけたNEW CROWNの定番題材」 後関 正明 (2007年4月11日更新)
 

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