●はじめに私の勤務する駒澤大学高等学校は、教科性を生かしながらも普段の授業とは違った角度からの新たな気づきや体験を持たせることを目的に、平成6年から15年まで「特別講座」という教科を設定した。対象は1年生と2年生である。その中で私は、「映画で学ぶ英語」の講座を担当した。私は当初からこの講座を担当していたわけではなく、別の教諭が担当していた授業を受け継ぐ形でのスタートとなった。私自身、映画にそれほど興味や関心があったわけではないが、毎年教室定数上限の40名が集まる講座であり、生徒からは評判が高かったため、当時たまたま教務を担当していた私が引き受けざるを得なかったのがこの授業を受け持つことになったきっかけである。授業は隔週に1回、2時間の連続授業で、年間15回の講座、計30時間で構成された。テキストもなく、今までにはない授業内容と展開であったため、私自身も試行錯誤の連続であったが、以下にその経験を述べていきたい。 ●指導の概要普段の教室での英語ではないので、必ずしも英語そのものの理解だけでなく、作品の背景や、登場人物あるいは作者の思いなども含め、内容にも幅を持たせるように、次の5つの項目を指導の目標とした。 (1) 英語のシナリオを理解しよう。 以上のことを踏まえ、扱う作品の選定を進めたが、学校の教育の場であることを考え、自分なりに次の基準を設けた。 (A) 物語性があり、常識的な社会知識があれば着実に展開を追っていけるものであること。 ●実際の授業展開上記概要に示したもののうちシナリオの理解について、授業で実施した一例を述べていきたい。 生徒たちのほとんどにとって、当然のことながら扱う作品を見るのは初めてである。よってある程度作品を見ながら、まずはストーリー展開を追いつつ、扱いたいシーンで一旦止めて、そこでの内容を理解していく方法を取った。 ここでは October Sky (遠い空の向こうに)の中から2つのシーンを取り上げた。
ちなみにこの作品は、アメリカの炭鉱町に生まれたHomerが、高校生のとき友人たちと協力してロケット制作に取り組んでいくという、実話を基にした作品である。 全部を紹介するとかなり長くなってしまうので、実際に指導で使ったシナリオの一部を用いて、上記1のシーンにおける授業展開の様子を述べていく。生徒には次のようなワークシートを配布した。 ワークシートの例次のシーンを理解していきましょう。 【1】 まずは、何もヒントを出さずにシーンを見ていきます。HomerとRiley先生の2人の会話です。この中でRiley先生は自分の気持ちを述べているとともにHomerに何かを伝えようとしています。表情などを観察しながら、その内容を自由に書いてみましょう。(まだ下の台詞は読まないで書いてみましょう)
【2】 次の英文が、実際のスクリプトです。スクリプトにも注意して、音声を確認しながらもう一度見てみましょう。 【3】 上の台詞を基にして、【1】 で書いた内容と違うと思ったこと、あるいは分かった内容を整理してみましょう。 【4】 では、実際に理解を深めていくために語句などの解説をします。それを上の英文の中に適宜書き込んでみてください。 【5】 【4】 で得た情報を基に、自分で日本語の字幕にしてみるつもりで日本語にしてみましょう。必ずしも一字一句を丁寧に訳すのではなく、台詞らしい表現を工夫してみましょう。 【6】 では、ここで日本語の字幕を見ながら、シーンを見てみます。自分のものと比べてみましょう。感じたことを書き留めてみましょう。 *実際に使用したワークシートには、SVOCや、構文上のポイント、熟語等の注意すべき点をある程度書き入れておいた。ここでは一例として、Ms. Rileyの台詞の中では比較的長く、文構造が難しいと思われるものについて、that節中のif節で列挙されている動詞句に色を付けて示している。 実際の展開では次の点に留意した。
なお、英語理解力の差異もあるため、多少友達と相談しながら考えてもよいことにした。 ●評価等について本校でのこの授業は、年度によって評価法が多少変化したが、授業に取り組む積極性・意欲、授業の内容の理解度、自己表現、出席率等により5段階で評価した。 ワークシートを回収して評価に生かすとともに、授業中の取り組む姿勢なども巡視しながら評価をした。
●おわりに ここでは紹介できなかったが、原作と映画の比較では、 Dead Poets Society
(いまを生きる)を用いて原文を読ませ、場面を想像しながらストーリーの内容を考えさせた。 Remember the Titans
(タイタンズを忘れない)では、人種問題を克服したフットボールチームの高校生たちの実話を基に、感じたことを述べさせた。ほかにもいくつかの映画作品を軸として、英語や外国の文化・社会問題などについて、いろいろな角度で講座を展開した。作品の上映時間との絡みで、なかなか1講座単位で完結せず、2〜3時間にわたり作品を扱うことがほとんどであった。シナリオはスクリーンプレイなどで出版されているものもあるが、そうでないものはDVDのキャプションを助けに聴き取って、ネイティブ・スピーカーの先生にチェックしてもらった。準備が大変であったが、英語や英語圏の文化や社会問題などを、普段とは少し違った視点から見つめなおす機会として、生徒にも楽しめる授業であったようである。通常の授業ではこのような授業展開を図ることは困難であると思うが、休業中の補習や講習のひとつのヒントとしてお役立ていただければ幸いである。
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