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コーパスを利用した初の英和辞典の改訂版である『ウィズダム英和辞典 第2版』、並びに、総合的英語発信力が身につく新しい和英辞典『ウィズダム和英辞典』が、10月10日同時発売となります。 辞書の発売と同時に、「三省堂デュアル・ディクショナリー」サービスも開始いたします。三省堂デュアル・ディクショナリーとは、辞書刊行と同時にその辞書をウェブでも利用できる、辞書の新しい形態です。「三省堂デュアル・ディクショナリー/ウィズダム英和辞典・ウィズダム和英辞典」(http://wisdom.dual-d.net/) 『ウィズダム英和辞典 第2版』『ウィズダム和英辞典』の発売と、「三省堂デュアル・ディクショナリー」サービスの開始に際しまして、三省堂英語教科書・教材のサイトで連載している「英語教育リレーコラム」において、3回にわたり特集をいたします。 第1回目は、『ウィズダム英和辞典第
2版』編者の徳島大学教授井上永幸先生に、今回の改訂の趣旨、ならびに、新しい辞書をどのように英語教育の中に生かしていけるか、その可能性と課題について、お話をうかがいました。 1.辞書編纂とコーパス『ウィズダム英和辞典』の初版が刊行(2003年)されて以降、「コーパス」という用語を目にする機会が増えました。辞書を編纂するのにコーパスを使う意味についてお聞かせください。 コーパスというのは、現在では一般に「言語分析に利用可能な電子化された言語資料の集積」のことをさしますが、辞書を作るのにコーパスを使うというときには2つの立場があります。1つはcorpus-based、つまり「コーパスに基づいて」ということですが、ある仮説が正しいかどうかを、コーパスを検証して確認するという立場です。もう1つはcorpus-driven、「コーパス駆動的」といって、コーパスに啓発されて新しい言語事実を発見するという立場です。『ウィズダム英和辞典』は、この2つの立場を組み合わせて作っていきました。項目を執筆するためにコーパスを調べていて、こんなことが言えるのではないか、こんな発見があった、こんなのは今までの辞書にはなかった、こういうことがわかれば英語の発信に役立つ、というようなことは corpus-driven の立場で積極的に取り入れました。よく語法の問題で取り上げられる事項は、corpus-basedの態度で検証しました。その結果、現代ではあまり使われていないということがわかった表現などは、扱いを小さくしたり、注記を付けたりして、現代の英語の実態を反映するようにしました。英語の試験に対して、実際には使われていない言い回しが出題されるというような批判がよく聞かれますが、それは英語の辞書に載っているから出題している、という面も大きいと思います。そこで私たちは辞書が変われば入試も変わるという思いで辞書編纂に取り組んできました。 2.言語資料としてのインターネットの信頼度コーパスといえば、インターネットも一種の言語資料の集積と見なせるのではないでしょうか。最近は「こういう表現をインターネットで見つけたけれど、辞書では間違っていると書いてあるが本当か」といった質問もよく受けます。 インターネット接続が一般化してきて、私たちは簡単に英語にふれられるようになりました。ある表現が実際に使われているかどうか、検索エンジンをコーパス代わりにして検索するというようなことを先生方もやってみられたことがあると思いますが、その際に注意すべき点があります。たとえば、furnitureという語は不可算名詞で、furnituresという複数形になることはないのですが、これは本当に誤りかと確認するために検索エンジンのGoogleで検索するとします。そうすると、251万例もあると表示されます。こんなに使われているということは、誤りではないのではないか、と思われてしまうかもしれませんが、一方でfurnitureという正しい形は3億5千万例で、割合でいうと99.3%になります。furnituresは0.7%です。authenticな資料を集めた大規模コーパスのBank of Englishは現在5億2千万語ですが、furniture 17,706例に対して furnitures 4例ですから、やはりfurnituresは誤りだと言い切っていいでしょう。インターネットではいろんな人が書いていますから、私たちが基準とすべきでない表現も探すとたくさん出てくるのですが、検索した結果のヒット数が多いからといって、すぐに使われているという結論を出すことはできない、もう一段の検証が必要になるという一例です。『ウィズダム英和辞典』は日本人学習者のために信頼できる資料を集めるところからスタートしました。 3.辞書をどうやって英語指導/学習に生かしていくか資料と辞書の関係が理解できました。では、こうして編纂された辞書を、実際の教育現場における日々の英語指導/学習の中で、どのように活用していけばよいでしょうか。 3.1.英語を教える中での辞書指導辞書を活用するには、まず品詞を判断できるだけの文法力が必要です。言い換えれば、辞書を引けるように指導するということは、同時に文法の指導にもなります。また、品詞がわからないと文が組み立てられませんから、作文の指導にもつながっていく。辞書は文法教材に最適の書籍と考えていただきたいと思います。そして、辞書を活用するためには、自分の辞書の約束事を知ることが大事です。そうすれば自分の辞書の特徴・長所が生かせると同時に、学ぶ対象である英語の体系そのものへの理解にも貢献します。学習したことを、ばらばらの知識ではなくて、頭の中で整理ができるようになるというのが辞書の大きな利点ですから、じっくり記事を読むことを生徒に推奨していただきたいと思います。
3.2.学習者はいつ辞書を引くべきか
また、いつ辞書を引くかということについては、高校生は難しそうな表現に出会ったときに辞書を引いて、訳語を見つけて終わり、ということが多いと思います。これでは辞書がただの単語帳になってしまって非常にもったいない使い方です。
3.3.紙の辞書と電子辞書について辞書の刊行と同時に、書籍辞書の購入者はウェブ上でもその辞書の検索サービスを利用できる「三省堂デュアル・ディクショナリー」のサービスも開始いたします。発表の時には電紙(でんし)辞書というキャッチフレーズが話題になりました。新しい辞書のあり方に対する三省堂としての試みの一つであるわけですが、井上先生としてはどういう位置づけのものとお考えでしょうか。 紙の辞書の特権というのは、自分が引こうと思った単語以外の情報にふれることができるということです。おそらく、英語が好きになる人というのは、こういったことができて知識が広がっていくから好きになるのだと思います。じっくり勉強するのには紙の辞書がすぐれています。一方、ネット上の辞書は、検索の速さや柔軟性にすぐれていて、PC上の作業には強い味方になります。そして携帯型の電子辞書は、表示面積が少ないので、外出時に訳語を気軽に調べるのに向いています。どの作業を行うのか、目的に合わせて使い分けができればいいと思います。 井上 永幸 (いのうえ・ながゆき) 徳島大学総合科学部教授。専門は英語学(現代英語の文法と語法)、コーパス言語学、辞書学。編著書には『ジーニアス英和辞典 初版』(大修館書店)、『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版)、『ニューセンチュリー和英辞典 2版』(三省堂)、『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。
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