英語教育リレーコラム
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子どもを惹きつける授業のスパイス─義務教育修了記念に英字新聞を作ろう!─

石川 真知子 東京都足立区立第九中学校


1.はじめに

 中学校では、1年生入門期に生徒が持っている目の輝きを卒業時まで持続させることは至難の技です。ALTとの出会い、新鮮な教材との出会い、アクティビティの工夫など、さまざまな「あの手この手」をスパイスとして使いながら、生徒に興味関心を持たせる工夫を、現場の先生方はしています。私の場合、英字新聞作成へのチャレンジが、生徒の目を輝かせるためのスパイスとなりました。

2.教育に新聞を―NIEに取り組む学校

 私が2年前に赴任して来た東京都足立区立第九中学校では、NIE(Newspaper in Education、新聞を教育に活かす試みのこと)に取り組み、すでに成果を上げていました。現在も朝学習では新聞を用いた独自の教材で3年間学習しており、「総合的な学習の時間」や、体験学習の事前・事後など、日常的に新聞作りに取り組む姿が見られます。

 本校はまた、たいへん部活動の盛んな学校でもあります。野球部の全国大会3位をはじめ、バレーボール部やバスケットボール部も関東大会や全国大会にたびたび出場するなど、かなりの好成績を収めています。そのためか、学校全体に活気があり、教師から「さあやろう!」と呼びかければ、「よし、わかった、やるぞ!」と応えてくれる雰囲気のある学校です。部活動で交流のある他校との対抗意識も盛んで、勉強についても他校での取り組みを紹介すると「うちも負けないぞ!」とばかりにやる気を見せます。ライバル心を刺激すると、やる気を引き出すスパイスとなります。

 彼らのやる気と日本語での新聞作りの技術を見て、彼らならきっと「英字新聞作り」に乗ってきてくれると思いました。私は3年生に「3年間の集大成として、英字新聞を作ろう!」と呼びかけました。

3.英作文力向上・英語での表現力向上への思い

 まとまった英作文に取り組ませたい―いつも日常の指導に息切れしながらも、英語を教える教師としてこれだけは心がけたいと思っていることのひとつです。1年生では自己紹介、2年生では英文日記や遠足の感想文、私の夢、そして3年生では3年間の思い出など、年にひとつは「まとまった英作文」に取り組ませています。

 とはいえ、生徒にとって英作文、それもまとまった内容の50語〜100語、あるいはそれ以上(時には200語を軽く越えます)の英作文は、英語学習の中でもこの上なく難度の高い課題であるといえます。指導する教員にとっても、これはとても重い課題のひとつです。この重い課題を「とても越えることのできない高いハードル」とは感じさせないで、生徒に取り組ませる方法はないものだろうか…。

 さまざまな試みを模索しながら、私の中にある「まとまった英作文」への思いは頭から離れませんでした。そんな中、毎年必ず参加している研究会や大会の発表を見ると、素晴らしい作文指導の実践報告がいくつもありました。それらに目を開かれ、いつか私の生徒にも、このような作文指導をして、「自分の感動体験を英語で表現する感動」を経験させたいという思いが強くなっていきました。

4.表現の原点―豊かなモデル文の提示

 豊かな表現活動の根本には、豊かな感動があると思います。感動があるから表現が生まれる。しかし、私たち英語教員は、ともすれば学習者(それも初心者)に完璧で誤りのない英語表現を求めてしまいます。では、教える立場の私には、完璧な英語表現ができるのでしょうか。自分にもできないことを、生徒に求めているのではないでしょうか。

 そこで今回私は、生徒に要求するものをまずは自分が示してみようと考えました。私が生徒に直接指導することができるのは、選択授業の週1時間(50分)のみです。しかも私は、一昨年本校に異動してきたばかりでした。この条件の中で私にできることは、「豊かなモデル文の提示」でした。

 私はできるだけ多様な英語表現を「モデル文」として生徒に与えました。生徒が「このような表現をしてみたい」と思うような英文を、生徒の気持ちになって(15歳に戻ったつもりで)大量に作文していきました。私の作ったモデルの中から、生徒が自分の作品に活かせる表現を見つけ、それを応用して自分のものとして使ってほしい。表現の可能性が豊かに広がっていくような、そんな感覚を英語でも体験してほしいと願いながら、モデル文を作りました。以下、そんなモデル文のいくつかを紹介します。

・修学旅行の二日目は農業体験をした。
 On the second day of our school trip we experienced farming.
・田んぼの土はぬるぬるしていたが,ひんやりと気持ちよかった。
 The mud in the rice field was slimy, but it was cool and pleasant, too.
・労働のあとのご飯はとてもおいしかった。
 The meal we had after the work was very, very delicious.

 モデル文の提示には、十分に時間をかけました。インテイク(intake)に時間のかかる生徒には、十分な時間を与える必要があります。私はできるだけ多様な表現を提示しようと努め、できるだけていねいに解説していきました。一見遠回りのようですが、この過程を通して生徒の英語に対する感覚が磨かれたようです。この指導を通して、ライティング指導の中にリーディング指導があることを実感しました。

 accuracyについては、今回はあえてこだわりませんでした。正確さを問うよりも、「表現するチャンス」を作ることに重点を置くべきだと考えたからです。

5.指導の流れ

 今回の指導では、実際に授業時間をあてたのは3時間だけであり、あとは授業時間外に生徒が積極的に取り組むことで作品を完成させることができました。

第1時(第1週、9月末、前期末試験終了後):

 英字新聞作りの呼びかけとモデル文の提示、解説。(運動部所属の3年生も全国大会を終えて引退する頃です。つまり、彼らにとって英字新聞という新たな挑戦の機会が出現!なのです。燃える九中生です。)

第2時(第2週、早い生徒は下書きを終える):

 下書き。個別指導でさまざまな問いに答える。

第3時(第3週、このころには続々と提出してくる):

 清書。前もって下書きを提出させ、教師からOKが出たら清書に取りかかる。完成させたら提出。個別対応。早い生徒はきれいに仕上がった作品を持ってくるので、他の生徒はそれに刺激され、また新たに競争心を燃え立たせて、より良い作品を作ろうとする(これもスパイスのひとつ)。

最終目標(10月末、文化祭):

 文化祭では全員の作品を展示する。

6.英語で表現する喜びとチャンス―表現の場を作り出す

 今回の取り組みでは、「義務教育の修了を記念して、英字新聞を作ろう!」との呼びかけに、3年生に在籍する217名のほとんど全員が応えてくれました。

 多様な英語表現の中から、自分の好きな表現や語句を選んでいく作業は楽しいものです。その過程の中で、英語の響きの美しさや思いがけない楽しさに気付きます。そして何よりも「自分の思い」や「感じたこと」を英語でも表現できたという成功体験こそが、生徒一人ひとりの英語表現力アップにつながると信じています。

 日本語での多様な表現活動と同じように、英語でも臆することなく表現する機会をできるだけ多く作っていきたいと考えています。

7.生徒作品

 せっかくなので、ここに生徒たちの作品のうちいくつかをご紹介します。

生徒作品例1
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生徒作品例2
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生徒作品例3
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生徒作品例4
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 なお、これらの作品は、平成17年3月に全国小・中学校・PTA新聞コンクール学習新聞の部優良賞を受賞いたしました。以下がそのときにいただいた賞状です。

賞状の画像
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8.御礼―この場を借りて

 最後に、謝辞を述べさせていただきます。今回の英字新聞作りについては、現練馬区立大泉中学校の津田雅子教諭と練馬区立光が丘第三中学校の福島恵子教諭の大会発表資料や助言を参考にさせていただくこと多大でありました。この場を借りてお二人に心から御礼を申し上げます。また、都内公立中学校への出張の際には、各校で英語ライティング指導の成果や作品を見ることも多く、各校で指導に工夫を重ねる多くの先生方がいらっしゃることに大いに励まされました。ありがとうございました。

 また本校でNIEに取り組んでいる丸山明美教諭(国語科)の新聞作りの指導なくして、今回の受賞はなかったと思います。一教科だけの指導ではなく、複数の教科、複数の教員の力が合わさったとき、その指導効果は増幅され、生徒にとってこの上ない結果をもたらすことを実感しました。ありがとうございました。

9.結びにかえて

 私からのメッセージを記し、本コラムの結びとさせていただきます。

 教師が生徒のためにできること―それは生徒の心に火をつけること。生徒と気持ちを分かち合うこと。

 

石川 真知子 (いしかわ まちこ)

  東京都足立区立第九中学校主幹。足立区立第十四中学校を皮切りに、墨田区、江戸川区、足立区と英語教育活動に取り組んで28年目。平成2年「自己紹介のときに名字が先か名前が先か」に関する取材を受け、NHKナイト・ジャーナルにて授業がテレビ放映された。

英語教育リレーコラム第7回
高等学校の英語教育への提言
「1回5分のカードゲームで単語の定着」 福田 美也子 (2006年7月10日更新)
「義務教育修了記念に英字新聞を作ろう!」 石川 真知子 (2006年8月2日更新)
「『映画で学ぶ英語』の授業」 貫井 洋 (2006年9月12日更新)
 

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