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コーパスを利用した初の英和辞典の改訂版である『ウィズダム英和辞典 第2版』、並びに、総合的英語発信力が身につく新しい和英辞典『ウィズダム和英辞典』が、10月10日同時発売となりました。
辞書の発売と同時に、「三省堂デュアル・ディクショナリー」サービスも開始いたしました。三省堂デュアル・ディクショナリーとは、辞書刊行と同時にその辞書をウェブでも利用できる、辞書の新しい形態です。「三省堂デュアル・ディクショナリー/ウィズダム英和辞典・ウィズダム和英辞典」(http://wisdom.dual-d.net/) 『ウィズダム英和辞典 第2版』『ウィズダム和英辞典』の発売と、「三省堂デュアル・ディクショナリー」サービスの開始に際しまして、三省堂英語教科書・教材のサイトで連載している「英語教育リレーコラム」において、3回にわたり特集をいたします。 最終回となる第3回目は、英日翻訳者、そして予備校講師としても活躍されている成田あゆみ先生に、「辞書を読む」ことについて、お話をうかがいました。 この1ヵ月、毎日『ウィズダム英和辞典』を読んでいます。コーパス分析に基づく語義配列は、「やっぱりそうだったのか!」という驚きに満ちています。気の向いたページを開いて目を通すだけで、知識のブラッシュアップになっています。 翻訳業界ではスピード重視の傾向から、ここ数年でCD-ROMまたはウェブの辞書が主流になり、検索の手軽さや速さを考えると、紙の辞書を引くことは少なくなっていました。 しかし、「短い時間で訳を作る」という視点を離れ、「単語の意味を理解し、自分の頭に定着させる」ということを考えた場合、辞書をじっくり読むのは不可欠であり、そのためには紙の辞書に一日の長があると、改めて実感しています。また、『ウィズダム英和辞典』は単なる「字引」というよりも辞書と文法書が組み合わされたものに近く、じっくり読みたくなる記述が多いのです。 ●辞書をしっかり読むことは、実力養成につながるひるがえって高校生の状況を考えると、「ここ数年、生徒の英語力がなかなか伸びない」「知らないことが多すぎる」と感じているのは、きっと筆者だけではないと思います。単語力、長文を読み通す集中力、一般常識、さらには和訳を書く際の漢字力や日本語表現など、どれをとってもこちらの予想を超える勢いで年々低下しているというのは、現場に共通する認識ではないでしょうか。 こうした高校生に対し、辞書をしっかり読み込むよう指導することは、実力養成に大きな効果があるように思います。 筆者はここ数年、主に高2から高3の前半にかけて、「紙の辞書を読み込み、自力で正しい解釈にたどりつく」ことを意識した演習を行っています。具体的には、「基本動詞」(意外な自動詞・他動詞、基本動詞を核としたイディオム、群動詞、基本動詞の分詞形容詞)に焦点を当てるようにします。 例)カッコ内に前置詞を入れた上で、以下の英文を和訳しなさい。 ここでは、progress,atomic bomb,social problemの意味は口頭で教えます。それにより、resultとplaceの語法に焦点をしぼります。 実際に予備校の高2クラスの生徒に訳させてみたところ、使っている辞書の差が大きく出ました。電子辞書派の生徒は「resultの後の前置詞が分からない」「placeが他動詞であることを確認できない」傾向が見られました。一方、紙派の生徒は、全員がresult inに到達しました。また、placeを他動詞だと理解したのはもちろん、place the vase(花びんを飾る)、place a hand(手をあてる)という記述から「問題を提示する」という訳語に到達した生徒もいました。 ●「『ウィズダム和英辞典』には、こんな単語まで載ってる!」「和英辞典は電子辞書しか持っていないが、そもそもほとんど引かない」と話す生徒は少なくありません。その理由のひとつとして、「これまでの電子辞書に搭載されている和英辞典には、引きたい単語が載っていない」というものがあるようです。 そんなある浪人生(国立医学部志望)に、『ウィズダム和英辞典』を引いてもらったところ、第一声は「こんな単語まで載ってる!」でした。
「思いついた語でそのまま引けそうなので、引いてみたいという気になります」 などと言いながら、5分ほども同辞典を読んでいました(こちらも『ウィズダム英和辞典』同様、読み込みたくなる記述が随所にちりばめられています)。 そして、「これまで英作文では知っている表現にいつも逃げていましたが、それでは表現の幅が広がらない気がしてきました。これからは和英辞典も引いて、新しい表現にチャレンジしようと思います」と言ってくれました。 なお、『ウィズダム和英辞典』では「デュアル・ディクショナリー」の用例検索機能が、日英翻訳において大変便利です。見出し語よりはるかに多くの用例がヒットしますので、訳の候補が大幅に広がります。 ●辞書付箋方式また、紙の辞書の効果的な使い方としてご紹介したいのが、「引いた単語に付箋をつける」方法です。『7歳から辞書を引いて頭をきたえる』(深谷圭助著、すばる舎、2006年)で紹介されており、非常に達成感がありそうだったので、授業で紹介してみました。 1週間後、2名の生徒が報告に来ました。コメントを紹介します。 やり始めるとすぐに効果がでました! 知ってた単語に違う意味があるのを知ったり、本当に辞書が単語帳代わりになるし(しかも辞書なら、受験単語みたいに絞られてないので幅広い)、付箋はってると楽しいです。私は付箋にその単語を書いて、それを見て分からなかったらページを開いて確認してます。本当に単語帳そのものです! 持ち運ぶのは重いのですが、語彙力upしたい人には一番早い方法のような気がします。 (高3・国立医学部志望) ※写真の辞書は、『ウィズダム英和辞典』(第二版、三省堂) 写真では、引いたすべての単語に付箋をつけていますが、この他にも「引いた単語のうち重要語だけに付箋をつけていく」方法、または「make, take, get等の基本動詞10個のみに付箋をつけて引きやすくする」方法など、工夫次第でいろいろな使い方ができます。 ●辞書をじっくり読むのは楽しいこの1ヵ月、『ウィズダム』の読者として、「辞書はじっくり読むことによってこそ、大きな学習効果を発揮する」という事実を再確認できました。英和辞典・和英辞典は、英語はもちろん、日本語についても、深く考えるきっかけとなります。その効果は想像以上だと感じています。自分も、また生徒に対しても、辞書をじっくり読むよう、今後とも勧めていこうと思います。 一方、今回執筆者として、『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』において、ディスコースマーカー(論理展開を示す表現)に関連する記述を担当しました。実際に書いてみて分かったのは、「辞書の記述は、本当に細部まで神経を使っている」ということです。短い文で意味や用法を的確に伝え、他の文脈にも応用がきき、説明しようとする単語以外は難しくなく、語法はあくまでも正確、できれば内容は前向きに……、といった条件を満たそうとすると、1本の例文を書くために1日近くを費やしたこともありました。 そうして出来上がった例文が、「じっくり読み、深く考えるきっかけとなる」ものに仕上がったかどうかは、読者の皆様方の判断を仰ぐしかありません。ただ、『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』全体が、学習者とりわけ言語能力の成長期にある高校生にとって、さまざまな発見のきっかけになることを願っています。 辞書とじっくり向き合うのは、時代に逆行するような、地道で細かい作業です。しかし、慣れてくると達成感があり、しかも学習効果も非常に高いので、どんどん楽しくなってくるはずです。そういった喜びを味わうためにも、高校生にはぜひ、じっくり辞書を読んでほしいと思います。 成田 あゆみ (なりた あゆみ) 『ウィズダム英和辞典』『ウィズダム和英辞典』の執筆者。英日翻訳者、英語講師。大学受験予備校のほか、企業英語研修、翻訳学校で授業を行っている。著書に『ディスコースマーカー英文読解』『[自由英作文編]英作文のトレーニング』(以上共著)『大学入試 英語総合問題のトレーニング』など。
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