どこで区切るのか
のっけから大きな話題で恐縮だが、私はかねがね、いまの6・3制の義務教育システムには無理があるように感じている。発達段階を考えるのなら、(もちろん個人差もあるが)小学2年生から4年生あたりまでと、小学5年生から中学1年生ぐらいまで、そして中学2年生から上というように、3区分に分けるほうが良いように思う。そして、中学1年生初・中期の活動は、どちらかというと小学校の延長線上に位置づけ、1年生の後半または2年生の初めあたりから、中学校で行うべき活動を積極的に取り入れていくというやり方が、現実的ではないだろうか。
中学校で行うべき活動とは
では、中学校で行うべき活動とはどのようなものであろうか。私は、基礎構文の定着とメタ認知能力の育成のための活動こそが、中学校レベルで行うべき活動の中心であると考えている。この2つの活動を中学校段階で十分に行わなければ、言語と学習の基盤がうまく形成されず、おそらくは高校や大学での英語学習に大きな進歩が期待できないのではないかと、研究からも、経験からも、最近強く感じるようになっている。
基礎構文の定着を
基礎構文をしっかりと内在化することができると、どのような利点が生じるのであろうか。まず、独自の英文を作り出すことが容易となり、誤った英文を見分ける力が高まる。また、小学校の英語活動で培われてきた流暢さ
(Fluency) にくわえ、正確さ (Accuracy) も高めることができるようになる。小学校ではあまり扱わない音と文字の関係強化も、付随的に可能となる。
それでは、どのようにすれば基礎構文は定着するようになるのであろうか。私はいつも教科書の音読活動をすすめている。たしかに中学生の声は出にくい。そのためか、形式的に1、2回読むだけで音読活動をやめてしまう事例をたくさん目にしてきた。しかし、これでは基礎構文は定着しない。いわゆるRead
& Look-up
【*1】
やリレー通訳方式【*2】
をはじめとした多様な音読活動を取り入れ、個人、ペア、グループ、クラスレベルで緊張感を保ちつつ練習させ、なおかつ評価(音読テスト)を促進剤として利用し、音読を奨励する。基礎構文の定着を図るには、これくらいのしつこさが求められてくる。
メタ認知的能力の育成を
基礎構文の定着以外で大切なのは、メタ認知能力の育成であろう。メタ認知能力とは、学習の計画をたて、その進捗状況を自らモニターし、必要に応じて計画を変更していく能力のことを指す。あらゆる教科学習の基本にある能力ではあるが、英語の授業を通しても育成が可能である。毎回の授業で目標を確認させ、その目標がどの程度学べたのか、学べなかったのかをふり返らせる。また、目標以外でも、何か新しいことを学べたのか、気がついたのかを報告させる。授業の終わりの5分間でもよいし、家庭学習として記録をつけさせてもよい。最初は教師からのフィードバックに誘導されながらでも、級友の良いサンプルの真似をしながらでもよい。このようなふり返りの過程を経験させることで、将来の自律的な学習の礎を作っていくことが可能となる。自律学習は、高校、大学や社会人になって自然発生的に現れてくるものではない。多くの学習者にとっては、訓練の過程が必要なものなのである。そしてその訓練を行うには、知的発達や学習内容を考慮に入れると、中学校が最適なのではないかと考えている。
おわりに
中学校の教師からは、「生徒を着席させることすら格闘であり、英語の教科指導どころではない」「立ち歩く生徒、暴れる生徒がいて英語の授業が成り立たない」というような、悲鳴にも似た声を聞くことが多い。しかし、このような状況に積極的に立ち向かい、教室に秩序を取り戻し、生徒の英語力を高めつつある教師もいる。そして、彼らの授業の多くに共通しているのは、音読を通して基礎構文を定着させるための活動と、ふり返りを利用したメタ認知能力を高めるための活動なのである。コミュニケーション活動のみに終始するのではなく、進歩の礎を築く活動も取り入れる(言語的・認知的基盤を拡げつつ活用体験をさせる)。どうやらこのあたりに、中学校での英語教育成功の鍵が隠されているように思えてならない。
注
*1. 英文を1行音読するごとに、顔をあげ、テキストを見ることなしに、同じ英文を音読再生する方法。
*2.
日本語訳を読み上げてもらい、テキストを見ずその英文を音読再生する活動。通常1文ずつ、着席順などであてていくので、リレー式という。上述の1と同様、基礎的な音読活動の後に行う発展的活動。
竹内 理 (たけうち おさむ)
関西大学大学院外国語教育学研究科・外国語教育研究機構教授。中学校英語教科書『NEW
CROWN ENGLISH SERIES New
Edition』(三省堂)編集委員。JACET学術賞を受賞した『より良い外国語学習法を求めて―外国語学習成功者の研究』(2003年、松柏社)などの学術書執筆のかたわら、小・中・高の学校を精力的に回り、現場から学ぶ視点を堅持している。
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