近い将来に予想されるカリキュラムの改訂を視野に入れた場合,小学校の英語教育を取り巻く環境には期待と不安が入り交じっている。現実的な視点でとらえた場合,必修教科(必修科目)になったとしても週1時間を超えることは難しいだろうし,教科にならなくても必修になった場合には,「総合的な学習の時間」の何割を使うことができるか,という枠の中で考えたほうが妥当であろう。つまり,多くの父母の期待にもかかわらず,“あれもこれも”やれる時間数ではないということである。
その時間数を有効に使うには焦点を絞ることである。では,何に絞るか? 次の3点が重要である。
- 英語の音声に耳と口を慣れさせる。基本的なイントネーション,リズム,ストレスを含む発音をこの時期に学ぶ意義は大きい。
- ことばの教育を通して異なる文化に対する寛容の気持ちを培う。彼我の文化の違いを知るためには,自国の文化を理解する必要があり,寛容の気持ちは平和を愛する精神を養うのに役立つ。
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基本的な語彙の学習を通して綴りと音声の関係に気付かせる。これには学年進行で,綴りと音声の基本的なルールを優先させながら無理のない文字導入に留意する必要がある。学習スタイルには文字型と音声型があり,小学校高学年では綴りを語彙学習の手がかりとして利用できる児童も少なくない。
上記の3点は何故必要か?
中学校に入ってから始めたのでは遅すぎるからである。中学校で定着しないまま高等学校に進学する生徒が多いから,高等学校では英語を用いての授業がなかなか成立しにくい学校が多い。そのため,教師が英語で質問しても生徒から回答が返ってこないため,教師が答えを言ってしまう場面が非常に多い。これでは生徒の口から出る英語がますます減ってしまう。中学校・高等学校におけるこのような問題点を解決するためにも小学校英語に期待される役割は重要であり,中学校・高等学校側は小学校英語からスムーズに連携するための心づもりが求められる。
上記3点を成功させるにはいくつかの条件整備が必要である。
- 小学校で英語を教える教員がきちんと養成されるまで,視聴覚メディアを活用した教師用教材
を行政機関が供給できるように必要な予算措置をとることである。特に音声面の指導ではそれを十分に活用することが大切である。
- 教師は
基本的な教室英語を必要に応じていつでも使う
ように努力すること。これが教室における“生きたコミュニケーション”になるからである。最初は「紙芝居」的に教材にメモしたものを使っても構わない。使っているうちに慣れるものである。児童は役に立つ「ことばの働き」(functions)を含んだ英語をふんだんにインプットされることになり,自然と覚えてしまう。
- 義務教育の貴重な時間を使って行う教育活動であるから,その中身と結果に関して
適切な方法で評価
する必要があるのは当然である。従来のイメージで評価はイコール「ペーパーテスト」などと狭く考えないで,児童が楽しく授業に参加している姿を適切に評価する視点を大切にしたい。
- 小学校の英語教育を成功させるためには,
すべての英語教育関係者が
,それぞれの役職において,日本の英語教育の底上げをするために
一丸となって協力し合う
ことが前提となる。
読者の皆さんはすでにお気付きであろうが,以上述べてきたことは,現在の小学校で行われている英語教育に関しても十分当てはまることである。地域や学校によって授業時数にかなりの違いがあるために一様にはいかない場合もあるが,基本的なゴールは同じである。
高梨 庸雄
(たかなし つねお)
高校教諭,教育センター指導主事,旧国立大学教授を経て,現在,京都ノートルダム女子大学大学院教授。英語教育学修士(MATESL)
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